持続的社会研究所

勉強会が発足― 持続的社会とは何か―

持続的社会研究所の研究員 「持続的発展sustainable development」という概念は、環境問題の解決を考える際に避けて通れない。一方で、「持続的」といっても非常に抽象的で曖昧であるのも確かである。では持続的な社会とは何なのか、どのようにそれを実現していけるのか、それは環境問題の解決を目指す三四郎の個々の活動とはどのような関係にあるのか―このような疑問について、様々な視点から検討する研究会が今年5月から始まった。研究会の名前は『持続的社会研究所』(Sustainable Society Institute以下SSIと略す)。

 SSI所長の澤千恵さん(教養学部3年)は「環境問題に取り組む時、何を問題と捉えるかが重要になるが、問題認識の背景には必ず理想とする状態についての考えがある。理想の一つとして"持続的社会"があるのだと思うが、それを曖昧に定義しているままだと何も見えてこない。検討すべき課題はたくさんあると思うが、ぼんやりしていること・前提にしてしまっていたことを、一つ一つ明確にしていきたい」と、SSIの目的を語る。

新鮮な切り口でディスカッション

 SSIは、隔週水曜日に駒場キャンパスで開かれており、1年生〜大学院生まで毎回十五人程度が参加している。毎回、3人の学部専門課程生〜大学院生が各々15〜20分ほど基礎知識の紹介や問題提起を行い、その後1時間ほど、発表者たちが事前に相談してきた論点についてグループディスカッションする。各回の題目は表にあるとおりだが、持続的社会を考えるにあたってはちょっと変わった切り口になっている。「ありきたりの問題設定ではありきたりな考えしか出ないから」(徳田君、文学部4年)というわけだ。

2000年夏学期のSSI

 導入   「持続的社会とは」 (5月17日)
 第1回  「コミュニティ」    (5月24日)
 第2回  「農林業」       (6月7日)
 第3回  「科学と政策」    (6月21日)
 第4回  「国際社会と人権」 (7月5日)
 まとめ・全体discussion     (7月19日)

第3回までを終えて

 最初の回ではイントロダクションとして「持続的社会」に含まれるような要素をリストアップし、互いの関係を考えた。環境持続性・循環、といったものから民主主義・公平性・平和・存在の豊かさ・人権など多様な要素が挙げられ、「民主主義や人権などは"環境問題"には含めないで考えるほうが良いのではないか」「しかし、これらは社会にとってそれぞれ必要な要素というだけでなく、トレードオフなど密接な関係にあるため、やはり包括的に考えなければならないのではないか」などなど、活発な議論が行われた。やや抽象的でもあったが、第3回まで終了した現時点で、飯田君(理科二類1年)は「初回で検討した持続的社会のいろいろな要素が、後の回で具体的なテーマについて議論するときに見え隠れしている。有意義な問題提起だった」と嬉しそうに語ってくれた。澤所長も「各回テーマを検討するときも、常に"持続的社会とは?"を問いながら進んでいきたい」と考えている。

 ところで、今学期のテーマ講義の「環境の世紀〜未来への布石VII」((三四郎が企画・運営に協力している教養学部前期課程の授業。本誌九頁参照)には"持続的社会の構築に向けて"という副題がある。SSIと、このテーマ講義あるいは他の三四郎の活動との関係を考えるのも興味深い。例えば、「科学と政策」の回に保全生物学という分野が紹介されたとき、佐藤仁先生の講義でなされた"問題のフレーミングがすでに政策的インプリケーションを持っている"ということを引用して「保全生物学の目的を原生自然の保全におくか・二次的自然の保全におくか、フレームの設定が非常に重要なのではないか」という意見が出された。また「コミュニティ」の回では、なぜ"まち"という単位で持続性を考える必要があるかが問題提起され、きゃんぱすえころじーの目的についてもディスカッションがされるなど、三四郎の活動の理念的部分についても検討がなされている。

 またSSIには本郷キャンパスからの三・四年生あるいは大学院生も多く参加している。上級生は簡単な発表を行う側にあるが、「研究内容を"持続的社会"という視点から整理して報告する機会は自分にとっても有意義。それに対する三四郎メンバーの見解を聞くことができる」(藤崎さん、工学部4年)といったように、発表とディスカッションを通して良いフィードバックが得られているようだ。

 このように、SSIは「持続的社会」という曖昧な概念を少しずつ明らかにしていくことを通じて、同時に環境問題にかかわる様々な知見・視点を整理し、三四郎の活動規範を見直す機会にもなっているようだ。最終ディスカッションではアウトプットとして何が出てくるか、楽しみである。

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