第2回講義内容

4月26日

「技術と社会 ― リサイクルシステムが意味を持つ条件」

教 官:小宮山 宏
所 属:東京大学大学院 工学系研究科化学システム工学専攻
配布物:レジュメ(A4 1枚)



<講義内容>



リサイクル アルミ・紙・鉄・プラスチック



イントロダクション

地球環境問題 酸性雨・オゾン層減少・熱帯雨林減少・海洋の大規模汚染・
野生生物種絶滅・地球温暖化

地球温暖化について
加害者 はっきりと特定しにくい
被害者 人類一般
車の使用、牛肉の消費(牛肉は米の10倍のCO2を発生する)、新聞の消費
 →犯罪者

温暖化問題→いろいろな問題につながってくる

惑星の地表温度の決まり方
太陽からの入射 πr^2J
赤外線放射 4πr^2σT^4
πr^2J = 4πr^2σT^4
よって T=278K

実際にはこの温度ではない 崩す理由
1. 反射
2. 温室効果 CO2やH2Oは赤外線を吸収→放出
  (半分は外側に、半分は内側に)
  可視光は吸収されない
地球の温度 278K→(albedo)→255K→(GHG)→288K ここまでは事実
288Kという温度 きわめてラッキー
 しかし、エネルギーバランスが崩れば、それまで
cf. 火星225K 金星700K(90atm、ほとんどがCO2)

米国では科学的証拠をもっと集めようという態度
→しかし、温暖化は不確実ではない、明確な事実

What is a fixation?

君たちの時代 25℃上がる恐れ

CO2
陸3 海60 大気1 1% a year

CO2対策
1. 発生抑制
  新エネルギー(太陽・核・地熱の三つ) 派手
  省エネルギー リサイクルもこれに含まれる 地味、しかし大切
(根拠:奇跡の10年 図5-2
GNPとエネルギー消費量との比例は当たり前ではなかった
原因として 人々の意識変化
 それ以上に 技術の進歩(←人々の努力))
第1次エネルギー危機が発端(1バールあたり$2〜4 → $20)
  植生保護

省エネルギー策として、リサイクルを取り扱うべきだ
(リサイクルはごみ問題とも関連する)
リサイクルをどう合理的にやるか?

事例1 アルミニウムのリサイクル
酸化アルミニウムの還元で製造(電気分解) 水と同じ
  Al2O3 → 2Al + 3/2O2  100のエネルギー
日本では今はやっていない(電力料金が高い) → 安い諸外国へ移転
日本のアルミニウム産業 アルミニウムの地金を輸入して、それを加工
アルミニウムのリサイクル Al → Al 溶かして成形する
 *上の2つは、ともに融解するところにエネルギー
  Al(solid) → Al(liquid) 1.3のエネルギー

事例2 鉄のリサイクル
表5.2
  Fe2O3 + 3/2C → 2Fe + 3/2CO2 412
  Fe(solid) → Fe(liquid) 15.2
日本=1 旧ソ連・中国=1.8
  日本の技術は世界で最高水準
  同じ原理なのにエネルギーの使用量が各国で違う → 技術の差
米国=0.9 日本より技術が遅れている 何故?
  鉄が昔から普及しているため、スクラップの鉄を使う(リサイクル)
  → エネルギー消費の抑制
  日本 新:リサイクル=70:30 米国 55:45

鉄・アルミニウムのリサイクル……エネルギー効率から見て明らか

リサイクルの論理
1 ごみを減らせ
2 節約せよ(物質・エネルギー)
   アルミニウム・鉄の場合、物質は十分ある
   石油は30〜100年 エネルギーを節約せよ
リサイクルはシステムとして考えよ

事例3 プラスチックのリサイクル
石油 2億t輸入 → 1.8億t 燃焼→エネルギー
0.2億t プラスチック

0.1億tプラスチックを集めたら
石油 1.9億t    → 1.8億t
   0.1億t(←)   0.2億t
1.9億tの輸入ですむ

集めた0.1億tを燃やすべきか?プラスチックにすべきか?

PETボトルがそのまま使えるなら、それが最善
 …… システム作りが大変(選別して集めなければならない)

産業廃棄物(高純度) → そのまま再生がいい
しかし、現実では、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、
ポリ塩化ビニルが混じって出される
これをそのまま融解しても、きわめて質の低いポリマーしかできない
(植木鉢に使える程度)
それだったら燃やした方がいい
C8H18 → (CH2)n
→  -ベンゼン環
   (C-C)
(CH2)n → (CH2)n
集めたプラスチックと石油には、スクラップ鉄と酸化鉄ほどの差はない
似たようなもの

Reduce Reuse Recycle(始めの2つはやることに関して異存はない)
(Recycleが問題)

事例4 紙のリサイクル
熱帯雨林 → 紙 → 燃焼 従来の方法 当然、弾劾すべし
 日本では、もうやめている
  紙 → 紙 これはリサイクル
バイオマス → 燃焼 誰も反対しない
(とうもろこしなど)セルロースとリグニン (太陽エネルギーの利用)
計画伐採+植林 → 紙 → 燃焼 バイオマスと同じ
 むしろいいかも
オーストラリア 10km四方で500万円 トウモロコシを植えてバイオマス
cf. 日本の家屋全てに電池 → 全エネルギーの10%にしかならない
   土地が高すぎる
小宮山私見
地熱は間に合わない(高温岩体発電)
核は問題を抱えている
太陽 水力は利用済み、残りはバイオマス、風力、太陽電池

紙のリサイクル
量の問題と効率の問題 本当に将来の役に立つのか
呪文ではなく、論理の問題



大切なこと

エネルギーは、環境問題と関連
Reduce、Reuse……これは誰でもいう
ex.奇跡の10年(日本の誇るべき状況、世界のどこにもない)
節約せよ → 最終的には、エネルギーの節約に帰着、物質は間に合う
全体を「システム」として捉えて、本当によいかどうか、考えるべき





<講義後の質疑応答>

(Q) 奇跡の10年は、利益追求の結果、行ったもの
経済効率の悪いシステムなど、企業がやるわけがない。
(A) 確かに経済問題
しかし市民運動が盛り上がれば、企業も倫理的にならざるを得ない
ex.ドイツ 法律でリサイクルを徹底
(但し欠点も 何でもリサイクルをすれば良いというわけではない)
環境税、補助金という手も 国際条約
 → 無理矢理やらせることもできる
(再Q)経済優先の中国には通用しない
(再A)序章参照。
途上国「貧困よりも汚染の方がいい」
答えはない そうしたらいいのか (学生に向かって)考えてくれよ
君たちがこれまでやってきた問題は必ず答えがあった
答えのない問題
排出権の設定など、いろいろな形での努力はなされている

(Q) バイオマスって何? CO2を排出するのにいいのか?
(A) バイオマスは生産するときにCO2を固定 → 使うときにCO2を排出
理論的には、CO2は±0の発生
技術的には難しい
使い勝手をよくするために、エタノールに変換したい
そうすると、50%の効率になってしまう
もっと効率のいい変換 もしくは、変換が悪くても使える機器を考えたい
→ 技術
光合成は3%の効率



<事後勉強会>

○省エネルギー……効率向上・節約 の2通り

○ごみは、埋めるより燃やした方が効率がいい
 但し、水分を多く含んだ生ゴミは「水を燃やす」ことになる
 現在のごみ処理は重油を加えて燃やしている
 ドイツでは10の分別で、リサイクルが可能に 日本でもできるはず
 燃やすことに関しては、水と塩素の混入が問題となる
 また、水蒸気は、蒸気タービンで使えるほど、高温高圧ではない
現在のごみ発電は、効率が悪い

○他の分野の勉強は、どれだけ勉強したらいいか
 T型人間になれ 1つ深くやれば隣のことも分かってくる 専門を持て

○エネルギー問題は重要 しかし、温暖化問題の方が早く来る
 現実的にCO2固定策はない これから考える

○モノの節約 倫理の問題 倫理に期待しても無駄
 ゴールドバーグ氏(ブラジル大臣)は
 「キリストが磔になってから、人間の倫理は少ししか進歩していない」
 何ができるか?
 条約など政治による押さえつけ
 「途上国の人に文句は言えない」 日本人の論理、イギリス人は言える

○環境教育はどの程度必要か
 地球全体、システムとして捉える目を養うことは重要

○エネルギーがあれば、環境問題は解決するか
 人間に必要なのは、物質(=衣食住)
 物質はエネルギーがあれば作れる(C、H、O、太陽エネルギー)
 一番欠乏しやすいのは、エネルギー(cf. 定方先生……食糧)
 省エネだけでは無理
 (製鉄は理論値の1.8倍まで来ている → 勘では1.5倍が限度)

○生産者側(企業)はいじいじし過ぎ
 技術は失敗を超えて成長するもの
 PETボトルの件はおかしい
 (日本の飲料メーカーが、1リットル以下のPETボトル自粛をやめることに関して、
  ごみ問題の悪化だと、消費者団体から抗議を受けたのに対し、謝った件。
  原因は、外国の飲料メーカー製造の1リットル以下のPETボトル輸入の増加につき、
  自粛が意味を成さなくなったことにある)
  できないことはできないとはっきり言うべき
 「もんじゅ」も隠れていたから、問題になった
 度胸を持って、システム的に合理性を説明すべき
 情報公開は大切
 もちろん、全て即時公開だと国益を損なうので、
 「○年経ったら公開」というふうにすべき
 また、法律で、押し切ることも大切

○プラスチックの方がエネルギー的に高いというのは、事実
 つまり、可能だったら、リサイクルした方がよい
 リサイクルは、ポリエチレン、ポリプロピレンだけだったら、大丈夫
 早いうちに、社会がプラスチックについて、決定すべき
 ポリ塩化ビニルは、リサイクルに回ってこない水道管などのみに使うべき
 車のバンパーは、バンパーだけで、回すべき
 釣り糸は生分解性
 回せるものは回す

○リサイクルの方向性は? 現在の社会ではそういう方向に向かうのか
 いずれ、そうなる
 最後は、正しい方向に行かざるを得ない(エネルギー・物質の分野では)
  (社会分野では、そうは行かないだろうが)

○今後の行く末について
 日本やヨーロッパについては、悲観していない
 米国は資源を持ちすぎている → 何も考えていない けしからん
   米国に何か言われたら、日本も言い返すべきだ
 脱硝・脱硫をきちんとやっているのは、日本くらい
 もっと欧米に脱硫をやれというべき
 手段は、インターネット(E-Mail) 市民のレベルで、情報が気軽に伝わる

○普段の実践
 CO2を排出する自動車を5年間、我慢
 しかし、最近買ってしまった  倫理は当てにならない、ということを自覚
 Think Globally, Act Locally

○環境問題は、構造悪なのでは。根本的には?
 反対しない。
 文明の問題というのは、確かな問題。
  加藤尚武のいう3つの倫理(世代間、生物生存、あともう一つ何だったけ)
 倫理の面から考えるのは当然 しかし倫理だけでやっていたら破滅する
 江戸時代や草原の生活に戻れるわけがない
 ただし、倫理の面から考えることは、法律の制定などには必要不可欠