第8回講義内容

地域社会と環境問題
生徒による調査活動の発表
〜"東京のゴミとリサイクルをめぐって"

 
東京大学大学院総合文化研究科 相関社会科学専攻 岸野洋久
 
#編者注
 本稿は上記の内容で行われた講義での発表内容を簡略に整理したものである。
 本稿の内容は、その後幾度かの更新を行い、10月には「日本廃棄物学会」での学会発表も行った。
最新版の内容は別に存在するので、より関心のある方はそちらを参照されたい。
 
 
 本講義では、環境三四郎が春休み以降4カ月近くにわたって行ってきた調査を、4名が90分かけて発表した。調査の詳細は当日配布した
調査報告書 を参照していただきたい。講義では基本的な部分に重点を置いてかみくだいて説明し、最後に論点をディスカッション形式で整理するという形をとった。
 
発表者:
 大竹史明
 木村宰
 西水徹
 森泰規
 
発表の概要
T:基本的な知識の説明
U:各関係主体の取材結果
V:問題点の検討
W:結論

はじめに:調査の動機

 
 私達は、本や講義での勉強だけでなく、実際に環境問題の現場を自分の目で見て様々な人々の取り組みや考えを知るという経験はとても大切だち思い、フィールド調査をしたいと考えていた。その時、テーマとして出てきたのがゴミとリサイクルの問題だ。
 
 現在の日本のゴミ問題は深刻だが、その原因は現代の大量生産、大量消費、大量廃棄、とりもなおさず我々の生活である。普段の生活の中でも、自分の生活習慣そのものがゴミ問題を招いていることを実感し、ゴミを出してしまう自分、そうせざるをえない現代社会への憤りを感じている。このように、ゴミ問題は我々にとって最も身近な環境問題であり、環境問題が他人事ではないことを切実に思い知らせてくれるテーマである。
 ゴミ問題の解決策としてリサイクルの取り組みがなされているが、なかなかうまくいかないという話を聞いている。そこで、リサイクルの現状と問題点、今どういう状況であり何故うまくいかないのか、を解明し、ゴミ減量化に役立てたいと考えている。
 特にペットボトルを対象に、フィールドを東京に設定して調査を始めた。
 

T基本的知識の説明


a説明の流れ
 東京都のゴミ問題は深刻で、ゴミ減量が重大な課題だ。その中でも、近年普及したがリサイクルが遅れているペットボトルはリサイクルを進める必要がある。リサイクルにも3通りの方法があること、リサイクルを進める政策の基本的な考え方2つを紹介した。このゴミ問題を解決するために「容器包装リサイクル法」が始まり、その中にペットボトルも含まれているが、それに対し、自治体の負担を軽くすることを求める東京都が独自のルールを提案し、2つの主張が対立している。
 
 bゴミ問題の現状
東京都23区で400万トン以上にもなり、埋め立て処分場の満杯もあとわずかである。
ゴミ問題は緊急の課題だ。
 
 
 cペットボトルについて
 
 急速に普及したが、環境の視点からは問題がある。半永久的にゴミとして残ることや、現在ほとんどが使い捨てにされてりることだ。だから、リサイクルを進める必要がある。
 
 リサイクルの流れも述べた。
 
 
 dリサイクルと環境政策の知識
 
 リサイクルという言葉と、そのための政策について触れる。
広義にリサイクルと言っても、リユース、マテリアル・リサイクル、エネルギー回収の3通りがある。
環境政策の基本的考え方として、外部コストの内部化、経済的インセンティブについて説明した。
 このような考え方を踏まえ、企業や国民の事情も考慮し、政策が立てられる。
 
 
 e容器包装リサイクル法
 
97年4月に施行された容器包装リサイクル法では、外部費用の内部化を狙い、ペットボトルを含む容器包装の再商品化の費用負担を容器製造・利用事業者に求めている。これらの「特定事業者」の大部分は、同法が定める指定法人「(財)日本容器包装リサイクル協会」に資金を払って再商品化の委託を行っている。
 
f「東京ルール」
 
 容器包装リサイクル法ではペットボトルの分別回収及び保管・中間処理を市町村に求めているが、これに反発する東京都は、回収も事業者負担とする独自の「東京ルール」を打ち出している。東京ルールではペットボトルの販売店店頭回収を提案し、97年4月から一部の販売店で開始されたが、容器・内容物メーカーや国側は反発している。
 
 gリサイクルの流れの全体像
 
 調査の結果、ペットボトルのリサイクルの流れは主に3つ存在することがわかった。
 
(1)容器包装リサイクル法に従う流れ
使用済みペットボトルを自治体が回収・圧縮・ベール化・保管し、(株)ウィズペットリサイクルなどの大規模な再商品化事業者がこれに選別・粉砕・洗浄などの処理を加えてフレーク化(細かい破片状にしたもの)し、再生原料として販売する。樹脂・成形の大手19社で構成する事業者団体のペットボトル協議会が、ウィズペットへの出資・再生原料の引取という形で関っている。また、指定法人が、特定事業者、市町村、再商品化事業者との契約で関っている。
 
(2)容器包装リサイクル法に参加しない、独自の流れ
同法への参加・不参加は市町村が判断するので、市町村が独自に業者と契約してリサイクルに取り組むこともできる。我々は豊島区を調査した。区の下請けとして実際の回収業務を行っている(株)エリックス社は、回収後、自身の再商品化工場へ直接運搬し、フレーク化して(株)根来産業に売却する。根来産業はこれを原料にカーペットを生産する。
 
(3)東京ルールを支持する流れ
我々はダイエーを調査した。住民は店頭回収に協力して分別排出する。ダイエーなどの販売事業者が店頭回収し、東京都が暫定的に運搬を行う。ダイエーで回収されたペットボトルは都の下請けの大成産業が運搬業務を行い、直接フレーク化している。これを根来産業が買い取り、カーペットにしている。ただし本来の東京ルールは、都ではなく動脈産業側が資金を提供しなければならない。だが、企業が協力していないため、現在はこのような形を取っている。
 

U各主体の取材調査

 
"T- gリサイクルの流れの全体像"でみたように、関係主体を明らかにした上で、これらに対し取材し、主張をまとめた。
a容器包装リサイクル法に従う主体
 
 a-1ペットボトル協議会
現在、栃木の「ウィズペット」と三重の「よのペット」2つの大規模工場で再商品化を行っているが 、ウィズペットは操業以来赤字が続いている。
 
(1)コストダウンのためには、資源と技術の集約化、すなわち大規模工場で最大限効率化されたリサイクルが必要である。
 
(2)ペットボトルのリサイクルの問題点としては、
再生原料の価格が低く、採算が採れない。
回収率が低いため、大量生産による効率化が図れない。
近年新たに参入してきた200余りの中小のリサイクル業者は、小規模で非効率的である。
 
 
(3)構成企業が特定事業者である当協会としては、再商品化の費用負担は極力避けたく、容器包装リサイクル法には従うが、東京ルールには反対である。
 
 a-2(社)清涼飲料工業会
日本の99%の清涼飲料メーカーが加盟している社団法人である。
 
(1)本来、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」上、ごみの再生処理は自治体固有の義務である。ただし容器包装リサイクル法で再商品化費用負担では譲歩した。
 
(2)東京ルールには反対である。
 最も効率的なシステムを構築してリサイクルを進めるべきである。その点、店頭回収は非効率的であり、自治体の巡回回収を利用すべきである。
 都は負担が過大だと言うが、具体的なデータを示さないので負担の程度が明確でない。
 
(3)消費者が変わらない限り、外部コストを内部化してもゴミは減らない。そこで、ごみとなるペットの削減より、出したペットをリサイクルしていく方針を取っている。この考え方は、現実的であるとともに、ペット産業をなくすわけにいかない企業の立場が背景となっている。
 
 a-3指定法人:(財)日本容器包装リサイクル協会}
法律で定められ、特定事業者の委託により再商品化義務を代行している。市町村から中間処理後の ペットボトルを無償で引き取り、1年ごとの入札で選定した再商品化事業者に委託料とともに引き渡す。
 a-4(財)クリーンジャパンセンター
リサイクル推進の第一段階として、一番のネックだった再商品化が経済的に可能になることを狙った。しかし、企業負担が過大になりリサイクルそのものの障壁にならぬよう、回収は市町村が責任をもって行うと定めた。
 
b独自に取り組む主体}
 
b-1豊島区
1993年に開始したペットボトルの分別回収が区内のほぼ全域に広がっており、先進的な取り組みをしている。再生資源の分別回収は効率良く確実なシステムを持つ自治体が行うべきだと考えている。
 
b-2(株)エリックス
瓶のリサイクルなど、幅広く携わっており、2年前からペットボトルの回収・フレーク化も行っている。容器包装リサイクル法の問題点を指摘した。
 
(1)経済性の問題
 市町村による回収・中間処理は非合理的である。エリックスのように回収から再商品化まで一括すれば中間処理、保管に関する費用は不要である。試算によると、同法に従った場合の全リサイクル費用は1kgあたり250円、エリックスのやり方では190円である。
 産業界に再商品化されたペットの引取義務量が定められていない。
 1年ごとの入札のため、仕事がもらえなければ設備投資が無駄になってしまい、不安定である。
 
(2)ごみ減量の観点からの問題
 リターナブルが考慮されておらず、ワンウェイボトルを認める形になってしまっている。
 事業系廃棄物のボトル、小型ボトルには特定事業者の費用負担がない。
 
(3)リサイクルそのものの難点
 回収量がまとまっていない。
 規格化されておらず、製造段階でリサイクルしやすくする工夫が見られない。
 
b-3(株)根来産業
100%再生原料のカーペットを生産し、55%のシェアを誇る。エリックスなどの業者から、少量でもフレークを買い取っている。
 
根来は十分利益をあげているが、ウィズペットの赤字は3億円と言われる。その理由は
 
 ウィズペットは原料の形で販売するため、バージン原料と競わねばならず、品質向上のためコストがかかる。根来は最終商品まで一括して製造しているので、均質でない原料にも相応の使い道を用意できる。
 また、ウィズペットの流れのような拠点集中型では運搬コストがかかるので、数多くの中小企業で分散していた方が良い。
 
 
このように、大規模集約型より、小規模分立で柔軟なシステムの方が効率的だと考える。
 
c東京ルールを支持する主体
c-1東京都\\清掃局ごみ減量総合対策室
:
循環型社会の構築のためには徹底したリサイクルコストの内部化が必要だと考え、容器包装リサイクル法の延長上にあるものとして、回収も事業者負担とする東京ルールを提案している。
 
c-2(株)ダイエー
東京都の呼び掛けに応じ、96年10月からペットボトルの店頭回収を行っている。現在はそれほど負担ではないが、2000年に全てのプラスチックを店頭回収するなら負担は大きいだろう。店頭回収は補完的役割であり、自治体の回収がメインであるべきだ。
 
c-3目黒区,横浜市
容器包装リサイクル法は特定事業者の負担が過少、自治体の負担が過大である。従って東京ルールを支持し、区ではペットボトルの回収は行っていない。\\
 
横浜市でも同様な理由から、ペットボトルの分別回収は行っていない。
 

V問題点の検討

 
取材結果を踏まえ、ペットボトルのリサイクルの現状と問題点を検討、分析する。
 
各主体の主張の根拠の詳細は、以上を参照のこと。
 
a現行のリサイクルについて
どのようなリサイクル方法が良いのかは、取材した主体によって見解が異なり、確定的でない。どちらの立場に立つかによって、現状と問題点の認識も異なる。そこで、各主体の対立する見解をまとめる。
(1)リサイクル方法について
 
ペットボトル協議会側は大規模・集約型リサイクルを主張し、根来側は小規模分立で柔軟なシステム、最終商品まで一括するリサイクルが効率的だと主張する。\\
 
(2)特に容器包装リサイクル法のリサイクルについて
 
国・ペットボトル協議会側は、集約化のためには中間処理、保管が必要だと主張し、エリックス・根来側はそのコスト増大と非効率性などの問題点を指摘する。
 
(3)企業と自治体の役割分担について
a東京ルールについて
 
分別回収の費用負担をめぐって、特定事業者側は、店頭回収の非効率性、過大な負担、などの理由を挙げ、一方東京都は、徹底した外部コスト内部化の必要性、過大な負担、などの理由を挙げ、相手側の回収負担を主張している。
 
bリサイクルの限界とリユースについて
現在のマテリアルリサイクルでは、大量生産・大量消費であることは変わらない。幾つかのLCAデータを収集した結果からも、環境の視点からはリユースが望ましいと考えられる。だが現実には困難が伴う。効率的なシステムの構築、消費者が容器を返却しないこと、傷つきのボトルを消費者が好まないこと、衛生上不安があること、である。日本での大規模な導入は当面は難しいであろう。
 

W結論

 
近年急速に普及してきたペットボトルは、回収とリサイクルの面で他の容器に遅れをとっているが、容器包装リサイクル法の施行により、基本的には推進の方向へ進んでいる。しかし、大手と中小のリサイクル業者の、効率的なリサイクル方法をめぐる対立、容器包装リサイクル法の是非をめぐる対立、企業と地方自治体の費用負担をめぐる対立がある。つまり、今何が問題でどうするべきなのか、合意が得られていないのである。そのため今後の見通しも不透明である。また、この問題をつきつめていくと、産業構造や消費構造、リサイクルそのものに関る問題に直面する。
 
容器包装リサイクル法は循環型社会に向けた第一歩ではあるが、まだ多くの問題を抱えて
おり、その見直しも含めて、今後もリサイクルに取り組んでいかねばならない。その際、
誰がどのような立場でどのような事情なのか、総合的に現状把握する必要がある。
 
これを機会に、皆さんもゴミとリサイクルの問題を考えてみてはどうだろうか。