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地球環境とエネルギー

――地球温暖化問題を中心にして21世紀のエネルギーのあり方を考える――


5月17日 山地憲治


地球環境問題の展開

酸性雨

1979年:長距離越境大気汚染条約、1985年:ヘルシンキ議定書(SO2の30%削減)

 硫酸、亜硫酸、硝酸などの酸性の物質が雨に混じって落ちてくる。これを酸性雨と言う。酸性雨問題は国境を越えた環境問題である
 酸性雨は地球環境問題というのはオーバーな言い方で、越境環境問題である。北アメリカはカナダとアメリカ、あるいはアメリカの州の間で対策がされている。東アジアは中国、韓国、北朝鮮、台湾、日本という国で経済発展段階が違うのでまだ条約には至ってない。


山地憲治

オゾン層破壊

1985年:オゾン層保護のためのウィーン条約、1987年:モントリオール議定書→特定フロン全廃

 オゾン層破壊の原因物質は特定フロン。人口の化学物質で、極めて安定。大気中に出しても安定なものですからいっこうに壊れない。フロンという物質が成層圏まで行くと安定なオゾンも分解されてしまう。
 85年に成層圏オゾン層保護のためのウィーン条約ができました。2年後の87年にはモントリオール議定書ができている。目標は2000年以前にはフロン全廃ということになって、今は生産はしていない。予防原則という点で地球環境問題の中でお手本となるものである。モントリオール議定書というのは地球環境問題にとって非常に重要な議定書である。これを取りまとめたのがいわゆる国際環境NGOという任意団体。モントリオール議定書を作りあげるにあたってあきらかに非常に大きな貢献をした。

地球温暖化

1988年:トロント会議→COP3(地球温暖化防止京都会議)→京都議定書→2000年:COP6(part1)→2001年:COP6(part2)→COP7→2002年:Rio+10(京都議定書発効へ)

 環境団体を中心に温暖化に対しても80年代に色々な研究が進んで、今アクションを起こさなければ手遅れになるということになってきた。それとあるていど平行して原子力はうまく進まない、自然エネルギーはいつまでたっても高い。一方で化石燃料は負荷を与えている。天然ガスがどんどん見つかってきて、21世紀は天然ガスの時代になりそうだということがわかってきた。そうするとやはり温暖化にも手を打たなけばならないだろうということになって、1988年にトロント会議があった。
 この会議を受けてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)という組織が作られ、専門家が参加している。IPCCが科学的な研究をまとめていって、レポートを3回出した。1回目が1990年、まず条約を作ろうという提言をする。それを受けて、92年地球サミットがリオデジャネイロで開かれて、そこで条約はできました。そこから毎年条約を結んだ国が集まって、年に一回会議をする。それがCOP(気候変動枠組み条約締約国会議)です。三回目は京都で行なわれた会議で、ここで議定書の案が採択された。今年は温暖化にとって重要な議定書が発効するかどうかという年です。


地球温暖化の科学(IPCC第3次報告から)

 一番新しい報告というのはこういう風になっている。

  • 近年得られた、より強力な証拠によると、最近50年間に観測された温暖化のほとんどは人間活動によるものである。
  • 現在のCO2濃度の増加率は少なくとも過去2万年で例のない高い値である。
  • 21世紀に予測される気温上昇率は・・・過去1万年の間に観測されたことがないほどの大きさになる可能性がかなり高い。
  • 最小の資源しか持たない人々は最小の適応力しかなく、最も脆弱である。

 地球の全球平均温度はどれくらいかというと、15.5度。1900年から2000年にかけて約0.6度〜0.7度上がってる。1000年間で見ると、1000年からずっと安定的なものが1900年になって、0.6度上がっている。こういうのを見ると、このまま放っておいてはいけないということになる。これがなぜ起こったかというと、温室効果。温室効果ガスというと、水蒸気(ここでは無視)、二酸化炭素、メタン、N2O。
 二酸化炭素は1800年くらいまではずっと安定。ところが1800年から急に上がり始めて、今370ppmちかくまで上がっている。それからメタンは750ppbでずっと安定していたのが、1800年くらいから上がってきて、今は1750、倍以上になっている。メタンやN2O、こういうのも一緒に考えていくと、二酸化炭素だけを考えていたときよりもはるかに厳しい。

硫酸エアロゾル

酸性雨の原因である硫黄酸化物からできる粒子。その粒子は大気中で太陽の光を反射する。
→冷却効果がある
→公害対策や酸性雨対策で1970年から減ってきた
→温暖化に寄与(他の環境問題とのジレンマ)

 この部分が特に90年代に顕著になってきた。温度上昇は温室効果ガスの濃度の上昇による影響と、エアロゾルによる反射能力の低下が影響していると、考えられている。


全球平均温度

赤線・・・全球平均気温
灰色の線・・・それぞれのモデル

(a)Natural:自然の変動(太陽活動、火山の爆発等)
(b)Anthropogenic:人為的変動(自然変動は無視)
(c)All forcings:人為的変動と自然変動を合わせたもの→全球平均気温と一致

 特に最近の温度上昇は人為的なものだという強いバロメーターになる。

全球平均温度

2100年の温度

一番上の端は5.8度、下の端は1.4、IPCCのレポートでは1.7
1.4〜5.8くらいの幅で将来上がる可能性がある
→しかし我々が将来どんな生活をするか、どんなエネルギーを使うかによって変わる

 前回はだいたい2度から3度くらいと言ってたが、今回いきなり6度上がった。その原因はSO2エミッション。公害や酸性雨の原因である二酸化硫黄の排出の想定値が前回と今回で大きく違う。他の環境改善にはなるのですが、反射率が下がるということで、温暖化がより厳しくなる。

海面上昇

 海面上昇ですが、海面上昇というのは100年オーダーではとても見れない。最初の海面上昇はいつ起こるかというと平均的に言うと50年後くらい。温暖化による海面上昇というと、グリーンランドなど外国の氷が溶けて起こると思ってると思うんですが、2100年程度の時間では海面上昇が起こるのは、海の表面の水が膨張するとき。グリーンランドの氷は溶けるかもしれませんが、2100年までには南極の氷が溶けることはまずない。ときどき北極の氷が溶けて海面上昇が起こるという人がいますが、皆さんもご存知のように浮かんでいる氷が溶けても海面は上昇しない。

 温暖化の現象を、こういう風にサイエンスを理解して、対策も理解すると、現象は産業革命以前の280ppmという状態にするのは無理。やはり二酸化炭素の濃度は550ppm(産業革命以前の倍くらい)まで行かざるをえない。550ppm、ここで安定化させる、これが実行可能なサイエンス。
 550ppmくらいの上昇ですと、温度上昇は平均的に3度から3.5度くらい。しかしこの程度の温度上昇では適応せざるを得ない。適応するために世界で協力するというのが実行可能なサイエンス。100年ちょっとの間で二酸化炭素濃度を安定化させる、そのために何をしなければならないかというと、排出量。我々が将来に向かってやらなければならない二酸化炭素の削減というのは、ものすごく大きい。そのときに温度はどうなるかというと、濃度が安定化しても温度は遅れて上がる。もっと遅れがあるのは熱膨張による海面上昇で1000年の遅れがある。それから氷河が溶けるというのもタイムラグがあって、氷河が溶けることによる海面上昇というのは1000年後の話になる。


人類の消費エネルギー

 我々がどれくらいエネルギーを使っているかというと、12兆W。世界は60億人いますから、一人当たり2000W、つまり2キロW、これが全人類平均の現在のエネルギー消費量。残念ながらこのなかに食料も入っていて、2500kcal/day、だいたい100W、アフリカの人も含めて2000Wというのは、食料よりもたくさんエネルギーを使っている。2キロWは平均で、日本では5キロW、アメリカはもっとひどくて11〜12キロW、非常に大きい。12兆Wを石油換算すると年間にして、だいたい90億トンくらい。ほとんど化石燃料から得ているわけですが、それを原子力や自然エネルギーから入れようとしているわけです。

太陽エネルギー

 太陽はどれくらいのエネルギーを地球に与えているかというと、173,000兆W。このうち、反射されているのは約30%、これは可視光で、地球が青く見えるのは反射光。残りの70%は地球に吸収されている。吸収されたものがあったまった温度に対応する波長でもって、赤外線で出て行く。温暖化というのはこの赤外線が出て行く効率を悪くする。いったん大気中で吸収してしまうわけです。

バイオマス、自然エネルギー

 光合成、バイオマスですが、これもエネルギー資源で、われわれの食料などで、これは80兆W、現在の消費エネルギーの7倍くらい。このバイオマスを使うというのはかなり有効。風邪や波が370兆W。

地球の温度

温室効果がなければ、255K、−18℃
→温室効果を入れて計算すると、288K、15℃
→温室効果ガスがあるから、地球の温度は全部外には逃げていかない

 温室効果を非常に悪いように言いますが、最適な15℃を作ってくれてる。33℃も上げくれているのは温室効果のおかげ。それの濃度がちょっと上がったために3℃とか5℃とか上がるというのが言われている。これは自然ではなくて、我々の、特にエネルギーの活動によって起こるというものです。


海流

 海流も地球の温度に関係する。海流といっても表面ではなくて、深海と表層の間の海流。海流が北大西洋で沈む。太平洋でまた戻ってくる。深海というのは冷たくて表面が冷える。暖流でヨーロッパは暖められているが、落ち込んでいるところで、グリーンランドの氷河が溶けて、北大西洋の塩分濃度が薄くなって、そうすると水が軽くなりますから沈み込みが遅くなります。落ち込みが遅くなると全体の速度が遅くなると。そうすると非常に皮肉なことに、ヨーロッパは寒冷化する



京都議定書

数値目標

 京都議定書は比較年の1990年の温室効果ガス排出量に対して、2010年を中心とする5年間の平均温室効果ガス排出量をいくらにしなければならないかという数値目標を作った。これが一番京都議定書の中では重要なことです。これを作成するための京都メカニズムという柔軟性を作った。各国に数値目標を与えたが自分の国だけでやらなくてもいい、他の国と協力してやってもいい。
 ヨーロッパのほとんどの国は−8%、アメリカは−7%、日本、カナダ、ポーランド、ハンガリーは−6%、クロアチアは−5%、そしてロシアとウクライナの0%というのがある。0%というのは柔軟性メカニズムで問題となってくる。0%とはつまり90年に出していた量と同じ量を2010年を中心とする5年間平均で出していいということです。ほとんどの国は削減しなければならないのですが、ロシアとウクライナは、ほっといても0%より少ないんじゃないかと言われている。

柔軟性メカニズム

 並んで大事なのが柔軟性メカニズム、京都メカニズム。自分でやらなくていいというメカニズムが三つあります。
 一つは排出量の取り引きができる。ロシアの90年の1%というのは日本でいうと2%になる。ロシアはほっといても0%になりそうもなく、−1%になる。−1%を日本に売りますということになると日本は−2%分はよくなるから−4%になる。非常に助かります。しかし総量は変わらない。地球温暖化というのは大気中の濃度が問題ですから、排出量が変わらなければ効果は同じですので、これ自体は悪いことではない。私は排出量取り引きには非常に賛成です。ただ排出量取り引きはロシアの問題があって、非常に非難されているのですが、それが京都議定書ではできるということです。
 あとの二つは共同のプロジェクトができる。例えば日本とロシアが共同でロシアでプロジェクトができる。ロシアは石炭火力の効率が悪いわけで、ロシアはそれを取り替えるつもりはないけれども、日本がお金を出して、最新鋭の天然ガスにすると、50万トンくらい年間削減できる。
 ロシアと日本では両方とも数値目標がある国ですが、日本と中国の場合、中国ではまだ枠が決まってないのですが、中国も効率の悪い石炭火力がたくさんありますから、中国へ行って、日本が同じようにして50万トン削減できる。中国で50万トン削減したのだけれども日本にも20万トンくらい与えられる。中国は削減したが目標がないからどうするかというと、中国に関して言えば今までの開発援助にプラスしてやってくれれば自分のところのエネルギーが新しくなる、途上国にもインセンティブを与えられる。つまり数値目標を持つ国と、持たない国がやる共同プロジェクト、これをクリーン開発メカニズムという。
 この三つが柔軟性にとって代表的なもの。これは場所の柔軟性です。これは地球温暖化特有で、温暖化はローカルな問題ではなく、排出量の問題で、どこでやってもいい。日本でやると高いが、中国やロシアでは安いからそこで日本のお金でやってもいいが、ロシアの場合は問題である。ロシアの0%というのは90年に戻るということだが、本来は買えないようにすれば下がるわけです。ロシアから買えるようにしたためにその分余計に温室効果ガスが出るわけです。排出量取り引きという制度が悪いというよりはロシアに対する0%という数値目標が悪い。

時間軸上の柔軟性

 時間軸上のフレキシビリティーというものがあります。これはどういうことかというと、2100年の温室効果ガスを550ppmにしようとすると、2000年に減らすのか2010年に減らすのか、2020年に減らすのか自由度がある。時間軸上のフレキシビリティーというのも欲しい。これに関しては借金と同じです。2010年に日本は6%削減するということですが、がんばって8%削減した、2%余計に削減したら、それは貯金ができます。2015年のときに10%削減するとなったときに2%貯金があるので、8%になる。そういう風になります。しかし日本は2010年が一番厳しくて、人口もピークですから、2015年なら余計に削減できるだろうけど2010年はきつい。2%借金する、その代わり2015年には2%を3%にして返す。10%削減しろとなったら、13%削減する。というのが借金。しかし今回は借金はできないだろうといわれている。借金ができないからといって、数値目標ができなかったらどうするかというと、そのときには制裁をするということになっている。つまり2010年の目標を達成できなかったらそれの1.3倍、30%の利子をつけて次に返さなければいけない。ある意味では借金もできる、まあ罰金みたいなもんで、国の面子に関わると思いますがそういうことができる。

世界のCO2排出量

 二酸化炭素が世界でどれくらい出るかというと、上がっているけれども、先進国全体ではほぼ横ばい、旧ソ連はソ連崩壊以降下がっている。全体を上げているのは明らかに発展途上国。

 アメリカのGDPは順調に伸びているけれども、温室効果ガス自体はそんなに伸びていない。日本は90年代は停滞していて、温室効果ガスは80年から90年に掛けて伸びている。ロシアはどうかというと、経済活動が大きく下がったら、温室効果ガスも大きく下がっている。この状態ですから、90年と比べて、今30%以上下がっている。あと10年でこれくらいまで回復するとは思えない。ですからロシアの0%というのは甘い。ロシアは排出量取り引きのなかで色々な国に売って収入を得られる。そこが非難されている。

温暖化対策

 価値への欲求に対して物を作るわけですけど、物を作る際に、同じサービス価値をたくさん物を作らずにできないかと。それはリサイクルとか、製品の効率化ということですね。同じプロダクションを作るのにエネルギーがいるのですけど、それに必要なエネルギーを減らす。節約して我慢するというのは欲求水準自体を調整してエネルギーを減らすということですけど、同じ欲求水準を少ないエネルギーで満たすのがエネルギー効率の改善です。
 しかし0にすることはできない。エネルギーは消費するのだけれども、そのための温室効果ガスの量を減らす。それはエネルギーシステムの脱炭素化という。三割近くを石油、三割弱を石炭、二割強を天然ガス、でだいたい80%強を消費しているわけですけど、それは全部二酸化炭素を出す。炭化水素の原料でない、原子力や自然エネルギー、バイオマスに変えていくと、場合によっては賞味0になる。こういうやり方をして、脱炭素化ができる。脱炭素化というと必ず自然エネルギーとか原子力と皆さん一般的に思うのですけど、石油、石炭、天然ガスというのは、炭素と水素の比率がだいぶ違います。石炭は、炭素1個に対して水素は0.7くらい、石油は炭素1個に対して水素は1.8くらい、ところが天然ガスは主成分がメタンですから、炭素1個に対して水素は4個。そうすると天然ガスを燃やすとかなり水素がでる。同じエネルギーを得るのに、石炭から天然ガスに変えることによって、二酸化炭素の排出量はだいたい4割になる。
 原子力やって、天然ガスやって自然エネルギーやっておしまいかというとそうでなくて、大気中に出して濃度が上がることが問題ですから、二酸化炭素を回収します。硫黄酸化物も取って、それで硫黄は石膏かなんかに使って、天然の硫黄鉱山が全部つぶれたくらいです。同じようなことで、カーボン、二酸化炭素も回収することができますが、問題は回収した二酸化炭素を何に使うかということです。
 植林するという手もある。しかしそれもできないとなると、今度は気候制御という考え方を持っている人もいる。硫酸エアロゾルで、反射率が上がることによって、人工的に反射率を上げようというものです。しかしそれでも温度は上がってくる。3.4度くらいは上がるというのは私の見解ですが、それに適応する。海面上昇が起きれば堤防を高くし、気温がちょっと下がればそれに合うような農業生産を考える。


地球温暖化対策の究極の目標

 まず目標なんですけど、京都議定書というのは地球温暖化対策の本当の最初の一歩です。究極の目標は実際に気候変動枠組み条約に書かれていて、
 目標水準:「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化。」
 排出量でなくて濃度を安定化するというのが究極の目標。そこでシミュレーションをします。どういう時間経路で、どういう対策を組み合わせて、それをどこでやるのが最適か、そういう問題をやるわけです。2100年の大気中濃度を550ppmに安定化するという制約条件を入れて、エネルギー需要のシナリオを入れて、各地域の対策のデータを入れて、それでコストが一番少なく究極の目標を、とりあえず550ppmとおいたものをどうやって達成できるかという、計算をするわけです。BAUというのは二酸化炭素のことは考えないで、需要を最小のコストで達成するというものです。究極の目標は550ppmで、これは2100年の濃度を550ppmに抑えるという条件の下で最もコストを最小にするというものです。COP3foreverというのをやったが、これはダメである。京都議定書というのは温暖化対策の第一歩ですが、第一歩としての価値しかなくて、温暖化の究極目標とは程遠い。何がいけないかというと、京都議定書は途上国に制約がない。途上国にも付き合ってもらわなければならない。途上国にもある一定の、ゆるいけれども制約をつけるとどうかというのが300%。途上国に90年の3倍までの量は出してもいいというものです。


究極目標への戦略シミュレーション

 二酸化炭素のことを考えずに最適化エネルギーシステムを出した場合と、二酸化炭素を目標を決めて最適化エネルギーシステムを出したものですが、BAUでは天然ガス、石油、石炭、2000年から2100年まであいかわらず三種類の化石燃料を使っている。特に石炭の量が多くて安いものですから、2100年では石炭、石油、天然ガスが使われ、原子力や自然エネルギーがほとんど入ってこないというのが一番安い。ところが550ppmという制約の下で最適な対応を取るという風にすると、まず全体の省エネルギーが起こる、エネルギー生産の低下が起こる。化石燃料のなかで、石炭は大幅に減る。石油もかなり減る。天然ガスはむしろ21世紀には増えるわけです。天然ガスは一番大きなエネルギー源となっている。天然ガスは少なくとも21世紀には温暖化に適応したエネルギーです。大きく入ったのがバイオマス。原子力は高いものですから、BAUではあまりないですが、温暖化対策ということが必要になってくると、21世紀後半から原子力は上がってきます。自然エネルギーとか太陽電池とかもありますが、バイオマスと原子力が化石燃料以外では重要となってくる。


 二酸化炭素の排出量ですが、BAUという温暖化対策のことを考えないとこうなるのですが、これが550ppmだとこうなる。2100年には今よりも半分くらいにしなければならない。本格的に対策を始めるタイミングは2040年くらいから。ここから落とすのに、どんな技術、対策が使われているかというと、大きいのは省エネルギー。それだけではダメで、水色のは天然ガスを使うというもの。黄色はバイオマス、自然エネルギーのバイオマス。太陽電池などもありますが、自然エネルギーではバイオマス。青色が原子力。省エネルギーもやるし、天然ガスも使うし、自然エネルギーも使うし、原子力も使うし、こういうのを計算してでたのがこの結果です。つまり温暖化対策というのはどれもがんばらなければならない。このモデルの結果はどこでどういうものを使うかといったものまででる。


 BAUのときは21世紀の終わるころには途上国は先進国の2倍以上。550ppmだと全体でこれなんですけど、COP3は途上国に全く制約を課さないと途上国はずっと伸びて、2100年エンドではBAUよりも余計かかる。先進国は温暖化対策をしなければならないから化石燃料をあまり使わない。そうすると安い化石燃料を途上国が余計に使えるようになって、余計二酸化炭素が増える。ここにもジレンマがある。だからやはり京都議定書だけではダメで、なんかとかして欲しい。300%という、先進国にはさらにがんばってもらって、途上国にも90年の3倍の排出量という制約を付けると、ほぼ同じになってくる。濃度ですけれども、BAUは制約を課さないんですけど、COP3だけだとほとんど変わらない。550ppmだとこの程度。300%にすると、途上国にも付き合ってもらうとだいたい550ppmくらいの濃度が達成できる。京都議定書では2010年あたりまでは低いんですけど、2010年くらいまでやるべきことは京都議定書でもいいのですけど、やはり途上国の参加システムは変えていくことが必要。


主要な結論

  • 技術の組み合わせで対応可能
  • 削減のタイミングに関する柔軟性が重要
  • 京都議定書は重要な第1歩
  • 将来における途上国の参加は不可欠
  • 21世紀も化石燃料は重要な役割を果たす

 今回はエネルギーだったんですけど、それ以外にはリサイクルや適応、あるいはライフスタイルを変えるという要求水準自体を変えるというのもありうる。ただ削減のタイミングに関する柔軟性、京都議定書は場所に関する柔軟性というのは論じられたのですけれども、削減のタイミングに関する柔軟性が重要である。京都議定書というのは色々と問題があるかもしれないですけど、将来における途上国の参加は不可欠である。そうでないと究極目標は絶対に達成できない。もう一つは、21世紀も化石燃料は重要な役割を果たす、と思われる。そのためには二酸化炭素を回収して処分しなければならない。ということです。


 ひとつレジメで修正しておいた方がいいですね。2010年に向けてのわが国の取り組みのところで、森林の正味吸収で3.7%と書きましたがこれは政府の前の目標で、98年のものです。今年の3月にこれを直したんです。私はあきれたんですけど、この3.7を3.9に直したんです。日本の森林にこんなに期待するのは無理だろうと思うのですが、これを3.9にして、0.2%分どれを減らしたかというと、排出権取引とか、JI/CDMの1.8だったのを1.6にした。数値はあっているのですけど。この議論をやりだすとなかなか大変ですので、この辺で終りにしたいと思います。



Question

 最後のお話で森林の正味吸収を3.7から3.9にしたというのは、どういう形で定量化されて、どういう形で認められるのか?


Answer

  森林の効果については非常に議論のあるところで、京都議定書にきちんと書かれているのは、1990年以降植林したもので、約束期間である2008年から2012年まで育って、そうやって吸収したものは入る。それは実は非常に少ない。日本の政府はそれプラス、それ以前に植えたものでも定量していますし、森林を管理することによって木が順調に成長する、そういうのもカウントしている。アメリカが降りて、日本が批准しないと京都議定書が発効しそうにもない、ある種日本がキャスティングボートを握った。日本の発言力が増した結果日本の言い分を認めてくれた。それで関係の政府の人が色々計算をしたらしいです。そのときに98年の京都会議のときに計算したときは3.7だったんですけど、最大限の計算をしてみると3.9%までできるという計算が出たらしいです。それでこれを採用したということです。京都議定書に明瞭に書かれている90年以降の植林だけだと、これより一桁少ない1%以下しかできません。あともう一つはエネルギーをいくら使ったかは統計があるのですが、木がどれくらい成長してるかなんてのは誰がわかるのでしょうか。だからはっきりとわからないものを単に計算だけして、それを認証するような機構をもっているわけですけど、この木の吸収というのは非常に不確実性が大きいものだと思います。だから3.7から3.9になっても、それほど大きく変えたというわけではなくて、大きなことは新規植林だけでなくて、元々ある種の管理による削減も含めて考えるということが、認められるようになったことが一番重要だということです。

ゼミ「『環境の世紀』演習編」
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