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矢坂雅充




氏名

矢坂 雅充(Yasaka Masamitsu)

所属

東京大学大学院経済学研究科

参考文献

『こよみ』(東大出版)

講義内容要旨

 欧米では、農業政策は環境政策に傾いてきていて、環境の維持とセットで考えられている。一見して環境という名を借りた、農業保護の場合も多い。(例えばスペインでは、ユーカリの植林に対して、環境保護団体が反対運動を行っている。)

 日本では、これまで何となく“環境にやさしい農業”というイメージがあったが、環境を意識した農業政策は始まったばかりである。環境を考える上では、農業が鍵を握っていると思う。そのような中で、日本における農業政策の何が問題なのか?環境と農業を扱う上でのねじれ、難しさを考えている。

 今、3/4年生のゼミでゴミを堆肥にし、それを作物に戻すレインボープランというものを扱っている。これについての報告を、授業の後半に行ってもらう予定である。


環境問題に取り組んだ動機は(原体験)

 よく、「矢坂はなぜ環境問題で研究をしないのか?」と聞かれるが、環境問題は農業問題のどこかで必ず関わっている。高度経済成長の中で、農村のコミュニティや基盤がどのように変わってしまったのか、また、「農村はなくてもいい」という疑問・声に応えたいと思う。

 大学一年生の時、今でいう環境問題を扱ったゼミに参加したのもひとつのきっかけだった。

 新潟出身で、家の裏に半導体の工場が建っていたり、都市以上に農村が大きく変わったと実感している。その変化に大きな興味を持った。


先生の学生時代の「環境」

 岩波出版の『石狩川紀行』に沿って、ゼミで北海道へ行って、石狩川をのぼったことが印象に残っている。(「環境」という名目の講義ではなかったが。)思ったより荒れていて、川と環境について考える機会になった。学生時代に関心を持った環境問題は、やはり水俣病やカドミウム汚染など、農地や土壌・海が汚染されていたこと。科学的な究明ができるまで対応ができなかったことなど。

 現在は、非遺伝子組み替え作物の調査や、酪農関係の研究を行っている。

 日本は特殊な乳製品を作っているといえる。(欧米に魚肉ソーセージがないのと同じように。)そこで鍵を握るのは乳業メーカーであるが、やはりメーカーなので利潤追求を優先させてしまう。日本の牛乳は、那須高原産、岩手産、のように産地ブランドで差別化して売り出しているが、これは米の影響だと考える。(牛乳 は産地による味の差異が一番小さい食品だと考えるのに。)これは、乳業が保護されてきたからだと思うが、もっと安全性・信頼を植え付け、バラエティに富んだ商品を出してもらいたい。

例えば欧米での乳製品には以下のような特徴がある。

  • (1)カマンベールなど、伝統的な製品を保護している。(小規模な 伝統的な農家にメーカーがのっかっている感じ。)
  • (2)新商品開発に常に努力している。(ヤギの牛乳プリン、ヨーグルトの様々なフレーバー、多種多様なチーズ、ミルクセーキ etc.)

日本は新製品の開発に怠慢になっている。例えばお菓子産業に比べると、きわめて薄利多売である。イメージで売るよりも、実際の楽しさや実用性で売り出すべきだ。とはいえ、外資系のメーカーが市場にでてきて、だいぶ変化してきている。規制緩和は国内以上に国外のメーカーにも魅力的である。日本のチーズの味は雪印が造ってきた。雪印のチーズは、輸入したチーズをブレンドして作るため、安定して同じ味を大量生産できる。チーズと言えばみな同じ雪印の味を思い浮かべるのは、日本くらいである。雪印に慣れているため、外国の食べ慣れないチーズが口に合わない人も多い。このように、メーカーは消費者を啓蒙する責任を持っているといえる。とはいえメーカーには、売れるものを提供するというメーカーの理念がある。商品が消費者の嗜好を作るのか、嗜好にあわせて商品を作るのかは、卵とにわとり論になってしまう。


今、取り組んでいること

 環境と離れていうと、酪農とか農業政策を扱っている。長期的な日本の農業の保護のあり方なども。これは、総論ではかっこよくまとめているように見えるが、各論はバラバラであり、そのしわ寄せ(被害)を被るのは結局生産者と消費者である。市場の原則に従って、生産者はリスクを他に転嫁することができない。 市場に対する発言力が弱いことから、歪みが蓄積されていく。そうして、農業を離れていく、捨てる農家が増え、そこに新たに歪みがでてきている。(食品の安全性が犠牲になったり)


私達の日常生活と環境問題とのつながり

 農業は消費者と生産者をくっつける存在だと思う。食生活の輪をつなぐ鍵といえる。


注目すべき環境トピックス

 気になるのは、森林の荒廃や維持の困難さ。
 森林は農業以上にわかっていないことが多い。去年の3月、初めて森にはいった。状態の善し悪しなど全くわからなかったが。脱サラして森林組合に入る人など多いようだし、副業としてまとまった期間森に入ることを受け入れられる社会になるといいと思う。一般の人が森にはいっても、循環させるのが難しいようだ。(人が入れ替わったり、植林はやっても伐採を好む人は少なかったり。)人のつながりを作っていくことが大事だと思う。


環境問題解決に前進するためのキーポイントはズバリどこだと考えるか?

 消費者個々人の、環境が意味する世界を広くしていくこと。(食べていることから農業を考えたり、花粉症から森林の状態を想像したり。)
 スペインではティッシュペーパーはほとんど売っていないし、高くて買えない。紙不足だから。代わりの紙ナプキンは再生紙でできているが、バージンパルプと再生紙の価格差が容認されている。これは、例えばヨーロッパでは直接体験が多いからでは?スペインでは少し前まで都市でも緑が広がっていたのに、現在ある緑はスプリンクラーで管理されていて、他は砂漠のようである。強風で砂嵐がひどい。また、ドイツでは酸性雨が深刻な問題と受け止められている。日本では、情報だけではわからないのではないか。もっと実体験をするべきだ。(子供の森林ツアーなども行われている。お金と時間はかかるが。)/p>


学生へひと言

 想像力を広げられるよう、種を作っておいてほしい。学部時代は、そのあとの30、40、50年分の種をまくように。先生の話をただ鵜呑みにするのではなく、よく考えてほしい。


講義までに考えてきてほしいこと

 どういう食生活を送りたいと考えていますか?
 農家の人が講義に来たときに、一番美味しかった食べ物について、シチュエーションや誰が作ったかなどアンケートを採ったことがあった。学生の答えは、レストランやファーストフードなどが多く、おふくろの味を答えた人が少なかった。「豊かさ」が鍵になると思う。


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