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環境の世紀X ゼミ第二回目

院生の方の紹介

今回はご都合により、6限のゼミに佐藤先生はご出席いただけなかった。ディスカッションには先生の研究室から3人の院生の方に参加していただいた。

笹川さん:
みなさんこんにちは。私は今、佐藤先生の研究室で修士二年をやっています笹川と申します。私は今、環境問題の中でもエネルギー問題、その中でもエネルギー政策、特に自然エネルギー政策について興味があり、日本とヨーロッパの政策の研究をしていて、自然エネルギーを推進するNGOのようなところでインターンをしていながら佐藤ゼミに通っている状況です。私が新領域に通っている理由は、もともと私は学部は東大ではなく横浜市立大学だったのですが、そこに非常勤と言う形で来ていらした佐藤先生の授業に参加したのがきっかけです。今日はみなさんと楽しんでやっていきたいと思ってます。よろしくお願いします。

杉浦さん:
笹川さんと同じ研究室の杉浦と申します。私はここの文Tから法学部に行ったのですが、この二人よりはかなり年上で、学部を出てすぐに結婚をしてしまって、アフリカに二年行きました。私はこの時に司法試験を目指していまして、先生のおっしゃるスペシャリストになりたい、というのがありまして、家庭的な事情もあってとにかく自分は専門家になりたい、でも解決しなきゃいけない問題があって、そこから弁護士目指していました。
ただ、アフリカに行くとかその前に勉強したというのがあって結果的に今の新領域に通うようになりました。今日、佐藤先生がおっしゃっていたことは自分の体験の中ですごく身近に感じられました。というのは、司法試験の勉強をやっていた時期っていうのは、そこでのフレームがかちっときまっていて、法律っていうものは弁護士が作るわけではなくて、もちろん流れは作るものではあってもその作られた法律の中で具体的に問題を処理していたからです。
もう少し突っ込んだ話が聞きたい方はどうぞ個別の時間でも気軽に話し掛けてください。

水流さん:
私も修士二年で佐藤ゼミに属している水流と申します。私はもともとこの大学の教育学部に所属していて、そこから今の研究室に入りました。研究関心は、開発と今は公衆衛生のことをやろうと思っていて、フィールドをインドネシアに絞って研究したいなと思っています。よろしくお願いします。

全体討論

今日の授業をどういう風に考えていて、授業を踏まえてこれからどのように考えていくかをまず全体で話し合った。

院生:
何か意味がわからなかったとか、先生が言っていたことは間違えなんじゃないか、と思った方はたぶんいらっしゃるんじゃないかなと思いますし、専門性に偏るなという議論はまだメジャーではないのでそれに対して若干抵抗を覚えた方はいらっしゃるんじゃないかと思いますが。

司会:
授業を終始うなずきながら聞いていた方はどれくらいいますか?(参加者の多くが挙手する)
逆にちょっとおかしいんじゃないか、と思った方は?(数人手を挙げる)
ではどういうところについてそう思ったか簡単にお願いします。

学生1:
講義の内容はすごい難しくて、よく分からなかったのですが、研究者として、技術を研究するためにも専門性は絶対必要だから、専門性は専門性でしっかりやっていって、様々なことを知っている人は知っている人で、両方必要だと思いました。

学生2:
多面的なものを統合して考えていくことはとても素晴らしいことだと思ったのですが、多面的なもの全部を持ってくるわけにいかないじゃないですか。だから多面的なものうちどこを自分がやりたいのかっていうことを見つけるためにも、まずは専門をやって、その専門から何か新たな分野を模索していくっていうのが必要だと思います。

司会:
他に何か講義に関して違和感を覚えた人のコメントを聞きたいのですが。

学生3:
新しい学問分業をどうしたらいいかってことを考える時に、具体的な問題から考え始めるっていうのがあったのですが、具体的な問題ばかりに目を向けていると見逃してしまうところがあると思うんです。そこらへんを包括的に考えてもう一度学問の分け方を捉えなすことが重要だと思います。

院生:
例えば…?

学生3:
勘弁してください(一同笑)

司会:
ではグループに分かれたときに遠慮なく突っ込んであげてください。あとの方、何かありますか?先ほど違和感を覚えた方は数人いましたが、あとの人はみんなうなずいたと思うとそれはそれでなにか…。

院生:
むしろうなずいちゃたほうが問題なんじゃないか…。

院生:
別に問題ってことはないんじゃないかな。特に、納得できた人はどういうところに共感して、印象に残ったか聞かせてもらいますか。

学生4:
先生の考えには大筋には納得しているのですが、各分野、特に医学などはすごく細分化していると聞いているんですよ。そうすると、研究を進めるためにはやっぱり専門的な、本当にその分野に力を入れて尽くしていかなければいけないと思うんで、そういう分野が社会的にはどういう風に統合さていくのかっていうことが疑問です。

学生5:
僕が思うのは、細分化しているのはもう戻せないから、まとめ役みたいなものを作ってやればいいのではないかということです。今そういうものがあるのかどうかすらわからないが、そういうのがあれば素晴らしいと思う。

院生:
今の話は、学問の細分化は仕方ないから、統合するものがあったらいいという話でしたが、まとめるものがあっても細分化があったら仕方ないですよね…。それは学融合ばかりのようななんらかの組織があるということ?

学生5:
そうです。

院生:
そうすると、佐藤先生がおっしゃっていたような、同じフロア―の研究者なのに会話がないような現象を起こしてしまいますよね。

学生5:
僕が言っているのは、具体的な問題にアプローチするときに細分化された中にいる研究者たちが具体的な問題にも目を向けることを一人で全部やるのはたぶん不可能だと思うから、それを分業になるように社会的に色々なことを知っている人が指示をだせるような機構や動く機関ができればいい、という意味です。

院生:
それでも具体的に研究する人が環境倫理に関心を持つとか、例えば先ほどあったようにいわゆる分業化した研究者が影響を与え合ったり交流が行われるように、研究者自身がそういう意識を持ったり関心を広げたりすることでカバーするするほうが私はベターだと思っている。頭脳のほうだけ鍛えて指令を出すようなシステムだと…。

学生:
いや、でも一般のことに研究者が他の領域まで興味を持ってやっていくということはいいことだと思うが、全部の領域にまたがってやることは不可能だと思うので、そういったことももちろん必要だと思うが、まとめる存在も必要だと思いました。

院生:
一対一というよりは全体的なコメントも聞きたいと思います。先生の言われている専門性と、専門性にまたがらずにやることの二項対立みたいに考えてしまっている人がいるみたいなんだけど、私の理解だと、専門性を持たないというよりは「いわゆる」専門性から脱しないと環境問題にはアプローチできないのではないか、というのが先生のおっしゃっていることです。
だから「いわゆる」専門性っていうのは先生がおっしゃっている経済学や何々学といった学問の分業体系にあてはめられた分業、専門性で、「私は経済学を0から100まで知っているが他の分野は全く知らない」、といった専門性です。そして人間のキャパには限界がありますし、あらゆることを知っていなければいけない、といった訳ではなくて、例えば佐藤先生の場合では森林のことを勉強しているわけなんですが、森林のもつ多用な側面がまずありますよね。経済学からはいっていけるかも知れないし、もっと理学的、文化人類学的に見ることが出来るかも知れないけれど、その中で例えば経済学者なら経済のところしか見ないところを先生の場合だともうちょっと広げてみて、文化人類学的も入りつつ、政策論的なことも入りつつ、理系的なことも勉強しながら、もうちょっと包括的に問題を見ていこうというというその問題の専門家であるのが佐藤先生だと思います。
先生も専門家であることには変わりないんですが、今までいた専門家とは違うという、新しい専門家をつくらなければいけないという意味で言っていると思うんですね。ただみなさんのイメージで言っている専門家や今の世の中で言われている専門家って言うのはそういう専門家ではないから、専門家を否定するように聞こえるようにあえて言っているのかと思いますが。

院生:
今の発言に対しても言いたいことはあるんですが、他に意見の有る人はいませんか?

学生6:
それは要するに、オールマイティに知っているのではなくて、例えば佐藤先生の話の場合だと政策とか経済を6割7割やっていることで、そういう人達がお互い話をしながら理解を深め合っていくって言うことですか?

院生:
うーん、まぁそうですね、ある程度何かに特化しているところはあるかもしれませんが、先生の言われているところの本当の学融合が出来ている人っていうのは専門性のつけかたにT字型モデルと、スパイラルモデルがあるときに、スパイラルモデルの人だと思うんですね。(黒板にTの字と、らせんが書かれる)
これは私の研究室の助手の山下さんが言っていることなんですが、横を専門分野の広がりで縦が深さだとしたら、今までの専門家っていうのは例えばみなさんがいるような教養課程で全体的なことを学んでからその中で興味のあるものを深く学んでいく形をとっていますが、山下さんは、これからの問題解決の方法として、問題が中心にあった時に、その問題に関連することを学問体系にとらわれずに深めていくスパイラル型モデルを提案しています。(黒板上でらせんが描かれる)

グループディスカッション

司会:
まず、一人の人があらゆる分野を網羅することは到底無理だという点については、ほぼみんな同じだと思います。そうは言っても最初は専門をやってから広げていかないといきなり広く見ていくのはなかなか難しい、というのもあると思いますし、今まで自分はどいういう分野でやっていこうと思っていたか、またそれは専門をきちんと身につけたくてやっていたのか、東大に教養学部があること知っていて、幅広く勉強したくて来たのか、極端に言ったら自分はスペシャリストを思い描いていたのか、あるいはジェネラリストを目指しいたのかを話し合って欲しいと思います。
そして授業を受けてこれから先、専門性をどう考えていくかも話し合ってもらいたいと思います。授業ではある程度抽象的なことを扱ったのに対してここでは具体的に話せればいいと思います。また、新領域のことや院生の方が何を考えて新領域に入ったかを聞くことも自由に話し合って欲しいと思います。

●グループ1
学生:
・自分は理系なので大学では研究をするが、自分の研究分野とそれに関連する分野を知っておいたほうが、知らなかったらできないことをできるんじゃないか、と思った。
・自分がやっていくことが無駄にならないように色々知って、積極的に色々なことに関わっていくことが大切だと思った。

院生:このグループは結構理系の人が多くて、自分はどちらかというと学際的だと言われているコースにいながら、理系のことを全然知らないな、と思いました。もちろん全てのことを知ることは出来ないけれど、ドラクターという経営コンサルタントの人曰く、21世紀は知識社会になり、全ての人がどの分野でどのようなことが議論されているのかっていうことを全てではなくてもある程度説明できなければならないという。だから私も理系の分野でどのようなことが研究されていて、その人達がどのような考え方でどのような雰囲気の中で実験をしているのかする必要があるな、と思ってすごく勉強になりました。と、言うわけで理系の人ごめんなさいね(笑)

●グループ2
学生:
まず分科した各分野をつなげるにはどうしたらいいか、ということから話し合った。
・始めは各分野の人が集まって会議をするという案。
→やっぱりそれは無理で、妥協策は見出せない。専門家同士が柔軟な視野を持ってそれぞれ協力できれば良い。
・今は分科している各分野を融合するのは無理だから、おおまかな各分野の基礎知識をお互いが共有するという体制が必要。
・大学のような教育現場が中心となって広い基礎知識を与える機会になることが必要。
・各専門家が学会ではなくて一般の人に対しての分かりやすく説明をする機会を増やすのはどうか。
→聞く側の人達の意識も足りていないし、研究者自身もそうする意欲は湧かないから、難しいのではないか。
・テレビという手段を利用して、他分野の状況を主に専門家に紹介すればいい。
→マスコミは視聴率稼ぎに走るからテレビを有効に機能させるのは無理ではないか。
・最後に、ここの大学の教養学部という場で利害の関わらないなんらかの関係を作ってお互いに刺激し合うという形で各分野の基礎知識の共有が自然に出来ればいいという意見が出た。

院生:うちの班はみんなとても頭が良くてまじめで、何か意見が出たら、その意見に対して必ずその場合どうなるかコメントが出てくる感じでした。また、全体的に一つこれがどうだっていうのが出たらそれに対してアンチテーゼが出るような流れではあったが、私の受けた印象では専門性を追求しながら寛容性を持って佐藤先生の言うフレーミングにとらわれない視点を持とう、というのを受講生はここに来ていることで証明していて、あるいは実践していこうとスタートラインに立っている訳だから、それは素晴らしいと思いました。

●グループ3
学生:
・専門を重視すべきだという人は、幅広く物を見られる人(ジェネラリスト)が何人も集まっているよりも、一つのものを特定の視点から見られる人(スペシャリスト)が何人もいるほうが、同じものを様々な視点から見やすいと言う。
→そうではなく一人で複数の視点を持っていれば自分の頭の中で新鮮なひらめきが生まれやすいという意見も。
・学問全ての知識を得ることは、ほぼ不可能なのでまず自分の専門をやってから幅広くやっていくべきという点ではほぼみな一致。
・そうは言っても、環境問題を考えた際には漠然としすぎているので専門性を出して解決に向かうことも必要。もちろん、他分野のことが全く分からないでは困るが。
・総合的にいろいろやっていくという点でも、あまりきょろきょろしすぎるとやっていることが中途半端になって何も身につかない危険性があるのではないか。
→きょろきょろしている中で、何かが生まれることを期待すべきだという声も。
・先生の話にあったように、一つの具体例に即してやっていくという点に関しては一つのトピックについて調べていく課程で他の分野についても関心が出てくることが期待できるのではないか。
・院生の方から、十年前は環境問題関連の講義が少なかったのが今はたくさんあるように、傾向としては今から十年後にはもっと学際という言葉に関連した講義が増えていくのではないかと聞いた。
・環境学とは何か…環境というと理Uというイメージがあるが、もちろん他の分野も必要。
・いろいろな意見があってうまくまとめることはできません。

院生:
うちのグループはあまりまとまらなかっというが、確かにまとまらなかったです(笑)。一つには私があまり全体のことを考えずに話したということがあると思います。ただ、今日扱ったトピックはとても広くて深くて難しいので、これだけの時間と人で話し合ってもきれいな結論が出るわけではなくて、いろいろな意見を聞けたことが良かった。
このグループは理系が多かったが、専門性だけの限界も感じていて、他の分野を知ることの重要性を知っているが、ただ広く浅くやればいいのではないという現実性も持ち合わせていたのでバランスがとれていると感心しました。
私の考えるジェネラリストは、自分のやりたいことに必要な知識がどこから得られるかを知っていて、それを必要な分量だけとってこれる人だと思う。その点で、みんなのバランス感覚を頼もしく思いながらこのグループのディスカッションに参加しました。

講義(佐藤仁)
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