第3回講義内容

5月10日

「リサイクルの現状と将来性」

教 官:菊池 隆重
    補助教官:宮崎 明
所 属:菊池商店
配布物:レジュメ(B5 - 12ページ)
    「Qちゃんの分けわけ物語」(容器包装リサイクル法に関する資料)
    「くらし・ひとひねり」(動脈産業と静脈産業とを結ぶメビウスの輪)
    「平成6年度 飲料用アルミ缶 回収再生利用率について」

<講義内容>

(講義は、レジュメに書き込む形式)
(よって、以下は、レジュメを再記載の上、補足したテキスト)

(自己紹介)
(業界の異端児)
(菊池商店3代目、なくなってもともとと思って事業に打ち込んでいる)

基本理念

* リサイクルの根本は
 *永続すること
  一過性では意味がない(リサイクルの基礎条件・補助資料1参照)
 *資源は必ず循環すること
1缶単位の空き缶プレスは、却って困る
メーカー規格は、ブロック単位でつぶすことになっているが、1缶つ
ぶした缶をさらにブロック単位でつぶそうとしても、バラバラになる
だけ
自分でつぶせばいい 独りよがり的な考えでなだめ
リターナブルびん(洗って再充填)、カレット(再生びんの原料に)
再生びん製造時、古びんは35%までしか混入できない
だくさん集めても、利用しきれない
何故、資源利用率が35%か?
リサイクルは集めるのにコストがかかる バージンの方が安い
ただ、古びんの方が解けやすいため、熱効率上、35%になる
「60%やっている」というのは、古びん35%+工場クズ25%
 *地味な努力の積み重ね
現実をふまえて 環境事業であることを認識
 *産業・行政・市民それぞれの応分の能力の発揮が必要である。
排出するのは一般市民
システム作りは産業・行政、市民はそれに協力
 *平衡感覚(今までは、メーカーが悪い、消費者は善である)マクロ的感覚
消費者=受益者負担が当然
 *大上段に構えるのではなく、自然体が大事(宗教ではない)
宗教でない 思いこみはいけない
リサイクルの歴史は銅鐸・銅矛の時代からだが、産業としては幼稚
リサイクルと言っている間は、まだリサイクルが進んでいない証拠
cf.自動車は90%以上リサイクル品利用だが、何も言わない

* PPP Polluter Paids Principle
  環境汚染者負担の原則
  消費者もまた受益者であり、汚染者でもある。

* リサイクルにオールマイティはないが
 中心は自治体の資源回収作業であり、何よりも一般市民の協力に成否がかか
っている。

* またリサイクルもオールマイティではない
 リサイクルは環境を保全する意味では非常に有効な手段ではあるが、リサイ
 クルをすればよいわけではない。如何に資源を不必要に浪費しないかが重要
 であり、リサイクルは次善の策である。

* 有価物とは有価格物ではなく、有価値物である
 かつては資源の価格の中で再資源化費用が捻出できたが、費用の高騰及び資
 源価格の暴落によって、現在逆有償の問題が発生。
 有価値物……資源とは今の我々だけの資産ではなく、私達の子供を含めた子
 孫のものであり、今の時代だけで消費してしまってはならない。
鉄は、鉄クズの暴落で、2,000円のものをつくるのに8,000円かかる
有価物って?
行政「有価物なのに何で赤字になるんだ」
有価値物だから赤字になる
昔は、資源が高く、バージンも鉄クズより高い 有価値物→有価格物
今は、資源(バージン)がとても安い 有価値物≠有価格物
再資源化する費用と資源価格は別物
 環境の保全費用、環境を破壊してしまった場合の復元費用などは、資源価格
 がどうのこうのなどという範疇ではなく、最終的には経済破綻につながって
 いく。
環境保全コストより、破壊後の環境修復コストの方がはるかにかかる

資源化の問題点

* コストとは
 環境コスト
  環境を守るコスト
 資源化コスト
  コンサルティングフィ(主にシステム作りの費用)
コンサルタント会社に払う費用
  コレクティングフィ (資源収集費)一般家庭→行政
  リサイクリングフィ (再資源化費)設備費+操業費
  トランスポートフィ (再生資源納入搬送費)再資源化工場→メーカー
  その他 民活の導入 (コスト軽減化) (行政による資源化費用対比)
民活の導入が非常に大きな問題
再資源化にかかるコスト
 行政主体 キロ180円
 民間委託 キロ60円以下
 行政回収・民間再資源化 キロ120円
これらは、どうしてもかけなければならない費用だが、不必要にはか
けたくない費用である
自区で自前の処理センター 果たして区民のためになるのか?

* 自治体などによる再資源化の中で、とかく価格ばかり問題になるが、資源
 として一番の問題は、品質である
* 自治体の資源化センターでは、自治体の担当者の勉強不足およびプラント
 メーカーの資源に対する勉強不足などから、品質に対する認識が余りにもひ
 どく、資源にならないリサイクルが行われている場合が多い。
資源 品質も重要
* さらにひどい場合、自治体の担当者によっては、他の自治体に負けまいと
 装置の内容よりも華美に流れたり、またそれに乗じて不必要なもの、より高
 いものを奨めるメーカーも存在する。
  これにより、市民は不必要に高い再資源化費用を負担させられているので
 ある。
* 資源業界の意見をもっと真摯に受け入れる姿勢が欲しい。
そうしないと、きちんとしたシステムが作れない
しかし、資源業界は一段低く見られがち

* 品質を左右するポイント
 収集方法
如何に異物の混入を抑える方法を導入するか
袋収集か、コンテナ収集か

足立区 コンテナに裸で投入→良い資源になる
品川区 袋も可→ごみを混ぜられたりしてしまう、悪い資源になる
 分別排出などの徹底など、市民に如何に協力をしてもらうか
資源別排出
アルミ缶と鉄缶、結局、機械で分別 市民の分別は無駄な努力に
びんの分別は機械化困難
(サイズをそろえればできるが、そのために割ると、粉々になった部
 分は、機械分別できず、使えない 粒度をそろえたりすると、資源
 化率は4割以下にもなりかねない)
 機械選別が最上の場合、目視選別が最上の場合、がある
資源のプロの意見活用(資源業者・メーカー・プラントメーカー)

* 資源化コストを左右するポイント
 収集システム・排出方法、収集方法(行政自らが行うのか民活か)
 リサイクルシステムのあり方
自治体自身で回収・選別・資源化まで行う場合
民活をどこまで導入するのか

* 当社プランニングによるリサイクルシステム(補助資料2参照)

* 東京大学(駒場キャンパス)の例(補助資料3参照)
駒場キャンパスでは、選姫・缶太郎という機械で缶を分別

* 国の対応 法規制
 再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)
 アルミ缶・鉄缶の表示(△と○、それぞれ頭文字のAとSをイメージ)
 プラスチックの材質別表示
見た目だけでは分からないからこそ、マークを表示
 容器包装リサイクル法(補助資料4、5、「分けわけ物語」参照)

リサイクルの将来性

* 生産、流通側の対応 動脈側
5つのPとも関連
 自主回収ルートの開発と拡大
資源業者とのタイアップ
 法の整備 システム改善のために
 ニーズさえあれば、その後のことを考えないシステムは改善すべき
紙缶・ワンウェイびんその他たくさん
これらがたくさん集まったとき、誰が牛乳パックのように洗ったり割
いたり干したりするのか?
 資源利用率の向上

* 資源業者(受皿側)の対応 静脈側
 自らの存在理由の確立 今までは受け身 これからは事業として積極的に
資源の整理機能
安定供給(コンデンサー)備蓄・放出
 資源の「整流子」の働き しかし、現在では相場を見て、下がった
 ら放出、上がったらため込む
 これでは流通を阻害しているようなもの
低コスト処理
 低コストは我々だからできる 行政と違う点
品質保証
 時代に即応したシステム作り
 資源の新規需要開発の研究
古紙はただ紙の原料にすればいいのか
コンポストをすればいいのか
びんはびんにすればいいのか

* 新規需要
 日本人は、品質を気にしすぎ
 だからそのまま再生できず、新規需要を掘り起こす必要
 ただし、リサイクル商品と他の商品は、同じ単価で競争すべき
 「リサイクル商品だから買え」というのはおかしい
びん →路盤材・建築資材
生ゴミ →コンポスト・ふるさとの野菜作り
 コンポストで堆肥化したところで、それが本当に野菜作りに生かさ
 れるのか
古紙 →紙炭
(砂漠化の対処・非常用燃料・大気汚染の緩和・処分場延命化など。
 但し、再生紙になるものはできる限り除く)
 焼却所で燃やしているのは、ほとんど紙 もったいない
 そこで、不要の機密文書を溶かして円柱状に成形という機械がある
 が、その機械で生じた円柱状の紙材を紙炭化
 紙炭は普通の炭よりも火付きが早く、臭いもしない
リサイクルを利用して、新素材づくり 楽しいこと
少しも宗教的ではない

その他

* 「くらし・ひとひねり」について
組み立てると、静脈産業と動脈産業が連結される

* キクチ・リテックを作った訳
 資源を知らない人たちが作るリサイクル設備がほとんどである。
 自治体・プラントメーカーとも華美に走る方向がある。
 本当に必要なものが何か知っている人間が少なかった。

* リサイクル・ステルナー・ジャパン協同組合を作った訳
 自治体がリサイクルする上で、必要とされる組織を目指し発足。
 自分の会社はこれしかできないから、「他に当たれ」式で総合的なシステム
 が組めなかったから。
 必要と思われる業界の、代表的な会社を選び設立。

最後にもう一度

 リサイクルは決して派手なものではなく、地味な努力の積み重ねである
 そして、やり方によっては楽しいもの

<講義後の質疑応答>

(Q) リサイクルとしての企業の存立の可能性は
(A) 99%明日つぶれてもおかしくない
みんなやる気がないから、走れば差がつけられる

(Q) 行政の補助金と企業
補助金と委託費ではやることは同じだが、意味が違う
赤字企業にとっては、税制優遇は意味がない(通産省のやり方)
通産省の補助金 多くの団体を通じて、結局少なくなることも

(Q) 行政の効率の悪さは何とかならないのか
(A) 本当に効率を考えているのは少数 大体は面子

(Q) 諸外国は?
(A) 米国は、ボランティア(ホームレス)による収集(デポジット制)
ドイツやフランスもそれぞれの仕組み
国情が違うので、日本に持ち込んでも意味がない
例えば、ドイツには空き缶がないし、びんはほとんどワイン瓶

(Q) 紙炭のエネルギーは?
(A) はじめは委託で紙炭を作らせた しかし、100のエネルギーで1の紙炭
今は自分のところ 廃熱利用を検討中

(Q) プラスチックのリサイクルは?
(A) 分別装置は、全国に1工場のみ(栃木) 大阪に1つ建設中
PETは一部リサイクル
他のプラスチックのリサイクルは全くないと言ってもいい
但し、企業の産廃のプラスチックは、単品大量のため、リサイクルしている

(Q) リサイクル、自治体は?
(A) 都から区に移管
都は職員が余るし、区には金がない
都と区の関係には、いろいろな要因が含まれている

<事後勉強会>

宮崎 動脈産業は小さくても年商1,000億円、一方、静脈産業は大きくても年商10億円
私は両方経験している 橋渡しを務めたい(接点)

学生 菊池商店、リサイクルはいつから
菊池 広い意味では昔から
行政関連は、old scrupは、昭和58年〜 アルミ缶(=おいしい部分)と鉄缶
平成4年〜 都の資源化開始のお手伝い
cf. new scrup……製材後の残り木片など
自分の工夫を仕事の中に生かす
同業者との討論会 → 複合資材の資源化
知人の頼み → アルミキャップの資源化
学生 リサイクル産業の将来性と絡めて、一般市民のできることは?
菊池 いろいろある 行政のシステムに協力すること
宮崎 ドイツ 20年前から環境教育
 → その子供が親世代になったとき(=現在) 活動は活発になった
モノはたくさん作る(=経済発展) → どんどん捨てられていく
事業者が責任を持たなければならない
 → 品質の管理(部品別) 素材ごとに番号を付けるように
菊池 沼津市 17種の分別
(白瓶、茶瓶、ビール瓶、一升瓶、アルミ缶、鉄缶、新聞紙、雑誌、……)
市がはりきって啓蒙運動
負担が大きすぎて、尻すぼみ(始めにやり始めた人は、すでに年を取った)
宮崎 びんや缶だけではなく、もっと身近なモノがどんどん捨てられていく
(机、冷蔵庫など)
古タイヤも野積み状態
古タイヤを炭化して住宅用の資材に(空気の浄化、湿度の調整など)
現在はテストの段階
菊池 一時期、タイヤは燃料にした しかし、公害の問題で現在は禁止
宮崎 ごみを燃やすと公害(プラスチック→ダイオキシン)
通産省から完結型レポートの補助金で、
新しいリサイクルシステム(いろいろなリサイクル)の実験事業
民間の活力に委託
学生 啓蒙活動は
菊池 例として、北区
比較的短期間でリサイクルが進む
核となる人たちを啓蒙してから、人々(一般市民)を啓蒙
 cf. 国のCM(マスに対する啓蒙) → 反発を招くだけ
大上段に構えないこと 地道な努力 人間関係から
しかし、現在は平衡感覚を持つ人が少ない(興味の持ち方が両極端)
 → こういう人にこそ(こういう人を対象にして)、啓蒙した方がよい
宮崎 ドイツの例
小学生に対する学校の啓蒙
小学生→親 の啓蒙が大きな効果
上からでなく横のつながりが好ましい
菊池 我々の業界
みんな自分のことしか考えない → 却って業界の不利益に
業界の発展のために、人々を啓蒙した方がいい(この講義もその一環)
宮崎 リサイクル
次の人に渡すことを考えなければならない(バントリレーのようなもの)
リサイクルする人は、大きさ、分別、……を考えるべき
次の人が要求するものを渡すべき
自分がリサイクルしたからといって、次の人は使うべきという考えはおかしい
例えば、コンポストで堆肥を作って、それを使う人がいるのか
どうやって、使ってもらうかを考えるべき
菊池 缶について
缶プレス 1缶だけだと、体積が1/10になる
しかし、ブロック単位では、体積は1/2.5程度にしかなっていない
小さくできる(1/10にできる)という思いこみから、7〜8年前に流行った
思い込みのリサイクルではいけない
北区の啓蒙活動について(北区エコー広場館)
学校給食の残飯についてのコンポストでできる堆肥は、農家と契約
非木材紙……木に近い1年草(1年で4m伸びる)を紙の原料としている
   経済性もいい
啓蒙施設で、親子の触れ合いもできるし、啓蒙もできる
学生 経済性とリサイクルの関係は?
菊池 短期的には、リサイクル商品ということで一般人が買えば、
大量生産で安くすることができるのでよい
しかし、リサイクルと言われている間は、本物ではない
例 脱墨していない紙 → 非脱墨紙と言っても売れなかった
  発想の転換 brown paperとして、売り出せばいいのでは
(リサイクル商品としてではなく)
全然関係ないことだが、ウォッシュレットの普及によって、
再生紙トイレットペーパーが使えなくなった(ぼろぼろになるため)
学生 リサイクル 経済性評価ばかりで、エネルギー効率は報道されないが
リサイクル産業の研究として、文系的アプローチだけではなく、
理系的アプローチもすべきなのでは?
菊池 資本規模が小さいので、先行投資額が少ない 日々の生活に追われている
動脈産業のシステム全体に対する研究に期待(現在は研究途上らしい9
宮崎 製造者(動脈産業)……安い素材を利用してしまう
テトラパック
……トータルエネルギー(静脈産業も含めたシステム全体)では一番安い
積載しやすいし、利用後も折り畳んで再生紙としてリサイクルできる
学生 全国的な組織はないのか
宮崎 現在は、まだ缶だけ瓶だけの組合レベル
企業 ISO 14000 レベルでは、
トータルシステムを考え、監査されなければならない
そういう動きは、世界的に現れ始めている
企業も世間の水準に合わせるため、改善していく
日本では、容器包装リサイクル法
そのうち、リサイクルが普通になるだろう
学生 官庁の役人の意識は?
菊池 通産省は製造者側の組織 厚生省は保全側の組織
いろいろな組織があり、それらは同じスタンスに立てない
容器包装リサイクル法も厚生省が独自に作ったが、通産省が後で相乗りした
宮崎 94年の世界環境会議
世界的には、取り組む動きが始まりつつある
もっとも南北の対立もあるが
菊池 焼却場は、日本には世界の半分も存在する ダイオキシンの発生量も多い
紙も燃やすのではなく、トータルシステムで考える必要がある
宮崎 米国では、
(燃やさないで)埋め立て処分場 → 公園(数年) → 住宅地
しかし、これは土地が広いからできること
また、米国では、NGOが活発に活動している。
これは、社会システムの違い、つまり税制の違い
(税金の1割は自分の好きな組織に納められる)
何をするにもお金が必要である
学生 リサイクルできる品目は?
菊池 燃料としてのリサイクルだったら、プラスチックもリサイクル可能
普通のリサイクル(プラスチックに戻すこと)は、経済性から事業化困難
ドイツでは、PETボトルを肉厚にして、リターナブル(25回可能)にしている
そして、回収率は50%
しかし、捨てられるPETボトルの総重量は、肉厚のため重く、
従来の使い捨てに比べてに比べて、却って多くなっている
トータルのエネルギー消費を考える必要がある

学生 ドイツでは、何故、20年前に環境教育が行われるようになったのか
一般に、政策は、社会のレベルを反映するもので、市民レベルで環境問題に
対する意識が低いときに、環境政策が実行されうるのか
宮崎 ドイツは、近隣諸国の工業活動が、自国に公害をもたらすような位置に
存在している
それとの関係で、昔からそういうような問題(=環境問題)に取り組む必要が
あり、それなりの意識があったのではないか
但し、私は当時のドイツの行政に関わっているわけではないので、
正確なこと、具体的なことは知らない

(最後に一言ずつ)
菊池 リサイクルは基本を抑えれば、非常に夢のある世界である
地道な努力が、その基本である
宮崎 一面にとらわれず、静脈と動脈を考える必要がある
また、みんなの意見を素直に聞くことが大切