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環境社会科学の方法

*この回の講義は前半を後藤先生、後半を丸山先生が担当しました。*


前半 後藤先生
後半 丸山先生




環境社会科学の方法・後半―丸山先生―

4月27日 丸山真人

イントロ

 引き続いて、環境の価値について話をしたいと思います。後藤先生とは長い付き合いなのですが、毎回後藤先生が私のことを紹介する時「高尚」なことをやっているといわれるのですが、それ抽象的な議論をしているということの婉曲的ないいかたなのだと思います。しかし、マクロなビジョンを見ておくこともたまにはよいとおもうわけです。それで今回は環境問題全体の見取り図のような話ができればよいのではと思います。


丸山真人

物質の循環と生物の役割

(地図を見せて)これはアメリカの西海岸のワシントン州とオレゴン州にまたがる部分の地図です。コロンビア川が流れています。これは、熊は剥製にされるわけですが、コロンビア川を登っていく鮭を食べた熊で剥製になったものが、どの辺で取れたかをプロットしたものです。これからなにが言いたいかというと、鮭は川を入ること数百キロメートル川を上ることができるということです。
 先週の授業で太田先生が「山の川の水は栄養がない」といいましたが、そしたらどのように川の水は栄養をもたらされるのかを考えて持ってきた図です。つまり鮭が海から栄養を川まで運んでくるわけです。それを鳥や熊が食べて糞にして、森に栄養が行く、といったひとつの循環を表したものなのです。
 今日の話はこういう生物を媒体とした物質の循環を使って面白い文明が築き上げられてきたという話をしたいと思います。

 (もう一つの図)この図の中の矢印は物質の循環を示しています。魚が漁によって海からあげられ肥料などとして畑の栄養となり、そこで育った作物を食べた鳥が山にいって糞をしたりして、山に栄養がもたらされるわけです。そして重力によって下へ下へと栄養が流れていきます。また海の中にも下から上に栄養が流れる仕組みがあります。

 (もう一つの図)海から山へ、山から海へと栄養分が回っています。これの重要な要素は食物連鎖です。栄養分はどのように回っているかというと、プランクトンを食べる生物の存在がないといけませんし、プランクトンがいない場所にはそれを食べる生物は存在しません。


関係・状態の循環

 物質循環を担っている個々の生物は死ぬ運命にあるわけですが、全体的に見ると次の世代がそだって、次の世代にバトンタッチするわけです。なので個々の牛や個々の牧草は時間の流れによって生まれてきて死んでいくわけですが、牛と牧草の関係自体は保たれています。これを関係の循環・状態の循環といいます。物質の循環を支えているのは生物同士の関係の繰り返し、関係の循環によって支えられているわけです。


エネルギーの循環

 地球上で大気の循環・水の循環で海面から水が蒸発して、上空に運ばれる。そして上空に上った水は赤外放射によって宇宙空間に熱を捨てます。このような話は小宮山先生、太田先生もおっしゃっていましたのでそういう意味ではつながっている話といえるでしょう。そうして熱を宇宙空間にすてて、冷えた地球に質のよいエネルギーである太陽光が太陽から供給され、それを植物が光合成によって栄養分を作っているのです。
 植物が光合成をしなければ、その植物を食べる生物がいないことになります。物質の循環を可能にしているのは、生物がお互いに食べたり、食べられたりしているからです。生物のいない場所ではこんなに物質の循環はないし、昼と夜で温度がほとんど変わらないといったことはありません。


エントロピーとは

 ここでエントロピーという概念を改めて説明したいと思います。
 地球の上にある物質は総量では変わらないということがあります。化学反応によって違う物質になったとしても、状態が変わったとしても物質の総量は変わりません。これが物質の保存則です。
 エネルギーも総量では変わりません。エネルギーの形は変わることはありますが。
 ある部分に高密度なエネルギーがあったとき、時間がたつとそのエネルギーが拡散されてしまいます。これがエントロピーが増大した状態です。エントロピーというのは熱がどのような状態で分布しているかという事をあらわしたものとここでは定義しておきます。


エントロピーは自然には減少しない

 重要なのはこの逆の反応は起こらないということです。エントロピーが増大するというのは一方向的なものでエントロピーが自然に減ることはないということです。
 物質にしてもそうです。砂金を放っておくと川など流されていき、どんどん拡散していきます。自動的に砂金が集まって金塊になるということはありえません。
 しかしわれわれは砂金を集めて金にしようとします。そのときには人間がエネルギーを消費しているわけです。この場合は物質のエントロピーを減らすためにエネルギーのエントロピーを増加させているわけです。そしてトータルのエントロピーは結局増加してしまうのです。


エントロピーは宇宙空間に捨てられる

 そしたら、増加したエントロピーは果たしてどこへ行くのか。知ってのとおり地球はオープンスペース(開放系)です。増加したエントロピーは宇宙空間に放出されるわけです。ですから地球が太陽から光をもらい熱を捨てるというのはとても重要なことなのです。


リサイクルとエントロピー

 ここで初めて経済学のことが出てきます。
 この自然の循環を真似て、人間がリサイクルをしようとした場合、自然がやっているようにスムーズにエントロピーを宇宙空間に放出することができるのでしょうか。

 工場で何かの製品を作って、それをリサイクルしようと考えます。工場で作った製品を環境にごみとして捨てるのではなく、回収して逆工場に運び原材料に戻してまた工場に持っていくというサイクルをあらわしています。ここで問題になるのは逆工場で必要なエネルギーをどこから手に入れるのかということです。自然のまねをするのならば、太陽光をエネルギー源をしないといけませんし、そこから出てくる廃熱を宇宙空間に捨てなければいけません。
 今までは必要なエネルギーを発電所で発生させていました。火力発電のは化石燃料を燃やしてCO2、SOX、NOXなどを出しています。これらの物質をまた還元することを考えると、また電力が必要になってくるというわけです。それをどこからもってくるのか。そうするとまた同じ火力発電所が必要になってきます。それがまた排気ガスを出す・・・といった話しが続くわけです。


循環型社会の条件

 ゼロエミッションということがいわれたりします。ビール工場などからでてきたかすを近隣の農家に肥料として配給する。その農家が麦を作っていれば、その麦を原料にまたビールを作る・・といった具合です。この場合は物質に限ってみれば循環が成り立っているのかも知れません。しかしその物質をまわすために必要なエネルギーをどういう風に供給しているのかが議論されないことがあります。

 そこで循環型社会の条件をもう一度あげてみようと考えたときに、エントロピーという概念が活用できるのではないのかということです。エントロピーが教えてくれるのは、時間は逆には戻らないということです。物質が回る時、その物質をまわしている生物は必ずエネルギーを消費しているわけです。


更新可能だということ

 更新可能な資源(バイオマス)といいますけど、それは仕事を取り出すことができる資源、使用価値ポテンシャル(使用可能なエネルギー)を再生産することの可能な資源といえます。
 そうすると生態系というものは使用価値ポテンシャル繰りかえし生産するものと解釈することが可能です。これに対して化石エネルギーは使用可能ですが、再生産はできません


結論−どのように環境を評価するか。−

 今回、なぜこんなにややこしい話をしてきたかというと、経済学はエネルギーは安ければいいわけですから、再生産できるかどうかはは価値判断されないわけです。ですから、再生可能などの要素の価値判断するために後藤先生がおっしゃられていたようなグリーンGNPなどの別の価値観を入れていくという考え方が出てくるのです。

 じゃあグリーンGNPを導入することで何がどこまで見えるだろうかということが問題になります。私の結論としては、使用可能なエネルギーが再生されるかされないかが最終的には環境の価値を決めることになると思います。従って更新可能性に重きをおいた形でグリーンGNPが誘導されてくるのが望ましいと思います。誘導という言葉を使ったのは、市場メカニズムとは違って、人々が自然にどのような価値を置くかというのはかなり主観的な認識に他なりません。その認識の判断基準としてどういう手段を提供できるかというと使用価値ポテンシャルを入れることが重要だと思うのです。

前半・後藤先生の講義
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