環境の世紀X  [HOME] > [講義録] > ゼミ第6回

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環境の世紀X ゼミ第六回目

質疑応答

質問:外から他の種類のタンポポが入ってきて在来種がなくなっていくのは生存競争があるのだから仕方がないのではないか?

先生:まずタンポポの例は授業でやったとおり生存競争ではない。人の産業活動がなければ海を越えてセイヨウタンポポが入ってくることはなく、つまりそれは自然な状態では形成されていかないものだ。ヨーロッパなどは大陸なので時間がたてば広がっていくものであるし、いろいろのものが掛け合わさってできたという背景も持つが、日本は島国なので外来の生物が入るとすごい勢いで生態系が変わる可能性がある。

質問:人間が運ぶのと動物(蜂など)が運ぶのではそんなに違うことなのか?

先生:移動距離がぜんぜん違う

質問:それは勝手に決めたことではないか

先生:それはどういう風に仕切りを作るかということ。生物多様性や希少種を大事だと思うかどうかは人それぞれで、なくなるべくしてなくなるなら何の問題があるのかという意見も一つの意見として当然ある。ただ国民的に合意形成をしていく中でちゃんと残していくべきだという風に考えているので今の方向性がある。考えるべきタイムスパンが長いほどいろんな意見があり、この問題はそれが長いのでなかなかすっきりした合意形成は得づらい。私にももやもやした部分がある。なぜ生物多様性が必要か詳しいことは「生物多様性の国家戦略」によく書いてある。

質問:日本のタンポポはどこからきたのか?

先生:朝鮮半島からのものと台湾からのものがあり、九州の南のほうには白いタンポポ(シロバラタンポポ)がありこれも多様性だ。

質問:先生は生物多様性を守ることの大切さの理由をどう見出しているか。

先生:一つは微量資源として次世代に継承していくこと。もう一つは身近にある自然として正しい姿で残していくことに見出している。

質問:正しい姿の「正しい」は何が正しいのかわからない。

先生:一つは国民、あるいは主体となる地域の住民がどう考えるかによる。20年前にはそのような二次的な自然の価値はあまり認められてなかったが、今はそれも認められるようになった。このように考え方は変わっていきはっきりこれが正しいということは少ない。だからその時々の人が価値付けをし、合意していくべき。ただ合意をするには生態系のメカニズムを知っていかなければ守ろうと思っても守れないので、そのメカニズムを知る研究や知ったうえでどうするかという技術が必要。
 またこういう合意は日本だけででなく国際間でもある。たとえば農業の多面的な機能を評価しそれを科学的な話でつめ、各国の合意で作られた農業環境指標というものがある。それによる評価によって、例えば農作物の保護貿易、などについて交渉していくということがある。ただどういう農業景観がよいかは国によって違うので、互いの国の話を持ち寄って共通の理解をしていき、そのなかで価値の基準を作っていくことが大事。
 地域の話、国の話、国際間の話といろいろな段階で、どう考えるべきかという合意が作られていけばよいとおもう。

ディスカッション

二次的自然を守るということのモチベーションについて話してきたが、これからはそれを守るべきだとしたときにどのようにして守るかを、行政、住民(農家)、NGOやNPO、の三つに分かれて討論してもらう。尚このディスカッションでは二次的自然の条件として、比較的山奥にあり、これまで地元の農家の人々が管理してきた林を想定した。そして都市住民を含めみんなで使いたいという意向がある、というシチュエーションである。

住民(農家)
○ 里山の事を一番よく知っているのは自分達なので基本的には自分達で管理したい。
○ 里山管理は難しいので行政に補助金をだしてもらいたい。
○ 実際自分たちだけで作業するのも難しいので環境保全ボランティアのようなものを組織したい。以下具体例
・グリーンツーリズムの企画の募集、
・町村内での森林調査隊の組織
・NPOの人々との連携
○レジャー化しすぎるとマナーの悪い客に里山を破壊されてしまう恐れがあるので行き過ぎには注意する。

先生のコメント
最初から行政に頼るのでなく、基本的に自分達でやりそれの補助として行政に金を要求するというのは正しい流れだと思う。その流れで現在ヨーロッパには直接所得保証という周りの環境を整えるということを続けている農家に対して補助金ではなく直接所得を保証するという制度がある。ただそれに本当に実際に効果があるのか、意図したことに使われているのか、という問題が上がっていて現在制度上の評価をうけているところである。農家とボランティアやNPO,市民団体との連携は非常に大事で、実際うまく連携しているところは活動が広がっていく傾向がある。

NGO,NPO
○里山を守るには市民みんなが利用でき、また利用したがるようなものでなくてはならない。以下はそのためにしていくべきこと
・遊歩道を作り里山を内側から体験できるようにする。
・自然がたくさん残っているところは危険なので危険区域を設ける。
・市民の参加を全て無料でやるのは無理なので、ビジネス的要素を入れる
・都会の人には本格的な森林体験は無理なので、比較的軽く体験でいる機会を多く用意する。
・昔から里山の管理をしていた農家の人たちの知識知恵を生かしていく。
○自然を残すというときに100ある自然を100残そうとするのでなく、100を97に減らし人が入れる部分を作っておくことで認められることによって97を100のときよりも長く残していくことがより現実的じゃないかという意見も出た。

先生のコメント
残っている二次林全部をNGOやNPOで保全していくのは難しいので、どういうビジネスと連動していけばいいのか、革新的な技術をつかってうまく産業に利用できないか、も考えていかなければならない。ビジネスを選ぶにあたって、どれくらい管理が行き届かなければならないか、どれくらいの利潤を見込むかなどいろいろな選択肢があり難しい問題だ。

行政
○生物多様性や在来種を守る理由
・絶滅の不可逆性
・昔あった自然ががなくなるのは感情的にいやだ
・生態系が変わることによって作物に害が及ぶかもしれない
・その生き物自体がひとつの文化とみなせる
○行政がやっていくべきこと
・貿易の制限によって外来種の侵入を阻止
・生態系保護のための補助金のシステムの充実
・動植物が併存していけるような環境作りの研究
○生態系は変化していくものであるので今の状態を保っていくのではなく自然に起こりうる変化とかけ離れ過ぎない程度スピードに保っていくことが大事ではないか。

先生のコメント
行政にできることとして条例、法律を作って望ましいと思われる方向に政策的に誘導していくというものもある。在来種が文化だというのは、それがある技術と併存しなければ生きていけないとすればその種自体が文化であるといえるので、イメージとしては賛同できる。現状を維持いていくことを無理に考えずに変化のスピードを考えながらやっていくというのは現実的である。その行政における考え方としては、すでに非常に被害を及ぼしている外来種には積極的に手を打ち、まだあまり被害が出てはいないが未然に防がなければならないものについては生態系の変化のトレンドの中にうまく封じ込めていくという手も考えるというものだ。

最後に


 二次的自然を守るという話は観念的に取り組んでいる人、科学的に取り組んでいる人、政治的に取り組んでいる人と様様で、実際の現場ではあるグループの意見が強くてだめになってしまう場合がある。その中で現実にいいものを残していくにはいろんな立場で考えていくことが大事。この問題の答えはひとつではない。いろいろな人たちの考えがうまくつながって出でくるものであり、それが持続しないと意味がないものである。だから今回みなさんの考えていることを知ることができたし、逆にこちらのほうからみなさんに知識の補足をすることもできたので非常に有意義だった。
 私は今は研究者だが昔は行政にいたこともあるが、立場が変わると意見がぜんぜん違う。だから立場立場で、自分がベストだと思うことを、相手を納得させるようなデータを集めて論理だてて説明し、相手に理解してもらうことは大事なことだと痛感しているので、このゼミがみなさんに反論されることを前提にものを考えていく練習になってよかったと思う。

講義(井手任)
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