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 矢坂先生「農業と自然・社会環境の関係」
現在地ゼミ生の発表「山形県長井市レインボープランの理念と課題
 授業の補足 2002年12月12日 「地域循環型農業」研究会より
   竹田義一「循環型農業で地域を変える─台所と農業をつなぐながい計画(レインボープラン)─」
   矢坂雅充「地域循環型農業の基本的論点」
   総合討論





山形県長井市レインボープランの理念と課題

5月18日 矢坂雅充



はじめに・レインボープランとは

 始めまして。僕達は先生からお話があったように、去年の暮れに地域資源環境システムの形成に取り組んでいる山形県の長井市というところに行って調査をしてきました。その取り組みをレインボープランと言うのですが、そのレインボープランについて少し説明したいと思います。繰り返しになりますが、レインボープランは地域資源循環型の社会システムの構築を目指す事業であり、具体的には生ゴミの堆肥化とそれを利用した農作物の域内流通をしようというものです。これを図で表したのが、3ページの表1になります。おおまかに言って、農家と消費者と堆肥センターという3つのプレイヤーがあって、消費者から出る生ゴミを分別回収し、それを堆肥センターで有機堆肥にし、その有機堆肥を農家に販売して、農家で有機堆肥を利用して有機作物を作り、その作物を今度は消費者が消費するという、これが循環たる所以です。


長井市の概略

 次に長井市はどういう都市かを簡単に説明しますと、山形県南部に位置し、人口は約3万2千人、世帯数は9千、ここが重要なんですが、1985年から人口減少の傾向にある。最上川、白川、野川という3つの川の交わる盆地に位置しまして、交通の要所となり、周辺からの農作物の集積地でもありました。それゆえに、長井市では農業と商業が一体となって発展してきたという特色があります。
 いわば、長井市は、農業が潤えば商業が潤うという共通の意識というものがあります。これも重要なところです。それから、長井の農業の実態は、全国的な傾向と似て、兼業化、高齢化、就業人口減少、などが進んでおりまして、単純に言えば衰退しています。そして作物の単一化の問題があります。かつては畜産や畑作や養蚕にも取り組んできたんですが、4ページの資料をご覧ください。今は水田単作の傾向が強い。これも重要なことです。


レインボープランの特徴・理念

 そして、レインボープランの特徴です。レインボープランには2つの大きな特徴がありまして一つは単なるゴミ問題ではなく、農業を基盤としたまちづくりを究極の目標に見据えたということです。資源の循環システムを目的として作りたいのではなくて、その先に農業中心とした地域活性化というか復興という目的があるのです。それはここにも書きましたが、「地産地消」によるまちづくりが目的。地産地消というのは、限られた地域の中で循環を作るということですね。
 そしてもう一つの特徴、このレインボープランの取り組みは、行政ではなく市民主導で行われたんだということです。ここで、3ページの表3を見てください。この中で、行政主導で進んだのは、1988年の「まちづくりデザイン会議」発足というところ。ここは、後で触れるんですが。当時の市長が、このままでは長井の町が都市として衰退していってしまう。「何とかまちづくりをして復興、活性化しなければならないぞ、市民のみなさん何かアイデアを出してください」ということで、有志を募って、まちづくりをどうすればいいか考えました。その時に結果的に農業を軸としてまちづくりを進める方向に決まっていくのです。

 話を戻しますと、この時こそ、市長、行政の呼びかけで始まったのですが、それ以降は、行政は市民の要望に応えて、取り組みの場を提供するという形をとってきました。そういった特徴のことを、レインボープランの中では敢えて、行政の人間も市民である、行政の人である前に人と市民であるといいます。市民と行政が横並びの態度で取り組みに参加する「ともに」の姿勢である。その後「様々な組織との連携」と書きました。
 レインボープランというのは市民が参加すると言いましたが、市民もいろいろな立場から参加しているわけです。商工会議所の人だとか、地元婦人会の人だとか、農協の人だとか。そういった様々な思惑を持ちながらもまちづくりという一つの目標に向かって市民に横断的にこのレインボープランの取り組みが広がっていったというのが、一つの特徴です
 みなさんここで、疑問がある方もいると思いますが、先程まちづくりを始めようといったときに、何故農業を軸としてまちづくりをする運びになったのか。そもそもの問題意識、そもそもというのはレインボープランが始まる時の問題意識ですが、それは現状として、兼業化が進展し、労働力が減っていって、化学肥料に依存して地力が減退していく、そして単一作物に依存している長井の農業、衰退する農業に危機感を感じ、農業をする時に経済性だけ追求していいのか。そういった農業に対する危機感が、すなわち農業が失われていってしまうことへの抵抗感がある。
 なぜ抵抗感があるのか。それは僕はこう思うんですけど、農業は自然と直接つながりある産業であり、しかも生命、基本を担うわけですね。食べ物を食べなければ生きてゆけない。そういった視点から考えた時に、農業は人々の心の中で守りたいものである、しかも長井の風土として農業重視という風土がある。こういった考えで農業を軸としたまちづくりを行う運びになり、そしてその農業を軸にしたまちづくりは、農業は文化とまで語られます。農業は文化であってほしい。付け加えますと、農業はすべての基本であるという立場に立てば、行政も市民も同じ横並びの人間であるというものの見方にもつながるんじゃないかと思いますね。


取り組みの重点〜まとめ

 最後に取り組みの重点〜まとめ。ここは3ページの表1を見ながら聞いてほしいのですが、実際循環の流れを3つの区分に分けて考えます。消費者から堆肥センターの生ゴミの分別回収という部分と、堆肥センターから農家への堆肥の販売というつながり、もう一つ、農家と消費者の農作物の販売と書いてある3つの部分。今いちおうこの3つの枠はつながってはいるんですが、明らかに現在までの取り組みの完成度では差があります。
 具体的に言いますと、消費者から堆肥センター、この生ゴミの分別回収は、他に類を見ないくらい優れた分別回収が行われています。完成してると考えていいですね。堆肥センターから農家は、今言った消費者から堆肥センターの分別回収ほどではないですけど、まあまあその流通はうまく行っているといっていいでしょう。が、農家から消費者への農作物の販売というラインはですね、いまいち弱いんですね。
 有機栽培で作った作物の値段がやっぱりどうしても、消費者は値段にこだわるもので、他の野菜に比べて、一般にスーパーで売られている野菜の方が安かったら買っちゃうというのがありまして、ここは僕なりに考えたのは、堆肥製造が、要するに堆肥センター周辺の堆肥センターと消費者、あるいは堆肥センターと農家が、新たなシステムづくりであったのに対して、農家が消費者へ販売するっていうのは、既存のシステムを変更しなければならない、そのためにはエネルギーがいる。そういう難しさがあるからではないかと考えます。そしてレジュメに書いた、絶えず確認される「農業は文化」だ。現在この長井のレインボープランの循環の輪が、確かにつながりはしたと言いました。ですが完成度に差があると。で、完成度に大きく差があることを、カモフラージュと言ってしまえば少し表現が合わないかもしれないですが、そのバランスの悪さを覆おうとする効果が、農業は文化だと言うことなのです。なにしろ農業は文化だという言葉は頻繁に言われるわけですよ、先程表3のレインボープランの経緯ってところで、次々に団体が発足して、発展的に発足していくわけですが、その時にいろいろ宣言が出されるわけですよ。その度毎に農業は文化だと言われます。そろそろ時間なんですが、このように後の人たちは、レインボープランというと、どうしても生ゴミの分別回収にばかりに注目されてしまうわけですが、それ以外にも問題はあるんだと。循環がつながりはしたけれど、完成度の違いにより問題はあるんだよ、ということをお話ししますので、どうぞよろしくお願いします。どうもありがとうございました。




行政の役割

 第2章では、実際にレインボープランの活動がどのように行われているのか、それを掘り進めていきたいと思います。
 5ページの図の一番上から見ると、住民というのは生ゴミを排出して、それをコンポストセンターで堆肥化し、それを農家に持っていって、農家はそれで農産物を作り、消費者にまた回すという循環システムなんですが、キーポイントになるのは真中にある行政です。行政はもちろんコンポストセンターを運営するだけでなく、住民とか農業者といった主体に対して各種支援を行う。
 例えば、住民が分別回収を行うためにそのシステム構築をするとか、このシステム構築については後でまた述べていきますが、農業者に対しては有機農業栽培研究事業、これは有機農業に取り組むにはかなりエネルギーがいるわけで、そういったもの、あるいはまたレインボープランの堆肥が完成度の低い段階でも使えるようになるように、実験的に使ってもらうというふうに、この有機農業栽培研究事業ものを行政が支援者を出す。販売面では、レインボー農産物認証制度といった、他の農産物と区別するために地元ブランド化をするという支援活動を行っております。他には地場流通経路の確保として、長井市の駅の近くに売り場があるんですが、そういった農家から地元消費者に農産物が回るように経路確保も行っています。こういった主体に対して行うだけでなく、学校教育ですね、レインボープラン中心メンバーといった人が地元小学校などに行き、子供達に授業を行うわけです。例えば、土は命の源だとかそういう話しです。こういった行政が各種支援活動を行うことによって、循環システムがうまく回るように、潤滑油の役割を行政が担っているわけです。もちろん、行政の活動の背景になっているのは、先程出ましたレインボープラン推進委員会という住民参加型自主決定組織というわけです。


住民の生ゴミ分別排出

 次に各主体の活動について見ていくわけですが、まず、住民の生ゴミ分別排出です。長井の分別回収は全国一だと言われているわけですが、全国一の分別排出率をどのように実現しているのか、これを以下見ていきたいと思います。排出範囲は長井市の中心部の5500世帯ですね。だいたい人口の半分くらいが長井市の都市部にいるわけですが、ここから堆肥化して農村に回すということです。
 なんで選ばれたかというと、消費者と生産者をつなぐという理念があって、この中心部が選ばれました。周辺の村部に関しては、もともと生ゴミを自家処理していた所が多いので、輸送コスト・収集コスト削減のため、この中心部が選ばれております。排出システムというのはどういうものかというと、レインボープランが始まる前に、どういった方法でやればいいかというのはさんざん勉強したそうです。

 出てきたのが紙袋システムとバケツシステムというものなんですが、紙袋システムは、当たり前ですけど、紙袋に入れて集めるものです。結局バケツシステムが採用されたわけですが、写真にあるようにこういったバケツが各家庭にあるわけです。水がよく切れるようなざるもついています。こういったバケツは、容器代として2000円くらいで、紙袋よりも安く済むというメリットがあります。そういったメリットも重要なのですが、一番重要なのが、中身。紙袋であれば他人に見られずプライバシーを守るというメリットがあるわけですが、バケツの場合は収集所にあるバケツの中に捨てる段階で、他人に見られます。朝奥さん方が8時頃出てきて、すれ違って、「おはようございます」とか言って挨拶をしています。そのすれ違った人の出したゴミはバケツの中に見えるわけです。こういったことで、悪い言い方をすると、相互監視機能が与えられている。他人が見ているからちゃんと分別しようという意志が働く。

 こういうシステムよって、もちろんシステムだけでなく、住民のモラルという点でも活動を行っていまする。また、市内の140ヶ所もの場所で、レインボープランについての説明を行い、その理念を住民に浸透させて、そういったモラルというか環境意識を向上させていくこういったシステムとモラルと二つの面で取り組んでいくことによって、日本一の高い分別率を実現しているということになります。具体的には、平成11年度に集められた生ゴミは1523t、そのうち不純物がわずか80キロしかない。この不純物についても、後のセンターのコンポスト化の段階で振り分けされるんで、堆肥そのものにはほとんど不純物がないという状態が作られています。


コンポストセンターにかかる経費

 次に6ページにもあります、コンポストセンターについてお話ししたいと思います。まず開発段階で、結構苦労があって、生ゴミの堆肥化とかの事業に関して研究する国の機関、もちろん民間機関もないわけで、自分達で全部やらなければいけなかった。もちろんこういった堆肥化を実施している先進地帯とかありまして、例えば長野県の臼田市とか、岩手県の紫波町というところなんですが、こういうところに視察に行くと。でも先進地というのは技術が古い所ですから、これだけでは参考にならないということで、自分達で様々な試行錯誤を経て開発を行い、やっと現地の堆肥の生産に成功したということです。

 いったいこの堆肥化というのがどのくらいのコストがかかるのかということを見ていきたいのですが、建設費に関しては、初期投資額は3億8500万円、このうち農水省補助が50%、県補助が9%ということです。そのさらに後で追加投資が必要になって、それが2億5500万円。あわせて6億4000万が建設費として必要だということになっています。一方表2の管理運営というところを見ると、堆肥を農家とかあるいは家庭とかに売って販売収入が得られるわけですが、それがだいたい400万円。一方支出が4000万円以上あって、結局経費として3892万円というものが1年でかかっています。ここから堆肥化のコストを、補助金がなかった場合、社会的費用としてどのくらいのコストがかかるんだろうかということで、概算してみました。施設の費用が15年で償却するとして、51800円。それと比較するものとして、従来の焼却設備による焼却コストを出さなければいけないのですが、これが長井市で算出されてなくて、やむをえず環境省が出している一般廃棄物処理費用、一般廃棄物というのは家庭から出るゴミすべてと考えてもらっていいのですが、全国平均ですから、各自治体によっても変わるわけで、あくまでも参考にしかならないのですが、一応出してみました、43700円、平成9年度です。

 こうして比べると、それほど高コストではないなということが、捉え方によりますが、言えると思います。さらに先程開発の段階で試行錯誤があったと言いましたが、その開発費が今後国とかが取り組んでくれれば自治体が負担する必要もないわけでそういうことも今後提言できるのではないか。


コンポストセンター規模の拡大の問題点

 さらに次の7ページなんですが、レインボープラン堆肥化センター事業がまだまだ小さく、処理能力は年で2400tですからかなり少ないと言えます。規模がもう少し大きくなれば、規模の経済が働いて消費費用がより低減できるということが言えると思うので、さほど堆肥化事業は高コストではないと言えると思います。
 ただし、◎のところですが、ゴミ処理全体として考えると、また新たな問題が発生する可能性があるということです。というのは、一般可燃物については、みなさんもご存知のようにダイオキシン対策の関係で、広域行政のまとまった形で大規模な焼却設備を立てることで対処しているわけですが、この焼却設備というのは、全連続運転と言われるものでして、24時間ずっと溶鉱炉も動き続けるわけです。こういった焼却システムは常にある程度ゴミの量を必要としている。つまり設備に関して大は小を兼ねるで、ゴミは少なすぎても問題だということで、こういうリサイクルとか減量化に対するインセンティブが働きにくい。長井市の中で行われる生ゴミ堆肥化事業は、長井市周辺の米沢市とかと一緒にやっていますがまだ小規模なものなので、こういった問題は起こらないですが、今後リサイクルとかあるいはゴミの減量化が拡大してくれば、こういった問題が顕在化してくる可能性もある

 ですから、リサイクル事業そのものだけでなくゴミ処理行政全体をパッケージとして考える必要があると思います。生産された堆肥2400tの内、生ゴミが1600t、畜糞が400t、籾殻400t。畜糞を混ぜないとあまりいい堆肥ができず、混ぜることによって品質も一定化するという効果もあるんで、畜糞もあればよりいい堆肥ができます。籾殻もこれも水分調整剤として混ぜることによって良質の堆肥を作る。2400tを詰めこんで出てくるのが、年間生産量500tです。わずか500tしか出てきません。これらは農家に対しては180t、1tあたり4000円で販売しています。だいたい堆肥の値段というのは一般市場で考えた場合8000円くらいだと思うので、かなり安くしていると言えます。農家が堆肥を使った農業生産に取り組みやすいように、こういった面でも補助しているといえます。一般家庭に対しては15キロ詰めて販売していて、これは15キロあたり320円、t当たりに直すと21000円くらいになると思いますが、ここからも、農家に対する4000円が安いことが分かると思います。有機栽培研究事業、これは農家に堆肥を使った農業を試験的にやってもらおうという事業です。これらの堆肥は売れ行きは上々、品質も比較的良くて、常に品薄状態にあります。ただし、この500tという数値は非常に低いもので、畑であれば25ha、水田でも50haしかまかなえないとうことで、堆肥が品薄状態になっていると言うんですが、今後拡大すればどうなるか分かりません。


堆肥化事業の成立条件

 こういった堆肥化事業について見てきて、それが地方でも成り立つにはどういう条件が必要かということを考えてみました。
 一番目として、農村地帯と都市部がバランス良く立地していることが重要な条件になるだろうと思います。東京のように大都市だけでも大変だろうし、あるいは生ゴミを出すところがない農村部だけでも成り立たない。そういった農村部と都市部のバランスの取れた立地が必要です。先程畜糞を混ぜるとよい堆肥ができると言いましたが、畜産農家も若干あればよりよい条件になるといえると思います。
 2番目として、先程分別排出のときに相互監視機能が分別に対していい役割を果たしていると言いましたが、この相互監視機能が働く前提として、近所づきあいといった地域ネットワーク、地域コミュニティがなければ成り立たないと思います。例えば東京のように、お隣さんに誰が住んでいるかわからないという状況では、こうした相互監視機能が働きにくいと言えると思います。
 3番目として、これは必ずしも必要と言えないと思うのですが、先程レインボープランの起こり方について話が出てたと思いますが、地域リーダーが呼び水的な役割を果たすことによって、奮闘が盛り上がってきた。さらに住民参加型自治と書いてありますが、こういう地域循環型システムというのは、農業生産あるいは他の産業が全部一体となって行われているわけです。ところが行政は比較的縦割りになりがちで、農業部門なら農業部門、ゴミ処理部門ならゴミ処理部門という形で縦割り構造になっている。そういった縦割り構造的なものは、循環に対して非常にやりにくいといえると思うので、そういったことから、レインボープラン推進委員会というのが、住民参加型の自治組織として、非常に重要な役割を果たすといえると思います。

 以上見てきたように堆肥化事業に関しては、コスト的には比較的安く順調に行われています。ここがレインボープランにおいて一番成功した事例ではないかと思います。ここが成功しているから全国的にも有名な事例となり得ていると思います。ただし、堆肥を生産した後の農家の段階、あるいは農家が消費者に農産物を供給するという段階においては必ずしもうまくいかないということを次の章で述べたいと思います。




参加農家の経営状況

 それでは、第3章農家サイドから見たレインボープランというところを見て下さい。農家サイドから見たレインボープランということで、先ほど見たとおり、レインボープランをきちんと成り立たせるためには3つの主体が必要です。一般家庭消費者と、堆肥センター、それから農家とこの3つです。

 これまでのところでは生ゴミの分別回収、あるいは堆肥化販売について申し上げてきたわけですが、もう一つの農家、あるいは農作物の販売についてはどうかということを言うと、実際にはそこは必ずしもうまくいっていない。特にその循環が弱い。本来的にはまちづくりの基礎たる、文化たる農業で、農家サイドの人は何を考えてこのレインボープランに参加しているのかということを調べていったということです。この表1にあるように、8軒の農家に聞き取り調査をしたわけですが、8軒は非常に少ないということは分かると思います。日程の都合上ということで勘弁していただきたいと思いますが、ここからもレインボープランの問題点がきちんと見えると思っています。
 具体的には、この表をいちいち読んでいると時間がないのですが、高齢、あるいは小規模農家が大変多い。労働力というところを見てもらえば分かると思いますが、60代、70代以上が8分の6を占める。それから、主婦が主要労働になっている例が多い。主婦が主要労働を担っているところだけでは8分の3、主要でないところまでを含めたら8分の7にもなります。これらの人々は本当に主体を担っているということで、問題も発生してくるわけです。高齢者ということで当然後継者も必要なわけですが、なしというところが8分の5。組合員に移譲というところもありました。当然担い手がこの後どうなっていくのかという問題は常につきまといます。それから、農業で採算が取れなくても困らない家が多い。定年就農と表にも書いていますが、定年と同時に農業でも始めるかということで始めるけど、年金があるから実際に採算はとれなくても困りはしない。それから、息子と同居していて、彼らと一緒にやっていく限り、彼らの収入がメインになっている時は問題ないわけですね。実際に農業で採算がとれるかどうかという問題を棚上げしてしまっているわけです。ここから、本質的な問題から外れるかもしれませんが、レインボープラン以前から、堆肥を使っていたのは2軒で、レインボープランを機に畑作を始めた所もあります。
 小規模農家と書きましたが、ここのところで畑作が出てくるわけです。実際には水田農家が多いわけですけど、ここで実際にレインボーのメリットと使えるのは畑作だということで、畑作を始める家もあるわけです。参加のきっかけは何かといったら、先程から申し上げている通り、まちづくりで、地元のつながり、あるいは市の説明会によって始めるということです。


農家から見た堆肥の評価

 次に堆肥の評価です。レインボー堆肥を実際に使っている家に、どうですかと聞くわけですね。そうすると良い点は、堆肥は非常に軽いことです。実際堆肥を手に取った人はこの中でどれくらいいるか分かりませんが、腐葉土をイメージしてもらえば非常に軽いです。しかも使いやすい。要するに撒けばいいわけです。安全、作物の質が上がったというのはいいとして、軽い、使いやすいというのは、高齢あるいは主婦がメインということで非常に重要な点になっています

 逆に難点としては、一番農家の人が言っていたことは、運搬の手間ですね。自分で取りに行かなければならない。量がある程度多くなれば堆肥センターから運んでもらうことはできますが、自家トラックで取りに行かなければならない。農家によっては、もともと畜産農家からただでもらってくることができた家もあって、それに比べれば面倒くさい。レインボープランだから一緒にやってレインボー堆肥を使うけど、本当はやだという人もいたわけです。あとは、作業負担が増えた、あるいは他の堆肥より質が落ちるというのがあります。


作物の販売

 次に作物の販売です。これはどのように売っているか、どこに売っているかという販売ルートなんですが、表の方には軽く、農作物販売という一本で記したんですが、実際はどうかというと、普通の野菜と同じように売っていたらやっぱり価格メリットは全くないわけですね。

 有機作物の価格メリットは働いてない。消費者は高いものは買えない、買えないという部分もありますし、購買力が低いということです。
 あるいは、認証制度も普及していない。農家の方の切実な声としては、きちんと認証制度を作って、普通の野菜と同じルートに乗せてもメリットがきちんと出るようにしてほしいということです。

 実際には、市場から量販店へ出ていくのがほとんどです。それとは別にさきほど言いましたが、例えば近所の朝市に出すとか、駅の近くの直売所に、店というよりは地域の集まりをするところに一緒に野菜も置いてあって売っているという感じなんですが、農家が自分で実際に運んで行って、市場を間に挟むことで生じる流通マージンをかけず、実際に野菜が出回っているのと同じ値段で売れる、というやり方が結構取られています。当然ルート拡大には限界があるわけですね。その人達は野菜を広めようと思って意図的にやっているわけですけど、勝手に広まっているわけではない。勝手に量販店に出ていくというのは量的には結構多いんですが、これから計画を拡大していくということに関しては問題があるわけです。これとは別に、学校給食に使われています。


その他の課題

 4としてその他の課題、何が問題かというのを農家に聞いたんですが、支持基盤が弱いというのは本人達も言っていることですね。
 高齢、あるいは小規模農家。例えば隣のだれだれさんのところは大きいんだけども、そこではメリットが少ない。どうしても損が出るとしたら大きく損がでるわけですね。で、やれない。または堆肥そのものが不足しているということで、参加しづらいということはあるみたいでした。だいたいこのようなところです。私が述べたところは農家に聞いたこと、あるいはそれをちょっとまとめたところなんで、これからさらにまとめた説明が入ります。私の説明は以上です。ありがとうございました。




農家から見たレインボープランの評価

 長井市のレインボープランが生ゴミを堆肥化して域内流通しているということなんですが、その中で今問題となっているのは、農家から消費者に買ってもらうのが弱いというところなんですが、そこについて考えてみたいと思います。

 まず農家に伺ってみて分かったことなんですけれども、生産した有機野菜が採算が合わなくなってきているという印象を受けました。レインボー野菜、有機野菜として販売するわけですけど、その有機野菜に手間がかかっているということがあるのですが、その分のコストが価格に上乗せされていないのが不満な点だということでした。
 その理由として考えてみると、作った野菜を地域内で販売していこうというのが問題かなと少し感じました。有機野菜は高いんですが、高いものを買うという点で、長井市は所得水準が低いということが挙げられると言われています。産業の中心が農業ということで、所得水準が低く、お金がないので買ってくれないと考えています。
 2点目なんですが、これは日本の農業とかについても重要になってくると思うんですが、有機野菜に対して消費者はなんとなくいいなというイメージ思っていらっしゃる方が多いと思うんです。しかし、実際お金を払って買う段階になったら、どうでもいいやといった印象を受ける方が多いということです。それが日本の自給率とか日本の農業といったところに関わってくると思うんです。日本の農業がどうあるべきかというところを後でも考えていくんですが、日本の農業は経済的な面からすると成り立たないところがあるんですね。アメリカなどの大規模農業を行っている所と、日本の小規模な田んぼなどで行っている農業というのはコスト的に見て大きな違いがある。そういうふうに考えていくと、日本の自給率が低下していくと考えられていて、それをどうしていくかが日本の農業をどうしていくかにつながってくると考えます。
 3点目なんですが、有機野菜が採算に合わないということに対して参加している農家の方は別にいいんじゃないかという印象を持っている方が多かった。そうした方に頼っているところがあるという点で、レインボープランが弱いというところはあると感じているんですが、理念をちゃんと理解を示して、経済的には負担を受けるんだけれども、それに参加していこうといった協力的な方がいらっしゃるというところはかなりすばらしいと思います。こうしたレインボープランですが、経済的には成り立ちにくいということが、販売の面で出てくるところがあると思います。それは日本の農業についても経済的な面からすると成り立たないと考えるのですが、次の章では、日本の農業がどういうふうになっていけばよいのかということを、レインボープランについてまとめつつ、お話しさせていただくことになります。以上です。


レインボープランの総括

 レインボープランの総括ということで、みなさんにお配りしたレジュメの一番最後なんですが、とりあえず今日のレジュメの分と、日本の農業に存在している問題点というものを少し考えていきたいと思います。

 まずは評価できる部分としては意識的高さということがありまして、市民サイドに見られたことなんですが、例えば東京では自分の住んでる町とか都市でどういう運動しているかを知っている人はいるにしても、町全体の人がそういうことを知っているのは難しいと思うんです。そういった意味で、長井市では、プランの臨時指導という点で、理念だけは町の一つの基盤として浸透しているなと感じさせられました

 それからもう一つ感じたのは、ゴミの分別の徹底ということで、それについては、主婦にとってプランが日常生活の一部として定着しているということを感じました。

 それからもう一つ。この運動が市民を中心として成り立った運動という点で、こういった地域振興というのは行政が主体になりがちなんですが、ここでは、行政でなくて市民が理念、町の理想像を作りあげて、計画・立案をして、さらに具体化までもっていったという点で、革新的だと分かりました。とりわけ女性とか高齢者が運動の中心を担っている部分が斬新だなという感じがしました
 また地域循環、生ゴミから堆肥を生産して有機農産物に変えてそれを消費者に届けるという一つの循環を、問題はあるとしても、形として作ったということが、評価できるのではないかなと思います

 一方で、ここで述べてきたように幾つもの問題点がある。
 それを挙げてみますと、運動の担い手が不足しており、主婦、高齢者が中心になっているというのは、それ以外では革新的ではあるんですが、現実問題として考えた場合、本来運動の担い手である若年層とか男性層が運動の外にいるという状況が運動が市民にとって生活の一部ではあるけれどもあくまで周辺でしかなくて、理念通りに生活の基盤になるところまで至っていないんじゃないかと思いました。また農家サイドもやはり高齢者が中心になっているという点で、ある意味これも画期的ではあるんですが、将来を考えた場合、どこまで農業生産を続けていけるかという部分、若い世代が、本当に大規模な専業農家が、農家サイドを支えていかないと、運動は近いうちに形骸化してしまうんではないか、そういう問題があります。

 それから、生ゴミの分別回収ですが、運動が長井市という一つの地域的範囲を限定してしまっているために量的な限界が出てきてしまう。運動の今後の質的、量的な拡大を図っていく中で、一般家庭だけでなくて、市内の飲食店とか、そういう事業系のゴミにまで求めていかなければ厳しいのではないかと思います。車の両輪的性格といった、つまりは車の車輪が片方が機能しなくなれば、もう片方が残っていても機能しなくなる、先程述べましたように、循環サイクルであるがゆえに持つ性格で、生ゴミの分別とか堆肥の生産という意味では確かに脚光を浴びている画期的な部分であるにしても、やはり農家から消費者という部分の輪が弱い。その部分が切れてしまうと、堆肥の生産とか生ゴミの収集という部分だけでは成り立たない。やはり循環サイクルを一つのサイクルとして完成させていくためには、循環系のすみずみまで目を配らなくちゃいけない、そういう問題があります。

 それから、販売流通システムの不透明性ということですが、農産物の一部が市場の外に流れています。もちろんそれは経済的な採算をなんとか取ろうとして、域内でさばけない分を外に流して何とか採算をとろうということなんですが、そうすると、地域で生産したものは地域の中で消費するという理念はそんなに弱いものなのかと考えてしまう。もう少し理念を突き詰めていかなければならない。


レインボープランが提示する日本の農業、地域のあり方

 最後にレインボープランを少し拡張させますが、レインボープランがここまで述べてきたように、問題を抱えて提示している姿は日本の農業とか農村とか地域社会のあり方にもつながるという部分で、やはり日本の農業は、世界的に見ても一つの産業として位置付けられてしまって、どうしても経済性を求めざるをえないどうやって安く売るかとか、どういうふうに生産性を上げるか、そういった部分に目を向けなければならなくなってしまっているという農業の姿
 あとは農業を基礎として、農村を中心としてきた地域社会の自立性とか持続性とか安定性とかが、世界の流れの中でどんどん崩壊してきてしまっている。そういう姿に対して警鐘を鳴らしているのだなと思います。

 まちづくりということを理念に掲げたレインボープランの今後の課題としては、経済的、合理的に作られてきた市場メカニズムという一つの大きなサイクルに対して、地域社会を一つのユニットとした循環システム、かつては自然に存在していた循環システムを、今はなくなってしまった所からもう一度作っていかなければならないという困難さがあると思います。
 また世界的なグローバル化という中で、分業が進んで、日本の農業もどんどん淘汰されてきている。でも本当にそれでいいのかということを考えて、経済性とか合理性は社会の一つの指標ではあるんだけれども、でも人間とか人間社会のあり方というのはそれだけで決まるものではない。やっぱりレインボープランが警鐘しているのは地域社会の中で一つの循環システムとして人とのつながりを守って何とかやっていくというそういった課題がレインボープランにあります。

 その課題を何とか克服していく中で、本当に問題はここに集約されると思うんですが、やはり経済的な合理性と、地域循環といった理念の一貫性をどう両立させるか。この問題は、日本の農業そのものに通じる問題であって、地域社会に対する農業の役割とか、環境に対する多面的機能とか、そういった部分を含めた農業の役割を、経済性だけでなくもう少し広い指標から考えていかなくてはならないと、そういったことをレインボーは投げかけていると思います。

 最後になりますが、一つ付け加えさせていただくと、環境問題はレインボーの中では、一つのまちづくり、地域社会を作るという目標の中の一つとして位置付けていて、レインボーはやっぱり環境問題に対しても、地域循環とかそういった視点から環境問題に取り組んだ一つの例として評価できるのではないかと思います。そういったように、レインボープランは今後に向けても環境とか、そういう部分にとっても大きな可能性を持っているのではないかと思います。以上、レインボープランの可能性と、農業とか農村、地域社会のあり方の考えを述べさせていただきまして、レインボープランの総括とさせていただきます。ありがとうございました。




丸山先生のコメント-循環と地域通貨-

 矢阪先生、ゼミのみなさん、ありがとうございました。今日は大変おもしろい、興味深いお話しを伺いました。それと同時に課題は非常に難しいな、これは簡単に解決しないぞということも勉強できたと思います。

 私のコメントだけちょっと述べさせていただきます。地域の中で循環させるという考え方は、マーケットの中では必ずしも価値のないものを地域の中では資源として取り上げて、それを地域の生産物として、地域の人が消費するという意味を持っているわけですが、そうしますと、図の中のレインボープランの循環というのは、農家と一般家庭とコンポストセンターを結んで、物資レベルでは、地域の資源として回っているわけですね。だとすると、地域の資源を評価するシステムができてもいいわけですから、これはマーケットでは正当な評価はできないけれども、もしかして地域レベルで地域の価値を認めるようなシステムがあれば評価可能になってくると思います。

 具体的に言えば、私が研究している地域通貨を入れてみて、生ゴミを分別収集するときに、生ゴミを出したら地域通貨を受け取る、その地域通貨で野菜を買うということにしますと、マーケットで売られている野菜よりも割高な部分は地域通貨で払うということができてくるんで、それを今後の課題の中に組み込んでいくと、もしかすると突破口が開けるかもしれないとちょっと思いました。地域通貨に関しては、日本でも実験が、まだ2,3年くらいですか、長い所で数年ですけども行われてきています。矢阪先生、ゼミのみなさんありがとうございました。


農業と自然・社会環境の関係
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