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永続可能性と環境的正義の狭間
−永続可能な社会をデザインするために

5月19日 鬼頭秀一


1 環境持続性、永続可能性を考える

 地球の有限性(物質的有限性=資源・廃棄物問題)に対し、人間の生活の永続可能性のためには、

  1. 全体の一元的管理
  2. ローカルな循環システム

が必要であり、生態系(生物多様性)の保存(生命圏、人間と自然)のためには人間の自然との関係性の永続可能性を考える必要があるが、このために、

  1. 全体の一元的管理・ゾーニングによる管理
  2. ローカルな自然との関わり

が必要となる。

鬼頭秀一
 全体の1元的管理 
 ローカルシステム 
人間生活の
永続可能性
法による強制
権力を背景に管理
循環システム
人間の自然との
関係性の
永続可能性
ゾーニング ローカルな利用や
関わりの重視


1−1 誰の視点なのか?誰が決定するのか?

 持続的な社会を実現するための方法として上からの1元的な管理と、ローカルな社会での自発的な決定が考えられる。1元的な管理による問題点は、強制によって自由が抑圧されてしまうということである。

 これに対して自発性に基づくローカルなシステムは、持続的な社会になるためにはある程度の保証が必要である。

■ 一元的管理

〜「政策」としての管理―政策決定者による管理
〜強制 vs 自由

■ 自発性に基づくローカルシステム

 ローカルシステムの中で永続可能性を保証するのはなにか?
永続可能な「自発性」を保証するものとして

  1. 上からの管理
  2. インセンティブ  例えば炭素税など
  3. 関係性による規制 例えば 入会いりあいなど
    ※ 入会とは共有地にかかわる共同体の
      人と人との関係による規制

があげられる。

鬼頭秀一



2 人間と自然との関係性の永続可能性はいかにして可能か?

2−1 人間と自然の二分法と一元的管理

 近代の考えかたは、人間と自然を完全に二つに分けてしまうことで、自然からの被害(例えば猿による、畑荒らし)を防いだり、原生自然を保護していこうという運動が盛んであった。例えばこの考え方のひとつゾーニングという考え方がある。ゾーニングとは原生自然(自然圏)人間(人間圏)を完全に分けてしまい、その間に人間も自然も一緒に存在するBuffer Zoneを設ける、といった方法である。
 しかし人間も自然も豊かに生きていくには人間の自然への介入が不可欠である。そのような考え方がリオサミット以降、環境倫理思想で進められてきた。

人間と自然の二分法脱却の環境倫理思想の流れ
  1. 人間中心主義の脱却
  2. 環境的正義
  3. 原生自然保護の見直し
  4. 二次的自然への関心
  5. 多様性保護にかかわる生命地域主義的アプローチ
  6. 生活/生業への関心・生活環境主義等の思潮の重要性
環境的正義(environmental justice アメリカ)の四つの構成要素とそのグローバル化
  1. 問題――差別の結果として不公正な形で環境的負荷を受ける
  2. 原因――深刻な健康の被害が共同体居住者に
  3. 解決――環境的正義による
  4. 権利――
    1. 実質的権利=汚染のないところで暮らす権利
    2. 手続き上の権利=民主的参加と自己決定の権利
      1. マイノリティが環境における権利の侵害
      2. 生存の権利の侵害
      3. 環境的正義による解決
      4. 実質的権利だけでなく、手続き上の権利(参加と自己決定)の重要性

2−2 人間と自然の二分法を超えて―――コミュナリズム(共同体主義)へ

 今まで見たきたように、自然と人間を分けてしまう考え方ではなく、自然と人間の共生が必要になってくる。このような考え方に共同体主義というものがあげられる。

共同体主義へ 管理主義・保護主義ではなく、共同体主義をとることにより、人間と自然の関係性を断続的なものから連続的なものへの移行させ、自然保護から、自然を利用し、かかわりをもつようにするべきである。

 里山の保全や、社会的・経済的リンクと、宗教的・文化的リンクは不可分であり(社会的リンク論)、精神的豊かさの意味があることを念頭においておく必要がある。

生身の関係 切り身の関係
<生身>の関係=かかわりの全体性 <切り身>の関係=かかわりの部分性


白神山地の入山規制を巡る問題を事例として

利用の権利の制限からみえてくるもの

  1. 入会権の侵害
  2. かかわりあいの権利の侵害
  3. 保全と正義
  4. 手続き上の権利の問題

2−3 共同体主義におけるローカルな決定の問題

  • 何らかの普遍的基準をたてることができるのか?
  • 誰が決定するのか
  • いかに決定していくべきか――動的文化論・正義・自己決定――
  • 「学び」の重要性
  • 「よそ者」論の役割――開かれたコミュナリズム
  • 動的文化論における「学び」の過程における「よそ者」の役割の重要性
  • 「地域」と「よそ者」の相互変容による豊かな関係



3 環境持続性、社会的公正、存在の豊かさが折り合える社会の構築

interrelations

elements
人間―自然関係
human-nature
人間―人間関係
inter-generationship
(歴史性)
個―全体関係
whole-individual
環境持続性
environmental
sustainability

(環境)
自然の生存権の問題
生命系中心主義
生態系中心主義
自然の権利
生命地域主義
生業論・技術論
風土論
所有論・流通論
世代間倫理の問題
生命地域主義
生業論・技術論
風土論
所有論・流通論
地球全体主義
救命艇の倫理
宇宙船地球号
共有地の悲劇
地方の自律
生命地域主義
共的所有論
社会的公正
social equility
(社会的諸関係)
保護区・サンクチュアリ
環境的正義
所有論・流通論
(非市場的)
世代間倫理
南北問題
エコフェミニズム
所有論・流通論
全体的主義による不平等
環境的正義
近代的所有の見直し
合意形成
存在の豊かさ
ontological
richness

(人間的主観性)
動物の解放/権利
生命圏平等主義
自己実現
(ディープ・エコロジー)
生命地域主義
風土論
遊び・仕事論
(生業論・技術論)
所有論・流通論
世代間倫理
生命地域主義
風土論
遊び・仕事論
(生業論・技術論)
所有論・流通論
全体主義による自由の制限
生命地域主義
自己実現
共的所有論



4 まとめ

 上図にあるように環境持続性だけではなくほかの2つの要素、社会的公正存在の豊かさというものも考えなければならない。持続可能な社会の中でどういうふうに豊かに生きていくのか。いま何が豊かなのかと言うことを問い直すことが必要である。またそのときに環境的正義enviromental justiceということを考えないといけない。

 環境の持続性ということを考えるときに、重要なのは一元的な管理ではなくて、ローカルな管理、意思決定が重要である。そのときにいったい誰が決定するのか。地域の人たちが自発的に決定しながら、持続的に生きていくことが重要なのではないだろうか。



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