環境の世紀X  [HOME] > [講義録] > ゼミ第9回

HOME
講義録
教官紹介
過去の講義録
掲示板
当サイトについて





環境の世紀X ゼミ第九回目

グループディスカッション

今回は3つのグループでそれぞれ違うテーマについて話し合い、その後議論の結果を共有してお互い意見を述べ合う、という形をとった。

グループ1

 テーマ:世界の水問題に対して日本ができることは何か、またどうしてそうしなければいけないのか

学生の意見

・日本ができることとして、技術提供と貧困問題の解決の2つがある。
・技術提供としてはインフラ整備や農業技術の提供があがったが、現地の人が使いこなせないとか金銭的に維持しにくいとかいうことがあるので、事後保証を確立すればいいのではないか。
・事後保証として、1つには経済援助があるが一番大事なのは現地の人に教育して技術を使いこなせるようにすることだ。
・貧困問題の解決の方では、日本だけの努力では無理なことだが、水の値段を所得に見合ったものになるよう調停して貧しい国の人が水を得られるようにしたい。
・水からは少し離れるが、貧困問題を解決するには日本が農作物などを輸入すればいいのではないか。
・日本が援助する理由の1つには日本の面子、というか誇りを持ちたいということ、2つ目は困っている人を助けたい、援助しないではいられない、という倫理観である。誰かの役に立ちたいという感情的な理由からも日本は援助しているのだろう。

先生:インフラ整備すると環境に負荷がかかることが多いのですが、その点についてどう思いますか。

学生:良いです。なぜなら環境問題とは人が幸福である環境を作るべきであって、確かに無駄なインフラ整備もありますが、飲み水のないところに安全な飲み水を提供できるというのは、それによるメリットの方がそれを作ったことによる環境負荷より大きいと思うから。

先生:日本がなぜ貧しい国を援助するのか、ということについて皆さんはこの倫理観という理由で納得できますか?現在、日本の失業率は非常に高くなっていますが何十億円も使ってODAで無償協力している。「そんなことするくらいだったら100万円でも200万円でも自分たちにくれ。」と言う人がいたとき、「いや、あなたが失業して苦しんでいても、私たちは日本としては、困っている世界の人たちを救わなきゃいけないんだ。」とどうやって説得できますか?「皆さんが小遣いから1万円ずつ出しなさい、それでアフリカに援助をします。」と言われたらはい、って出しますか?僕はちょっと抵抗がある。

学生:僕も小遣いを出すのはいやですけど、倫理観からというのには反対ではないです。倫理観から、というのは正しいと思います。なぜかというと、日本人が倫理観から他の国を救うような国です、っていう意味で別にイメージを売るつもりではないけれど、日本はそういう信頼できる国だ、と他の国が思って、それで他の国と協力していける体制を作れるなら、日本は食料自給率も低いし他の国にも頼らないと生きていけない国だから、今日本に借金がいっぱいあるとしても、ODAを何千億円か払っておいてそれによって他の国との信頼関係を築けるとすれば、何千億円というのは高くないと思う。

学生:今の意見を発展させただけですが、たとえばODAを減らしてしまって他の先進国、アメリカやヨーロッパから批判が来て、もしそれらの国と仲が悪くなったら、特に今アメリカとの仲が悪くなったら日本にはいろいろ問題があるから、そういうところとうまくやるための何というか交際費みたいなものがある。

先生:それはショバ代みたいなものだ。それでいいのか。でも経済界に対する説明としてはそれでいいかもしれない。「アメリカが怒りますからやっぱり払います。」と言うと、なるほどと言う人は多いだろう。

司会:皆さん、今までので納得行きますか?

学生:私は今の話を聞いていて、それって倫理観なのかなと思います。水問題に対して日本がなぜできることをしなければならないのかということについて、世界の水問題というのは日本だってもちろん関わることだから、ではないでしょうか。倫理観というより、世界の水問題といったとき日本にも直接、将来的に関わってくる問題に発展し得るからではないか、と思っています。

先生:具体的にはどういう風な関わり方が?

学生:今は日本は不自由なく水を使っていると思うんですけど、たとえば水が絶対量として世界的に不足したとき、「お金のあるところに水は流れる」から日本の中でも差は出てくると思います。

先生:でも足りなくなっても、日本が車とか機械とかを売って外貨を稼いでいる限りはお金に飽かせて札束で頬っぺたを叩くじゃありませんが「売れ!」と言って買ってくりゃいいでしょう。だからあそこで言っている根本的な問題は、世界レベルの環境問題を考えたときにどうして国レベルの福祉、国際レベルで言うと世界市民としての環境倫理、そういうことまで考えなきゃいけないのか、ということだと僕は思います。僕もまだ迷っているので皆さんに聞いたということもあるんですが、ヨーロッパの研究者に温暖化とか水問題とかを聞くと「アフリカで水や食糧が足りなくなって難民が増えると彼らは皆ヨーロッパに来る。そうなると俺たちの社会はめちゃくちゃになるから、そうならないために、アフリカの人たちがアフリカにいられるようにきちんと交渉するんだ。」と言うわけです。それを日本にあてはめて言うと、中国や北朝鮮からどんどん日本に来るようなことになると日本の社会が変わってしまうので、そうならないように、難民が来ないようにそれらの国に対してきちんと「こうしましょう。」と言うこともなくはない。だけど日本はアフリカにも支援している。

学生:まだ自分で納得はしていないんですけど、倫理観から、ということを言うような人がアフリカを支援しようとしてるわけじゃないですか。失業して職がないような人もたくさんいるのに、そういう人たちが自分たちの税金からアフリカに支援するっていうのはきっと納得行ってないと思うんです。だから倫理観から、って答えられる人たちがそれこそ倫理観で他の国を支援してると思います。倫理観から、って答えない人たちは支援したいと思ってないという状況ではないでしょうか。日本の中でもホームレスとか貧しい人とかたくさんいてそういう人たちが文句を言いながらも、国としては倫理観から他の国を支援するというのはそれなりに認められることだと僕は思っていますけれども、僕も今まで相当に苦労したことがないから、困っている人がいると聞いたら助けたいと思ってしまう。もっと身近に助けなきゃいけない人がいるかもしれないのにそう思ってしまう。そういう人たちがいっぱいいるというのが実際のところだと思うので、やっぱり倫理観から他の国を支援するという答えはなるほどな、と思います。

グループ2

テーマ:世界の水問題に対して、貧しい国の経済発展促進以外で先進国の科学や技術が貢献できるのはどんなことか

学生の意見

・議題について何を考えていいのか、というところで先生のアドバイスをいただいて経済支援だけじゃなくてお金以外の分野からどうにかできないか、とか学問を客観的にやるだけで満足するのか、そうじゃなくて現実の問題として解決するとしたらそのためには何が必要か、ということについて考えてみようという話になった。また水問題を広げて環境問題に対してそれぞれがどんなアプローチをしていこうと考えているか、意見を聞き合った。
・水問題を考えるときに、それは科学ではなくてむしろ社会的問題だと捉えられる傾向が最近はある。では今、科学は必要ないのか。
・継続的な研究、分析や観測のために科学はやはり必要だ。
・一般の人たちにわかる言葉で研究の状況を伝えることが欠けている。そのためには文理融合的な要素が必要だ。
・環境問題には政治や経済が複雑に絡み合っているから、文系的にアプローチしようと考えたが、意思決定のためにはやはり理系的なデータも必要だ。
・「貧しい国」の水問題と考えたとき、そこにお金があれば解決できるという簡単な問題ではなくて何が必要かと考えていくと絶対技術も必要になってくる。
・科学は状況把握のための大切な要素であって、社会に問題があるのならば政治などの社会的なアプローチが必要だし、技術に問題があるのならば科学からのアプローチが必要だ。現状を調べどこに問題があるかを突き止めてアプローチしていくことが大事だ。
・工学部へ行ってすごい技術を作りたい。状況把握にプラスして良い技術があれば意思決定の際の選択肢が増えるので、技術は大切だ。
・経済的にアプローチしていきたい。その国の状況を考慮して採算のとれる方向でアプローチしていくことが必要なのではないか。
・水問題といった時に「砂漠」のイメージがあった。砂漠というのは水が不足している。それは人為的な問題は少なくて科学的なアプローチが必要だと考えていた。
・工学部に行って環境問題に取り組もうと考えているが、人々の生活を良い方向に変えるべきものと環境問題を捉えるとすれば、人々を取り巻く製品を作っている生産者の立場からより良いものを提供していかなければならないと考えている。
・解決のためには文系的な力が大きいが、意思決定の際の選択肢とかデータとかそういうことにおいて理系にしかできないものがある。
・今はまだ何をやっていくかがわからないが、はっきりすればもっと自主的にアプローチできるのではないか。
・技術や開発は相当な力がある。技術とか開発されたものは、いったん社会に出るとそれを利用せざるを得ない状況になって、社会的な要素も絡むけれどもやはり技術などは何億人もの人びとを変える力を持っている。
・お金というのはやっぱり重要な問題で、何かをしようとしてもお金がなければできない。お金の力はある程度必要なのか。
・これは貧しい国の人たちに対して先進国の立場から何ができるか、と考えたが現地の人たちの文化や生活を考慮することも必要だ。
・時間が足りず議論はまとまらなかったが、いろんな意見が出ていろんな人がいろんな方向からアプローチしていこうとしていることがわかったので、それだけでもよかった。

グループ3

テーマ:水は生命の維持に不可欠なので、水に値段をつけるべきではない、水へのアクセスは基本的人権である、といった意見についてどう思うか

学生の意見

・最初、水をただにすることはできない、という意見が多数を占めた。
・一定量だけただに、その後は有料にするという意見については「一定量」が国や地域ごとに違ってしまうという問題点があがった。世界に一つ水のタンクがあってそこから全員が水を得るわけではなく、水はあるところにはあってないところにはない。
・一定量をただにするという発想は、水がある程度余っている地域でしか考えられないことなので地域を日本に限定して議論を進めた。
・一定量ただにした後の水の値段を非常に高く設定すれば、皆贅沢せず必要な分しか使わなくなって水資源の節約になるのでいいのではないか。人びとの水に対する意識を変えることができると考えた。
・一人暮らしの人に「一定量水がただになるとどうか。」と聞いてみたがそれほどうれしくはない、ということだった。日本では水をただにしたところであまり意識は変わらないのではないか。
・議論の際に基本的人権について触れられることが少なく、水と基本的人権はあまり関係ないのではないかという結論に至った。
・今の日本ではあまり高くはないが今まで言っていた最初の一定量に当たる分までお金を取られている。僕の意見としては、必要最低限の分もお金を取られているということは基本的人権としてはどうなのかと思うが、皆の結論は基本的人権と水は関係ないということだった。

学生による補足

・基本的人権と水は関係がないと言っていたわけではなく、水へのアクセスを得られるということは権利として認められると思うが、かと言ってただにするのは話が飛躍しているのではないか、ということだった。
・代替案として一定量をただにするということで話を進めたが、日本のケースだとあまり意味がないのでは、という結論に達した。
・発展途上国の場合なども話し合いたかったが、自分たちにあまりに知識がなく、どういう状況で水を手に入れているのかもその国によりけりだろうと思ってあまり話をすることができなかったので日本のケースに絞った。

先生のコメント

プレゼン能力は大事です。自分が考えていることを相手にわかってもらうための能力というのは一番大事です。

先生による総括

 自分が若干迷っていることもある、水問題について国際的に話し合われていることを3つほど挙げさせてもらいました。1番目のテーマのなぜ日本が水問題についてできることをしなければならないのか、ということについて、倫理観からということで皆さんが納得するのであればそれで何も問題はない。最後の方に出たのは非常にバランスの取れた意見ですね。反対する人も賛成する人もいるけれども皆が一応納得できる範囲のところでやってるんじゃないか、というのは確かにそうなんでしょう。ただホームレスはどうかって言うと、日本のホームレスは水へのアクセスがありますよね。話が脱線しますが、ホームレスにも強い弱いがあって公園にいるホームレスは立場が強いんです。つまり水場があって公衆トイレがあって、水へのアクセスがある。街が近いのでコンビニのお弁当もとれる。それに比べて川にいるホームレスっていうのは水へのアクセスは弱い。負けてあそこにいるんです。ホームレスの間でも落差があって、アクセスが非常に悪い人がいる。けれども日本のホームレスは何らかの形で水へのアクセスを得られますよね。それに比べると外国は違う。

 2つ目については、なるほどその辺かなと思いました1つ言うとすれば、理系文系という分け方が人で分れているのではなく、ある人が時には文系だったり時には理系だったりするということが今後たぶんありうるので、そういうつもりだと環境問題は取り組みやすいのではないかと思います。

 3つ目については、基本的人権の中で生存権というのがあって、水は飲まないと死にますよね。するとその分というのは基本的人権に入ってもいいかもしれないと思いますが、議論されると良かったのは、じゃあ人間にとって何が国に保障されるべきものであるかということです。たとえば寝るところとか食べ物とか飲み物とか。水はその中の1つで、もしかすると生産財としての土地も基本的人権に必要かもしれない。そういう資源というかgoodsとの関係の中で議論をしていけば議論を盛り上げるには良かったんじゃないかな、と思います。

 皆さんが議論されたことについては割とまっとうな意見で、ちょっとびっくりしたのはもっと環境保護にヒステリックな人が1人くらいいてもいいかなと思ったんですけれども、世界の大勢派に近い意見をお持ちの方が多いように感じました。

司会:他にまだ何か言っておきたいことのある方、いらっしゃいますか?

学生:グループ1なんですけど、「倫理観から」日本が他の国を援助するというのには国にとってメリットがあると思うんです。それは助け合いのデモンストレーションということです。そういうことが自発的に行われるようになれば、社会システムにある程度不備があっても社会がうまく働いていく、そういう話です。


目次へ