架け箸プロジェクト

プロジェクトの経緯

このプロジェクトは07年12月より環境三四郎が参加を始めた環境省の有志によるお箸に関する情報交換会がきっかけとなりスタートをしました。日本では国土の約6割が森林ですが、林業は衰退しており、また海外から多くの木材あるいは木材を使用した製品の輸入を行っています。その象徴的なものの1つであるお箸に注目をし、国産木材利用のきっかけの1つになれば、との思いにより、イーソリューション(株)の協力の元、お箸の作成を行うことになりました。

活動の履歴

2007年12月

環境省で若手有志を中心に、日本の割り箸に対して問題意識を持っている人が集まって情報交換会を行いました。

2008年3月

2、3度会を行った際に、木材のまとまった量の供給源として東大の演習林の話が挙がり、イーソリューション(株)の方が興味を持ち、マイ箸の作成に取り掛かることになりました。

2008年4月

千葉演習林の山本先生の協力により、実験材の未利用材がまとまった量を手に入れることが出来ました。

2008年8月以降

8月:箸デザインの決定
9月:袋デザインの決定
9月:簡易レポートの決定
9月:パッケージデザインの決定
10月:環境三四郎で販売開始
11月:東大生協で販売開始
2009年 1月:追加で1000膳の作成が決定
2月:『東大からの架け箸』東大グッズとして継続する仕組みの完成

「東大からの架け箸」の一言アピールポイント

・96年のヒノキで木目が綺麗!
・表面のアクリル加工と滑り止めで使いやすい!
・捨てられていた未利用材を使用+地域経済にも貢献!

お箸が出来るまで

(1)木の回収

千葉演習林 お箸を作るには当然、木材がなければ出来ません。今回は千葉演習林で行われている実験で発生した、樹齢96年の未利用材ヒノキのまとまった量(約1m^3)を確保することができました。樹齢96年のヒノキを箸用に使うことができたのはその未利用材は建材に使うことのできることの長さ(2m)に足りなかったため、山にそのまま放置されていたためです。環境三四郎のメンバー13名が千葉演習林の協力の下、山の斜面から丸太(数10cm四方)を引き上げ、回収しました。

(2)製材

回収をした丸太は角材(5×10cmの薄さで長さは30cm単位)に加工した後、乾燥を行う必要があります。千葉演習林の作業所とその近辺にある(有)丸正林業で乾燥と製材を行いました。その後、福井県小浜市に運送し、森木地店で角材を30cm程の長いお箸の形をしたものに削りました。

(3)塗箸

塗り箸の加工は基本的に全て手作業で行われています。今回は(株)若狭塗センターで表面の塗装をした後、お箸に刻まれている文字を塗り付けます。最後に表面のアクリル加工、滑り止めの加工を行い、お箸の完成となります。

(4)販売

東大からの架け箸 小浜市で完成したお箸に国内で加工された箸袋を付けて製品としてのお箸が完成します。このお箸の販売は主に生協購買部による販売の他、千葉演習林の通信販売や環境三四郎が参加しているイベント等でも販売を行っています。価格はどれも1膳1200円です。

(5)使用

このお箸は箸袋とセットになっているように、家の外で使うことを想定しています。このお箸を作成した思いとしては輸入割り箸の使用を削減したいというのがあります。現在では国産の割り箸の流通量は非常に少ない(全体の3%未満)ので、例えばお弁当を買ったときの割り箸の代わりなどとして使用していただけるとありがたいです。飲食店での使用の場合は衛生面の問題であまりお薦めされない場合があります。また、1度使用した後、同じ日のうちに時間が経ってからの使用も衛生面で問題がありますので、使用は遠慮いただくようお願いします。

森林保全に与える影響

(1)日本の森、林業の現状

日本は国土の約6割が森林に覆われています。そのうち約半分が天然林で、人の手による管理が必要な人工林も4割ほど存在します。間伐を初めとする手入れには多くの人的、金銭的コストがかかりますが、管理が十分に行き届いていない森が多く存在するのが現状です。現在日本には林業を行っている人が5万人ほどいますが、これは10年前と比較して約半分程度にまで減少しています。最近新規就業者が増えていはいるようですが、それでも従事者の高齢化も進んでいます。

(2)日本の森、林業の問題点

日本の森の問題点としては先に挙げた人工林の未整備が大きな問題として挙げられます。人工林は元々人の手によって間伐や下草刈りなどを行うことで成り立つ森ですが、そういった手入れが十分でない森や放置されてしまっている森もあります。管理がされなくなって森では栄養不足による立ち枯れを起こしたり、土砂の流失など様々な面で問題が出てきます。

森を支えるはずの林業も後継者不足による担い手の高齢化や外国産の製品に押されるなどして、多くのところでは苦しい経営を行っています。また、行政から支払われてきた補助金への依存体質から抜け出せず、十分な経営意識を有していなかったことも赤字経営の問題としてあげられることもありますし、そもそも森林経営を行っていないと答える森林保有者も一定数います。別の問題としては林業関係業者の数が減ると共に、業者間でのつながりが断絶し、木材の流通サイクルが途切れてしまっているという問題もあります。

(3)外国産製品の利点と問題点

外国産の製品は大きく分けて2種類あります。1つはロシアやアジアを中心とする木材製品(加工済みの製品)の輸入と、北米や北欧を中心とする原木の輸入です。アジア産の方では人件費の安さを武器に安い製品を作り、国産の高コストの製品ではなかなか太刀打ちするのが難しくなっています。しかし、アジア産の木材では違法伐採など出自の不明な木材があったり、伐採の仕方が将来の森林経営を考えない非持続可能な仕方で伐採をしていたりするものが多いと言われています。

一方の北米産では広い緩傾斜地を武器に、管理された森林による木材の大量かつ安定な供給することで、品質にばらつきのある国産木材に差をつけています。ただ、どうしても遠方から運ぶと言うことで、国内に大量に森林があるということを考えるとあまり好ましい方法とは言えません。

(4)この製品の利点と課題

これまで日本国内の森を取り巻く問題と外国産製品の話をしてきましたが、ではこのお箸は何がよいのでしょうか。利点としては2つあります。1つはこの製品の原料となった木材が商品になる建材に使えず、放置されていた未利用材を回収し、商品として販売している点です。これにより、この製品がこれまで経済的に無価値とされていた木材を経済的に価値のあるものとして、無駄なく製品に仕上げ、販売できるという1つのモデルとなっています。また商品として販売することで、利益を上げることができ、森林経営の上で1つのインセンティブ(動機付け)になることができます。2つ目は製品を仕上げる上で国内の複数個所の業者をつなぐことで、木材流通のネットワークを構築する手助けとなることです。業者単体あるいはある地域単体では難しいことも木材流通に関するネットワークあるいはプラットフォームを作ることが出来れば、製品の原料として使うことの出来る木材が発生したときに無駄にすることなく利用先を見つけることが出来るようになると考えられます。この製品を作ったことで、そのようなネットワーク構築に対して1つの例として使うことが出来ます。

課題としては、今回作成したお箸は3000膳分の木地に対して1100膳であり、規模が小さいと言うことがあります。また今回は製品の企画に重点が置かれていたということもあり、販路を含めマーケティングについては準備をせず企画をスタートさせているため、「広める」という点で課題が多くあると考えられます。お箸という製品としては非常によい出来として仕上がっていると思うので、余計に今後の商品についてはマーケィングを行うなど商品アピールに注力し、次につなげていくことが重要だと考えています。

今後の展望

今後の展望としては大きく分けて3つあります。1つはこの商品をしっかりと売り切り、次につなげるということ。次につなげることで、全国のいろいろな人たちが自主的に経済的に回っていける仕組みを構築する流れを作るいいパイロットプランになるのではないかと考えています。2つ目には今回作ったお箸の木地の余りを用いた環境教育を行うことを考えています。今回の木地は樹齢96年のヒノキということもあり、非常に香りもよいのですが、それを自分で削り、本当の「マイ箸」を作りながら日本の、あるいは世界の森林について考えてもらえるようなワークショップを行うことを計画しています。3つ目は地域への還元です。この活動は基本的には東京大学という枠組みの中で原料の調達と販売を行っており、東京大学のある本郷などへのアピールなども特にありませんでした。ですが、これを機会に文京区とも何かコラボレーションが出来ないかと考えています。

参考:

環境三四郎『割り箸から見た環境問題2006』PDF
http://www.rinya.maff.go.jp/toukei/genkyou/gaiyou2.htm (林野庁)
http://www.rinya.maff.go.jp/puresu/h18-8gatu/rinseisin/0829s1-4.pdf (林野庁)
http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0807re3.pdf (農林中金総合研究所)
http://www.e-solu.jp/ (イーソリューション株式会社)
http://www.uf.a.u-tokyo.ac.jp/chiba/ (東京大学 千葉演習林)

文責:太田祥宏(14期)

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