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中西徹


氏名 中西 徹(Toru Nakanishi)
所属 東京大学 大学院総合文化研究科・大学院経済学研究科(併任)
著書
  • 『スラムの経済学:フィリピンにおける都市インフォーマル部門』東京大学出版会 1991年
  • "Comparative Study on Informal Labor Markets in Urbanization Process: The Philippines and Thailand," Developing Economies, vol.34 no.4, December 1996
  • 「発展途上国の貧困と人権」 恒川恵市編『開発と政治』岩波書店 1998年
  • 「市場経済化における慣習経済」 中兼和津次ほか編『市場の経済学』 有斐閣 1999年

参考文献

中西徹 「都市の居住環境:フィリピン」『経済協力評価報告書』 外務省経済協力局 1998年


講義内容要旨

 フィリピンのような発展途上国の環境問題を考える際,貧困層の諸問題を避けて通ることはできない。一方において,貧困層は環境劣化に対して常に最も深刻な影響を蒙りやすく,環境問題は貧困を深化させる。たしかに環境は「公共財」の性質を有するが,個々の主体は環境劣化への対応を市場の利用によってある程度まで実現できる。その場合には,貧困層にとっての相対的な費用負担度は非貧困層のそれとの比較において重くなるからである。

 しかし,他方で,貧困層が広範な分野にわたる環境問題を深刻化させている例も枚挙に暇がない。小型乗合いバスや輪タクなどの貧困層向けの交通機関は大気汚染と交通渋滞の主原因となっている。運転手達は,費用削減のため劣悪な燃料を利用し,交通法規を破ってまでも乗客を奪い合わなければ日銭を稼得することさえ困難である。スラムはしばしば河川敷に立地するが,居住者は廃棄物や汚物の処理にあたって,公共サービスを享受することもできなければ処理費用もまかなえない。河川排水路への違法投棄に頼らざるを得ず,それは交通渋滞と不衛生な環境をもたらす洪水の原因の一つとなっている。あるいは,かつてのスモーキー・マウンテンのような直接投棄型のゴミ捨て場が貧困層に廃品回収という雇用機会を与える一方で,都市衛生環境を悪化させている状況がある。

 したがって,環境保全策は,所得分配上,逆進的効果をもち得ることにも注目しなければならない。交通渋滞解消のために先に挙げた交通機関を規制することは貧困層の雇用問題を深刻化させる。直接投棄型のゴミ捨て場を廃止し衛生埋立化する事業は廃品回収人の職を奪うことになる。排水路汚染の一因を周辺に居住する貧困層が投棄する廃棄物に求めるとすれば,抜本的解決のためには貧困層の立退きを考えざるを得ない。

 これらの考察から,発展途上国の環境問題は,これらの国にとって最大の社会経済問題の一つである貧困や所得分配の問題と表裏一体の関係にあることがわかる。この講義の目的は,フィリピンに固有な社会経済的初期条件を前提として,具体的な事例に基づき,環境保全と貧困緩和を両立させる政策,およびその条件を検討することである。


持続的社会をどのように考えているか

 東西冷戦構造が瓦解したいま,先進国と発展途上国の人々との「共生」が大きな鍵になることだけは確かであり,今後は我々は「物的な」生活水準の低下をも覚悟する必要があるだろう。「ライフ・スタイル」の見直しということになるが,それをすすんで受け止めるためには,異なる文化,異なる社会構造の中で生きている発展途上国の人々の立場を,少しでも理解しようとする「意思」,「共感」が必要だと考える。つい忘れがちになるが,身近な人であっても,相手がどの様な境遇にあるのか,どの様な気持ちであるのかを思いやることは難しい。恵まれた状況にある我々が,独自の価値判断で,まったく異なる環境の中にある発展途上国に生きる多くの人々の状況を理解した気持ちになってはならない。発展途上国の人々の「生きざま」をどう理解するかは,我々にとって喫緊の課題である。


受講生へ一言

 私は社会科学の研究の際には,つねに「現場」を忘れてはいけないと考えてきた。とくに環境の分野では,置かれた条件が全く異なる他者を理解するための意思,「共感」が必要になるように思われる。


環境問題マッピング 実行可能な効率的環境政策の仕組み

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