VIP -Vision Illustrating Project-

 2年間の駒場生活を終え本郷キャンパスに進学する。「専門知識」という大きな武器を手にいれる一方で、代償に失うのは「自由な時間」だ。それぞれに流れる時間のズレが無視し得なくなる中で、駒場時代には自明のものとして疑いもしなかった「いつでもすぐ集まれる関係」が非常に貴重かつ特殊であったことに改めて気づく。その関係が駒場時代を支える大前提であった以上、本郷での活動を駒場の延長に位置付けることはできない。

 では何もできないのか?もちろん答えはNOだ。大切なのは、環境の変化を事実として受け入れ、その新たな前提をもとに「できる何か」を探求し、実現することである。その探求を体現したのが総合ビジョン発信プロジェクト(Vision Illustrating Project :略称VIP)である。VIPは、メンバーが各々の「専門知識」を持ち寄り、総合的な未来のビジョンを提示/発信していくプロジェクトだ。そして、「不自由な時間」の制約の中で「できる何か」を探求する「実験」プロジェクトでもある。

 VIP は1999年に始まる。当時は議論の場を週1回のミーティングに求めたが、それでもメンバーの負担が大きかった。そこで昨年度にはメーリングリスト上の議論を試みた。こうした合理化実験を経てVIPは、4年目を迎えた今年、サブタイトルをVISION2020とした。今年度のVIPは何を実験したのか、プロジェクトを引っ張る杉山昌広さん(5期:MIT大学院修士2年)・徳田雄人さん(5期:NHK勤務)らを取材した。 【記者:井村勇気(9期)】

VISION2020の詳細

 VISION2020は、2020年にフォーカスを当て、どんな社会において、どういう生活(仕事、家庭、ライフスタイル)を自分がしているかをイメージするというプロジェクトである。

 具体的アプローチは次のとおりだ。

 まずは個人個人が心中に漠然と抱いている2020年の理想像をあえて表に出す。それを異なる専門性を有するメンバーが建設的に批判する。最後にその批判を踏み台に、より実感のある豊かな未来像を描き提案する。

 以上のアプローチには随所に前年度の反省が活かされている。前年度行ったメーリングリスト上での活動は立論に多大な時間を要するため、社会人・院生にとって持続可能とは言い難いものであった。そこで発言方法にブレーンストーミングを採用した。完成した立論を初めから必要としないようにすることで、メンバーの負担軽減を図ったわけである。

 つまり、今年のVIPは「メーリングリスト上におけるワークショップ」(杉山昌広さん)を実験したのだ。結果としてブレーンストーミングは成功したようだ。発言の回数も増え、多様なアイデアがぶつかっては磨かれていくという状況も生まれた。

 しかしあいかわらずメーリングリストでの議論はうまくいかなかったという。本郷以降でも「できる何か」はいまだ試行錯誤の段階を抜け切れないようだ。しかしメンバーのモチベーションは下がらない。

 大竹史明さん(4期:農学生命科学研究科博士2年)は、「VIPを通してつながりを保っていくこと自体すごく貴重なこと。」と語ってくれた。また、澤千恵さん(6期:農学生命科学研究科修士2年)は、「今VIPがぶつかっているのは、まだメンバーの中に語るべきものが明確なかたちで存在しないから。将来メンバーが仕事・研究を通じて専門性を磨く中で、語ることができる何かを見つけたとき、VIPの取り組みは大きな意味を持つと思う。」と語ってくれた。

 失敗は成功のもと。不調に終わった今日の実験もいつか「できる何か」として実を結ぶことだろう。様々な壁にぶつかりながらも、まっすぐ前を見つめるVIPの「実験」にこれからも注目していきたい。

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