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『循環』は地球を救うか?



5月10日 安井至


導入

環境問題の解決…個人個人が何を考えるか?→正しい情報が不可欠
個人ホームページで情報開示

日本における「循環型」=ゴミ削減

 平成12年5月・6月 「リサイクル」「循環」と名の付いた法律がいくつも成立(容器包装リサイクル法、家電リサイクル法など)
大本にあるのは循環型社会形成促進基本法
 通産省の産業構造審議会が大体の方針を決め、何となく成立。背景に省庁の縦割り構造がある。
 廃棄物対策としてリサイクルをすすめ、循環型社会をめざす。
 大量生産、大量消費、大量廃棄型経済システムから循環型経済システムへ。特に、大量廃棄→埋立地不足という環境制約に重点がおかれる。

安井至

ゴミの現状

・産業廃棄物:4億数千万トン

・一般廃棄物(オフィスゴミも事業系一般廃棄物として含む):5千万トン
(一人当たり1日1.1キロ。特に単身世帯からの排出が目立つ)

・家電:大した量ではない
家電リサイクル法(事業者に再商品化を義務付ける)成立
←一つ一つがかさばるため・日本の家電にはメーカーの名前がついていて、優良メーカーの承認があればもめずに実現可能だったため

・食品廃棄物:食品リサイクル法で、リサイクルによる20%の減量が定められた。
リサイクル=ゴミをゴミでなくすこと
ゴミ=負の価値を持つもの(0円でも、有価物ならゴミではない)
食生活が贅沢になり、一般家庭の台所から13.4%の食品が手付かずで廃棄されるように。

ごみとしての家電

日本全体の物質収支

 20・2億トンの入力→12億トンの製品を作る。リサイクルに2億トン、最終的に埋め立てられるゴミは8千万トン。
 一人当たり年間17トンの資源を使って、10トンの製品を作っている。

多くのものを使うことの問題点

 隠れたフロー…例えば銅を輸入する場合、銅鉱石は90数%がただの石、しかもそれを掘り出すのに大量の泥が出る。このように、付随してやむをえず多くのものを動かすことに。

廃棄物問題の本質は

ダイオキシン問題

 これまでにダイオキシンで死んだ人は世界で4人。いずれも合成中のことで、普通に死んだ人はいない。
 塩ビが犯人とされるが、純粋な塩ビだけ燃やしてもダイオキシンは出ず、発泡ポリスチレンなどを一緒に燃やしたとき大量に出る。また、生ゴミ中の塩分も共犯である。塩ビを完全に取り除いたからダイオキシンが出なくなるというわけではない。
 そもそも、日本でダイオキシンの発生量が最大だったのは1970年頃。それも焼却起源ではなくPCBという化学物質起源のものだった。ダイオキシンの影響を受けるのは胎児だけなので、現在30歳台の人が一番の被害者と考えられる。
→ダイオキシンは、廃棄物問題の本質ではない

日本はゴミであふれるか

 産業廃棄物・不法投棄の問題はある。しかし一般廃棄物に関しては、様々な政策・技術により減量が進んでだいぶよい状態になっており、最終処分地の寿命は延びている。
→最終処分地の不足も、市民の合意形成と自然保護の問題であり、廃棄物問題の本質ではない

 廃棄物問題は、人間社会の内部で処理できる問題かもしれない。不法投棄・不公平(焼却炉の傍に住んでいる人のリスクは高いのでは)などが問題。ルールを守る社会の実現が必要。

本来の循環とは=循環の再考

熱力学第1法則系:エネルギー保存則、物質不滅の法則
            →完全リサイクル、ゼロエミッションで循環できそうな幻想
   ↓
第2法則:エントロピーは沸いて出る

熱エントロピーの増大

 大した問題にはならない。我々は石油にして10ギガトンのエネルギーを使っているが、地球は太陽からその1万5千倍のエネルギーを受け、そのうち2/3を吸収し、宇宙空間に再放射している。この大規模なエネルギーのフローに、我々が出した熱エントロピーが上乗せされても大したことではない。
 地球温暖化という観点から問題になるのはあくまで、再放射を妨げるCO2などのガスを大気に出すこと。熱エントロピーの影響はまずない。

資源エントロピーの増大

 資源はまとまっているからこそ資源、使ってばらまけば資源はなくなる。いい品位のものがなくなれば、悪い品位のものに移行しなければならない。
 資源をなるべく掘らないためには、リサイクル。ただしリサイクルに莫大なエネルギーを使うと、エネルギー源のためにまた地球を掘らねばならず、かえって資源エネルギーを増やしてしまう。
→太陽光エネルギーを使う
 自動化するより、消費者が手作業で分別

汚染エントロピーの増大

 再生資源は質が悪い→あまり再生させない、始めからなるべく使わない
 十分希釈して、地球に処理を頼む
 地球上にもともと大量に存在している物質をつかう

持続系のために

 地球はなるべく掘らない、埋めない
 再生可能資源を優先的に使う
 使い捨ては禁止
 リサイクルより再利用(同じものを2回使う)
 焼却は最終手段、埋め立ては更に最終手段。そうではないシンクを考える

絶対的5条件

 使用量削減(省エネルギー、省資源、小型化、高付加価値化)
 廃棄物削減(長寿命化)
 人力による分別・リサイクル
 有害物・危険物の強制的回収(「使わない」のではなく、適切に使ってきちんと回収)
 超強力な有害物の発生抑制

5条件と矛盾しなければやった方がよさそうなこと

 再生可能資源の適正使用(使いすぎて再生不可能にならないように)
 分解しやすい物質の使用(石鹸と合成洗剤…)
 毒性の低い物質の使用
 循環型製品の利用

かなりダメそうなこと

 微生物の敵視(人間は微生物と共存しながら生きている)
 昆虫類の敵視
 過度の清潔
 使い捨て型商品
 天然物崇拝(天然物の方が危険なものが多い)
 人工物排斥
 無条件のリサイクル

絶対ダメそうなこと

 利便性、快適性の追求  アメリカンドリーム的考え方(アメリカは途上国…エネルギー消費効率が低い/寿命が短い/出生率も低い)
 過剰品質の追求
 過剰包装
 完全無害化信仰(完全XX化、は大抵眉唾もの)
 シンクを考えない社会システム
 循環を阻害する危険物の放置

リサイクルの理解

 物質は不滅。ものは流れるが、最終的に入った分だけ出ていく。物質のマスバランスを考える。
 100の原料を地球から掘ってきて100地球に廃棄する、というリサイクルゼロの状態からどう掘る量・廃棄する量を減らせるか?

ペットボトル

 現状では、回収したペットボトルは繊維にリサイクル。この再生繊維は質が悪く、需要があまりない。再びペットボトルに再生しても、地球を掘る量・廃棄する量はそれほどは変わらない。
→回収したペットボトルの一部を、洗浄して再利用(=リユース)しては?
 (ヨーロッパ各国では既に日常的に行われている)

ビールびん

 90%がリユース、非常に効率がよい。ただ、消費者は最近びんを使わなくなってきている。

アルミ缶

 近年、CAN to CAN(回収した缶を溶かして再び缶へリサイクル)技術ができた。それでも、掘ってくる量は半減まで届かず、廃棄量もようやく半分程度。

スチール缶

 リサイクルされているとはいえ、全て建材などの他用途へ。スチール缶はふた部分がアルミでできており、分離してCAN to CANを実現するのが困難。鉄鉱石はほとんど純粋な酸化鉄で、こっちを使うほうがずっと楽なため、掘ってくる量は100のまま。

 なるべく内側(インナーループ)を回すのが効果的。このごろは日本でも、目的は減らすこと(Reduce)、それが無理なときは再利用(Reuse)、どうしようもないときにRecycle、という方針になってきた。

各種のリサイクル

容器包装リサイクル法
 消費者→容器包装廃棄物を分別排出し、分別収集に協力
 市町村→容器包装廃棄物を分別収集
 事業者→分別収集された容器包装廃棄物を再商品化(負の価値から正の価値、せめてゼロの価値へ)

2000年4月〜 容器包装リサイクル法の対象拡大
(従来の「ガラスびん及びペットボトル」に加え、ペットボトル以外のプラスチック容器包装・紙パック以外の紙製容器包装まで)
何を集めるか/集めないか、決定権は市町村。

*市町村の金は住民税だが、容器包装を使うか使わないかは消費者の選択できること。分別回収にかかるコストは、容器包装を使う人が負担すべき。

リサイクルすると環境負荷が高くなるもの

・複合材料(アルミとプラスチックを貼り合わせたカレーのレトルトパックなど)
・汚れがひどいもの(マヨネーズや歯磨き粉のチューブなど)
・色などが消せない場合(グリーンのペットボトルは、この4月から使用禁止に)
・リサイクルプロセスのエネルギー消費が大きい
→リサイクルするよりゴミとして燃やす方がましだが、それよりもそのような材質は使用しないのが一番。現在の消費者がそれを受容するかどうかの問題。

リサイクルすべきか否か

ペットボトル

ペットボトルを再生ペット樹脂で作ると、エネルギー消費量は1/3くらいになる。しかし回収に人件費がかかるため、価格は3倍。

*容器包装リサイクル法にしろ、家電リサイクル法にしろ、金さえかければちゃんと資源を回収できるから誰かに金を払わせるようにしたもの。

 再生紙は、ヴァージンパルプより化石燃料起源のCO2を多く排出する。ひとつには輸送に燃料を使うため、また木から紙を作る場合、紙となる部分以外をエネルギーに使えるため。つまりヴァージンパルプでは、化石燃料起源の代わりにバイオマス起源のCO2が多くなる。
 森林の再生に限界があるから、リサイクルはしなければならない。
 非木材製の紙も使われるが、ケナフは環境負荷が高い。草は自立するために無機鉱物の粒を持っているが、それは紙の原料として見たときはゴミであり、効率が悪い。

ゼロエミッション型住宅

紙・金属・ガラス…回収→リサイクル
プラスチック…高炉還元材(コークスの代わり)かセメントの燃料に
生ゴミ…ディスポーザーを使って下水に流し集中処理
→ほとんどゴミを出さない生活は実現。しかしエネルギー、水、Soxなどを考えると環境負荷は低くなるのか疑問。リサイクルすることで出てくる素材をどう上手く使うか、が問題。

リサイクルの種類

1.経済活動として成り立つ…銅、アルミ、貴金属
(以下、経済的にはほとんど成り立たない)
2.単一的な資源・環境負荷の低減…紙、ペットボトル、ゼロエミッション
3.総合的な資源・エネルギー消費の削減…LCAで結論を出す

*LCA(ライフサイクルアセスメント):原材料の採取から製造、使用及び廃棄に至る全ての過程を通して、製品が環境に与える負荷の大きさを定量的に整理、評価する手法

4.総合的な環境負荷の低減…LCAで結論を出す
5.持続性社会の実現を指向(ものは大切に使おう)
6.社会的責任としての循環…例:リコー(プラスチック部品に細かく番号を振り、手作業で分別・リサイクル。企業の社会的責任としてそれを行う)
7.国内雇用の創出のための循環
  …排出物は国内資源と考えられる
   リサイクルは比較的労働集約的
   あまり大きな価値は生まないが、大量廃棄によるマイナスの価値を消す効果はある
  →社会的に支援することは間違いではないと考えられる

家電リサイクル法

テレビの重さの大部分はブラウン管。ブラウン管のリサイクルが、今行き詰まっている。
・製造拠点の海外移転
・従来の灰色着色ガラスから無色ガラスを使うように
 着色ガラスはビールびんにすればよかったが(シンク)、ビールびんの生産量は減少している

修理か、新品か

 90年代までは間違いなく新品だったが、最近は修理の時代に。
環境面:修理…国内輸送
    新品…資源採取(国外)、製造過程の環境負荷(国外)、輸送負荷(国外・国内)、ゴミの発生(国内) 経済面:修理…国内雇用をうむ
    新品…金は国外流出
ローカルプロデュース(地域で作って地域で売る)を日本でもそろそろ考えねばならない時代かもしれない。グローバリゼーションからいかに脱却するか。

プレミアム経済による問題解決

 一般に、経済発展につれて公害型環境汚染は増加し、ピークを越すと公害は低下する。日本は1970年頃ピークを迎え、現在は世界的に見てかなり環境のよい国になっている。
 しかし、今後経済を拡大していこうとすると、資源・エネルギーなど、ものの消費量=消費型環境負荷を増やさざるを得ない。デンマークは環境税の導入などで、経済発展を遂げながらエネルギー消費量を削減した。日本の今のデフレ型経済はエネルギー・資源の無駄。ものの使用量は下げながらも儲かるようなものを作っていかねばならない
→プレミアム
  ブランドプレミアム
  超小型プレミアム
  使い心地プレミアム
  長寿命プレミアム
  エコプレミアム(資源・エネルギーなどに対する生産性が高く、トータルに環境負荷が低いが、価値は高いようなもの)

新温暖化防止大綱を読んでも、日本は「現経済体制の維持」を方針に掲げるばかり。
自動車がグリーン税制化されたが、その分類基準はあてにならない。
この現状をどうしていくか?

環境問題の解決の本質=軟着陸
環境問題といっても、困るのはおそらく我々ではなく、100年後、200年後の未来世代。
「自分の健康の維持」「快適な生活」といった、遺伝子レベルにすり込まれた欲望と、「未来世代との調停」といった大脳のみが可能にする抑制。どちらが勝つか?欲望が勝ってしまうなら、どういう社会システムを作って循環型社会を実現していくべきか?それがわれわれに与えられた課題である。

「ゼミ『環境の世紀』演習編」
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