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環境社会科学の方法

*この回の講義は前半を後藤先生、後半を丸山先生が担当しました。*


前半 後藤先生
後半 丸山先生




環境社会科学の方法・前半−後藤先生−

4月27日 後藤則行

イントロ

 今日は30分ほどの時間を使って話をしたいと思います。丸山先生は「環境の価値」についての全体的な話をされるらしいので、私はもう少し現実的な視点からお話をしたいと思います。具体的にいえば、環境経済学という視点から環境問題のお話をしたいと思います。


後藤則行

自己紹介

 最初にすこし、自己紹介をしたいと思います。私は原子力工学を初めは勉強していました。その後経済学について勉強したわけですけど、そのときにも経済活動とエネルギーというものがどのように関わっているのかを考えてきました。
 80s、そして90sになってエネルギーを研究している人にとっては非常に重要な温暖化問題が浮上してきました。空気中の二酸化炭素濃度が増加することで起こる温暖化ですが、これについては、まだ正確にはわからないことが多いのですがいろいろなことが予測されています。例えばハリケーンの多発・干ばつ・水位上昇・砂漠化等です。
 現在は、温暖化は完全には避けれないとしても、緩やかに防止するためにいろいろな研究をしているという段階です。それでエネルギーについて研究している人が温暖化問題に関わっているわけです。


経済学における価値とは

 環境の価値とは一体何なのでしょう。全く価値がないと答える人や、代えられない価値があるという人もいるでしょう。理論的にも現実的にもその価値は測るのが難しいものです。
 そのように価値が定義がしにくいものなのですが、経済的はどのように価値を測るのでしょう。そもそも経済学はモノの価値というものをどのように測るのでしょうか?

 歴史的にいうといくつか価値を測る方法というものがあります。
 一つは使用価値です。そのモノを使うことによって、自分の生活がより豊かになったり、幸福になったりするという意味で、モノそれぞれに有用性という使用価値があるというわけです。
 二つ目はモノを作るときには労働力が必要です。ですからそのものにどのくらいの労働力をつぎ込んだかで測られるべきであるという見方があります。
 さらに、これはキリスト教的な見方ですが、自然には最初から価値基準があるという見方もあります。具体的に言うとより高度で複雑な生物のほうが価値があり、その下に単純生物、さらにしたには無生物がくるといった感じです。

 このような見方があるのですが、現実的に見るといろいろ矛盾が生じます。
 使用価値についての矛盾は、たとえばダイヤモンドは使えないけど希少価値があります。
 労働力についてはどうでしょう。無能な人が7日間作ったものと、有能な人が7日間かけて作ったものは一緒なのでしょうか。このような矛盾が考えられます。
 自然的な見方をすると、ダイヤモンドはゴキブリより価値がないということになってしまいます。


今日の経済学について

 経済学は社会科学というものに分類されています。最後に「科学」とつくのは主観的ではなく客観的だという意味でです。なので今日の経済学にはある合意された見方というもの、約束といってもいいですが、というものがあります。

 消費者主権という考え方があります。これは商品自体に価値があるのではなく、消費者が商品の価値を決めるという考え方です。
 これの前提は「消費者は合理的に行動する」ということです。消費者の行動は思い付きではなく、整合性を持って行動をするということです。あるモノが非常に高い値段に売ってあって、それと同じモノが安い値段で売ってあると消費者は安いものの方を買う。すると高い値段でモノを売っていたのでは売れないので価格競争が起こり常識的な値段になるということです。このように経済価値というのは社会というシステムの反映であり、その中で行動する消費者の行動の反映なのです。なのでこの市場価値というのが真の価値だというわけです。


環境の価値の測り方

 なぜ環境の価値というものが経済学の枠組みの中で見えにくいかというと、環境を売買する仕組みがないからです。ですから何か工夫をしなければならないのです。

 1つの考えかたは人が合理的に行動しているのならば、知らず知らずの内に環境の価値は市場価値の中に反映されているということです。
 たとえば、環境のよい土地は値段が高い、つまり環境の価値が価格に反映されているといった具合です。

 2つ目は、環境を取り扱う市場がないのだとしたら仮想的にそのような市場があると仮定して、その中で人は環境にどういう価値をつけるかを見るという方法です。
 具体的には、「あなたはこの環境の価値をどのくらいだと思いますか?」というアンケートをやってみて、その結果を集計して、政府が行う政策と比較してその政策の費用よりも高いようならばその政策は行わない、といった具合に判断するわけです。このような方法を仮想市場評価法(CVM)といいます。

 3番目には環境問題というのは非常に重要な問題で多くの人が関心を持っているのですから、多くの価値判断があり、環境の価値というものも相対的なものである。このような前提に立って、その相対的な価値をみんなの合意によって決めるという方法です。
 われわれは豊かさをの経済指標(GDPなど)で測るわけですが、これにはいろいろ問題点があります。例えば水質汚染が進めば水道水でなくペットボトルのミネラルウォーターを飲料水として使うようになり、その結果GDPが増えてしまいます。環境的にはマイナスになっているはずなのにGDPで判断するとより豊かになっているように見えてしまいます。その環境汚染によるマイナスを合意によって決めて、GDPと補完的な役割を果たすグリーンGNPというものをつくって我々の政策決定の参考にしていくといったことがひとつの具体例です。


結論−どのように環境を評価するか。−

 CVMやグリーンGNPはいろいろな問題点を指摘されているわけですが、しかし何もやらないことには何も始まらないので、とりあえずやってみて、市民に「これにはこのような問題点があるが、このような点は使えるのではないか」ということを知ってもらうのが第一歩だと思うのです。

後半・丸山先生の講義
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