第5回講義内容

5月31日

「生物生息地保全のための視点」

教 官: 加藤 和弘
所 属: 東京大学農学部附属緑地植物実験所
配布物: なし

<講義内容>

生息地とは

habitant……(特定の)個体と関連
Biotop………→今回の講義で取り上げる概念

東京近辺での調査(三四郎池、小石川、後楽園、六義園、……)
どういった種類の鳥がどれだけいるか
 → 緑地(=高木に覆われている)の面積と関連しているのでは

(生息している鳥を公園ごとにグループ分けしてみる)
公園  グループA  グループB  グループC
 鳥
グループ1   /////////////
       /////////////
グループ2   //////////////////////////
       //////////////////////////
グループ3   //////////////////////////
              ///////////////////
グループ4          ////////////////////////
              ////////////////////////

面積が大きい公園に限って見ても、生息する鳥の種類が違う
(鳥の種数と面積は比例していない)
 → 何故?

生息地の植物構成と種数の関係

植物構成が違うため
その根拠として、低木層が発達するにつれて種が増えている
(鳥の種数が、低木被服率と比例している)

鳥がよく使う木(中高木、低木、地表、人工構造物)の調査
原則として限られたところを使う鳥は、低木に生息
どこでも使う鳥は、中高木、低木など幅広く生息(中高木がメイン)

生息地を植生によって区分する
→ これをもとに地図を作成
  (日本はまだ始まったばかり、
   ドイツ、オランダでは実際にビオトープ地図を作成)
開発や保全のとき、参考になる

生息地の面積・生息のプールと種数の関係

同じ植生分類の生息地では、どういう違いが、生息の違いになっているか
 ↓
島嶼生物学の考え方
 広い島、大陸に近い島ほど種数が多い(グラフは資料を参照)

面積が増えると種数が増える

この考え方を陸上に応用
市街地や農地を海に、それらに囲まれた自然(二次林など)を島と見立てる

1970〜1990頃調査 → 囲まれた自然の面積が増えると種数が増加

その理由として考えられるのは、

1. 面積が大きいと、個体群が大きくなる
  面積が大きいと、単位個体群が大きくなる
  シミュレーションの結果より、個体群がある程度なければ、
  持続して個体数が残らないことが判明
  →子孫を残す確率(つがいができる確率)、遺伝的多様性と関連

2. 面積が大きいと、周りの空間の悪い影響が経る
  例えば、補食圧は、森の外では常に高く
  森の橋から中に100m入ると、激減する
(cf. 狭山丘陵では、ハシブトガラスが、内外問わず侵入して
 卵を食べてしまうため、成り立たなかった)
  (補食圧は、人工の鳥の巣に、卵を置いて、減少数で調査)
  →半径100mでは、樹林地として機能しないことが分かる
  攪乱要因に関する調査も、補食圧とほぼ同様な結果となった

3. 面積が大きいと、中に微小な生息地が出てくる

生息地の連結

しかし、面積を広げれば、それで良いというわけではない
都市部では、広げようとしても、土地がなくて、広げられない

そこで、生息地と生息地の間の連結性
 ……島嶼生物学の「大陸から近いか遠いか」と関連

連結のメリットとしては、
 よそからの移入
 遺伝的交流
 広い生息地が必要な種にとって生息可能に(全体で見れば広い生息地)
 いろいろな生息地が必要な種にとって生息可能に
  (主に、池と樹林地、例えば、渡り鳥などはこれに当てはまる)

狭山丘陵に点在する樹林地
比較的大きな樹林地から近いところは、樹林地が小さくても種数が多い
 →鳥が供給されていると考えられる
樹林に関しても、カケスが種を運ぶため、同様に考えられる
(放っておけばシラカシの樹林になると言われていたが、
 実際には、遠いところではシラカシの幼木がないことが分かった
  → いずれはシラカシがなくなるということ         )

生態的回廊の発想、ビオトープネットワーク

何とかつないで、連結させていこう → 生態的回廊

実験の結果、鳥、小型哺乳類が実際に移動する
→しかし、これをやるにも土地が必要
 それならば、今の生息地を少し大きくしたり、
  まとまった生息地を作った方がいいのでは
 → どちらがいいのかは現在も論争中
しかし、現実問題としては、こういった形の土地の方が確保しやすく、
ビオトープネットワークが作られつつある

ビオトープネットワーク……生息地どうしを環境整備道で結ぶ

オランダでは
(国の事業として、進められている)
どこを結ぶかを規定して行われている

過去100年間 植林を進めてきた(生息地保全のためではないが)
 → 結果として、樹林地が広くなった

繁殖つがいの鳥の生息密度を調査
 古い林もしくは古い林とつながった新しい林では、高い
 新しい林では、数十年経った今でも低い
  →ビオトープネットワークの発想

回廊でつなぐ以外にも、
移動の妨げとなるもの(高速道路など)の影響を取り除いたりする
 具体的には、動物の移動のために高速道路に橋を架けたり、
 入り込まないようにフェンスを張ったり、
 移動へと誘導するように溝もつくる

回廊の理想的な幅は? 広すぎるとよくない?
実験(3m、1m、0.4m)の結果
0.4mでは全然移動せず。
1mではかなりの個体が移動
3mでは却って中にとどまってしまい、移動しなかった
中でとどまれば、回廊としての機能なし ダメ?
 →それでもいいのでは
しかし、回廊は生息地に比べ外部の影響が大きいので良くない
ただ、回廊の幅と外部の影響との関連は、調査中

生息地とは

植生、水、人為的影響、面積などが関連

「よりよい生息地のモデル」(資料参照)