第9回講義内容
6月28日
「資源、環境制約を考慮した
持続可能な発展の可能性について」
教 官: |
松橋 隆治 |
所 属: |
東京大学大学院 工学系研究科地球システム工学専攻 |
配布物: |
参考資料(A4 - 23ページ) |
講義内容
<目次>
環境問題に関心があった → エネルギー問題
今の生活 ― 非常に便利、豊かな生活、私も生活の恩恵
そういうふうに変えていくか 文明を頭から否定できない
前近代 ソフトパス(自然の途)
近代化 ハードバス(人口の途) 現代はこれ
未来 ホロニックパス(調和の途) 「ホロン」(造語)
日本語でいうと「全体子」
調和と共生
原子論・個人主義 ― 要素還元主義
→ 均一に分化 → 集中化・巨大化(マスプロ)
この方法、いろいろな問題点
これに対して、
(1)経済のソフト化(情報化、軽薄短小) ←重厚長大
(2)人々の意識の変化(精神的豊かさ) ←人々はお金を蓄えても豊かさ感じない
(3)システムの変化(分散型のシステム)
調和と共生
→環境問題だけでなく、国際関係、紛争問題などにも同じ値があるのでは
しかし、そのための方策はまだ見つかっていない
皆さんと考えていこう
技術だけではダメ
エネルギー問題
エネルギーの生産・流通・消費を1つのトータルシステムとして捉える
人口の問題 図表 国連の人口予測
国連の中位推計だと、100億人に(2050年)
エネルギーの使用量、現在は先進国と発展途上国でかなり違う
将来は、
人口が増える+1人当たりのエネルギー消費増加(途上国も先進国並み)で、
エネルギー消費が、大幅に増加
天然ガスの消費量 図表「限界を超えて」図3-11(P91)、図3-12(P92)
指数関数的な成長 20年で消費量が倍になる
天然ガス資源量 発見されていないものを含めても埋蔵量は、2030年まで
指数関数的な成長(20年で消費量が倍)に合わせて、資源を見つけなければならない
加速度的に増加
どれだけ多くの資源を見つけても、消費に追いつくことはできない
銅 図表「限界を超えて」表3-3(P106)、図3-16(P107)、図3-17(P108)
だんだん品位が低下
品位が低くなると、急速に鉱滓の量が増大
低い品位の鉱石を採るようになると、金属を掘るためのエネルギーも急速に増加
資源の枯渇→エネルギーの枯渇を推進させる CO2の排出量も増加
その中で、我々はどのようにすれば、持続可能な道に行けるのか
考え方として、LCA
エネルギーを掘り出す側非常に誇り、危険な作業
エネルギーを使う側上記を意識せず エネルギー消費の貴重さに気付かない
cf. 食糧 食糧の場合、子供の頃から認識、生産の場も見ている
LCAは、我々が、そういうことを実感できる手段
例えば、缶ジュースを飲む―どれだけのエネルギーを使っているか
できれば、数値だけでなく、そういう生産過程も目に浮かぶようにしたい
(VRなどを使って)
統合収支
INPUT → SUBSYSTEM → OUTPUT
↑ ↑ ↑↓
その他のエネルギー
これをまとめて、(単にエネルギー効率=OUTPUT/INPUTではなく)、
OUTPUT/全エネルギー を考えて、
IEB = Eo / (Ei+Ef)
ライフサイクルで考えると、 レジュメ図1-1
(採取)→(輸送)→(変換)→(最終利用)
例えば、ガソリン乗用車と電気自動車の統合収支の比較 レジュメ図1-2
理想的な社会が突然起こる ― ということはまず考えられない
工学部の人間―少しずつ改善していく(地道な技術開発)用に努力
→ 頑張れば、我々でもできる
いきなり理想的な社会がやってくるとは考えない
電気自動車→太陽電池にしてもよくなるわけではない
統合収支で考えると(全て計算、寿命を20年とした場合)、
エネルギー収支1.65(1の石炭で1.65のエネルギー)
∞のエネルギーが得られるわけではない
→しかし、一歩、二歩、前進しているとはいえる(理想的な技術ではない)
新エネルギー……枯渇性資源を効率よく使うための技術
省エネルギー……だんだんと効率が上がっていく、
たとえばクーラー(今は、昔の2倍くらいのエネルギー効率)
1歩2歩積み重ねていく
プリントP7
R/Pが年が経っても変わらなければ、持続可能
r + a - b + C0 c / (1-C0) ≧ D0 / (μ0 R0) (1-C0) = P0 / R0
CO2のような環境排出物も負の資源と考えて、同じように評価できる
図1-4 顕在乖離度、潜在乖離度 各資源について
乖離度を上げていけばよい → 図1-14 少しずつ頑張っていく
もう少し具体的な話(我々が1歩2歩進んでいくためには)
家の断熱材
太陽電池(屋根の上の電池パネル)
太陽光を利用した家
ゼロエネルギーに近い家
照明((年)が進むにつれ、(log照度)が増加)
自動車 燃費が向上(1l何キロ走るか)
少しダイナミックな話
太陽電池 ソーラーブリーディングシステム
太陽電池からのエネルギーで、太陽電池を作る
理想的には1のエネルギーで、∞のエネルギー
現実には、パーシャルブリーディング(部分増殖)システム
→統合エネルギー収支 1.65→6 コストも低下
将来的には、砂漠においてソーラーブリーディングシステム
エネルギーのリサイクル エネルギーのカスケーティング
高温の熱 → 質が落ちる
→ 少し低い温度を必要とする所に回す(ヒートカスケーティング)
熱の多段利用 都市の構造まで考えて 工場→家庭
エネルギー消費……1/10になる
熱需要の温度別分布 高温熱消費の施設から、低温熱消費の施設へ
(鉄鋼 → 紙・パルプ → セメント → 石油化学 → 民生)
業種の中では、現在もカスケーティングされている
問題は、業種間のカスケーティング
効率 抽象的なモデル 60%に
関東近郊
廃熱源(発電所・鉄鋼、千葉)→廃熱需要地(民生など、神奈川・東京)
少し離れているので、ロスが大きい 熱輸送の媒体などの改善が必要
資源のリサイクル
(1)鉄スクラップ 古紙
(2)転炉鋼 0.56TOE/t-steal / 電気鋼 0.14TOE/t-steal
(3)Sn、Cu
産業連関表 matrix
物質の流れの行列 → 逆行列で解析できる
鉄屑の発生量 将来の量も予測できる(老廃屑は過去の建築の量によるため)
効率改善のためには (1-8)式の各要素について、努力する
→ 持続可能な発展ができるのでは?
こういう話 いくつかの場で話した
根本的には環境問題は、
「環境が病んでいる → 自分も病んでいる」
(「自分は豊か、しかし環境は病んでいる」のではなく)
我々人間―動物と同じ
谷津干潟の野鳥
そういうものを見ていると、何とかしなきゃという気持ちになる
→自分の分野では何ができるか
バングラデシュ 長い間イスラム教で、欲望が抑えられた
→ その間に貧しく
→ マスメディアの発達によって、外の豊かさ分かる
→ 欲望の解放
心の中に引っかかっているインセンティブを解放
環境問題 1つの分野だけでは解決できない
いろいろな分野の協力が必要 → 自分のできる分野で頑張って欲しい
- (Q)
- 熱のカスケーティングのところで、熱の媒体としてはどのようなものが考えられるのか?
- (A)
- 100℃以下の熱水が実用的には、考えられている
欠点として、低い温度ほど、大量の湯を運ばないといけない
そうすると、パイプ廃熱が大きくなり、それを防ぐためには、パイプを大きくしないといけない
現在、水素を使うという策が考えられている
水素吸着合金を使えば、熱水よりよいが、しかし、密度は依然低く、高価になる
具体的には、圧力をかけて運ぶ
合金に吸着して、水素を送り、その水素を需要地で、ガスとして使ってやる
(水素を単なる媒体として使うと、戻りの配管も必要となってしまう)
現在、システム的に、いろいろ模索している
- (学生)
- パーシャルブリーディングシステムとは、具体的にどのようなものか?
- (松橋先生)
- 太陽電池では出来そうなところは、太陽電池でまかない、現在それが無理なところは、まかなわないシステムをいう
太陽電池は、間断的にしかエネルギーを生産できないので、電力貯蔵も考えないといけない(しかし、その電力貯蔵を行うと、効率も悪くなるし、コストもかかってくる)
電池製造時の電気は何とか、太陽電池でまかなえるが、電気でできないもの(例えば合成樹脂)が問題となる
材料もなるべくリサイクルを取り入れれば、、電気でまかなえるになる
一方、太陽電池の問題は、天候に左右される(屋根置きもそう)
現在は、系統に接続して、変動は商用系統に頼る(これは電力会社にとってもメリット、電力需要が大きいときほど太陽電池に発電量が大きいため(ともに日射という共通原因)、日負荷率が下がるため)
蓄電池を付けると、効率も落ちるし、ますます効率が悪くなるので、商用に頼った方がよい
ただし、そのやり方は、太陽電池の全発電量に占める割合が、10〜15%くらいまで
さらに大きな割合となるようになったら、砂漠に置くことなどが必要となる
- (学生)
- 水素を熱媒体として、使うと聞いたが、爆発の恐れはないのか?
- (松橋先生)
- 都市ガスに比べて必ずしも危険とは言えない
(昔の都市ガスは、COとH2からシフト反応で、CO2とH2を作っていた)
輸送時には、水素を液化する(−200℃以下)ため、輸送中の断熱が必要となるが、これは技術的に可能
現在、ユーロケベック計画というのがあり、カナダの水力発電をヨーロッパまでこの方法で運ぼうとしている
輸送時の形態として、合金に吸着する方法も考えられるが、これは、体積的にはたくさん吸着できても、合金のせいで重くなるので不適当
ヒートカスケーティングなど、短距離熱輸送には使える
- (学生)
- 潜在乖離度というものがよく分からないが
- (松橋先生)
- 顕在乖離度は、過去のデータからはじき出したもので、恣意が入らない
図で、潜在乖離度になるとFeが急上昇するのは、まだ一生懸命探していないため
潜在乖離度とは、今だけでなく、将来発見される埋蔵量も含めた値(AlやFeなど)
OilやGasなど将来見つからない資源は、その分を年で埋める
究極埋蔵量と確認埋蔵量の差が少ない資源は、将来が心配ということ(潜在乖離度が低下する)
この範疇に入るのは、大体がエネルギー資源で、Cuも少し心配な部類に入る
乖離度が少ないと負けてしまう
資源埋蔵量が危険な状態になってからでは遅く、今の状態で持続可能が判断しないといけない
その指標として、用いたのが乖離度の概念である
- (学生)
- 過去の乖離度の動向はないのか
- (松橋先生)
- 生産量は把握できるが、埋蔵量の推移は把握できないので、難しい
- (学生)
- 熱輸送のプロジェクトは、インフラ整備中の途上国でやったらよいのでは?
(インフラが整ってからやるのは難しい)
- (松橋先生)
- 住んでいるところのモデル分析からやっているが、しかし、インフラが整ったところでは難しい
環境調和型都市としてやるのは、非常によい
熱輸送に限らず、他のプランも含めてイメージを検討しているが、他分野にまたがるので難しい
- (学生)
- 理想的な都市(環境調和型都市)は、現実に造られたことはあるのか?
- (松橋先生)
- やろうとしている所はあるが、実際やった所はない
実は、計画段階ではなく、研究段階でもイメージができていない(考えてはいる)
イメージの答を求めるにも、変数が多いため、計算量が多く大変
また、答が出ない理由として、ヒートアイランド、交通、ビル構造など組み合わせてやっている人がいないためと言える
システム的にやっていかないといけないが、そのためには、自分で全部やるか、皆と協力してやっていく必要がある
- (学生)
- 協力していく動きはあるのか
- (松橋先生)
- ある
集まりはあるが、うまく行っているところは少ない
- (学生)
- 研究協力は、理想的だと思うが、何故進まないのか?
- (松橋先生)
- 工学部では縄張り意識がある上、自分の仕事がうまくできているのに無理にやる必要はないと考える人が多い
自分の周りでは、化学システム工学科の人くらいだが、それに加えて企業の人とも協力している
企業と協力するのは、研究費の問題ではなく、企業の知識が利用できるため
企業の技術と我々のLCA分析手法を組み合わせれば、きちんとしたLCAができる
難しいところは、そういった研究報告が企業側になる可能性もあることであり、公平にならないといけない
- (学生)
- 企業側のメリットは?
- (松橋先生)
- 企業側としては、LCAは超長期的には収支につながるし、今の情勢では環境に対して積極的に取り組んでいる姿勢を示す必要が出てきている
また、LCAと同時に経済分析も行うが、これは、どういった電気自動車がどれだけ売れているかという市場分析であり、企業側にとって直接メリットとなる
LCAをやる際には燃費・性能などのデータは企業側に提供してもらい、上流のデータ(発電など)は我々のものを用いる
また、この分析では、経済の人とも協力している
- (学生)
- 資源をエネルギーで考えるか、価格で考えるかで、違ってくる
どちらが、実際を反映しているのか?
- (松橋先生)
- 両者が全然一致しない
人件費がかかると、コストとエネルギーが乖離してしまうため
それを解明しようとはしているが、根本的には解明できていない
例えば、途上国より先進国の人件費が高いのは、我々の方が多くのエネルギーを使った生活を送っているからとも考えられる
しかし、実際のところは分からない
乖離を防ぐためには、
1. LCAの情報をきちんと公開する → 人々の行動のインセンティブになる
2. 1.がダメなら、税をかけ、人々の行動のインセンティブに変化
3. 2.もダメなら、直接規制をかけざるを得ない
1.が一番いいと考えている
- (学生)
- 原子力に関して、推進論者と反対論者で、効率や安全面評価が全然違うが、どうしてなのか?
また、どちらが正しいのか?
- (松橋先生)
- 原子力推進の人は、絶対に自分のデータが正しいとは思わないだろうし、
反対の人は、始めから結論がある上、あまり科学的ではない
ウランの乖離度(P10参照)は、軽水炉のため、大きくなっているが、高速増殖炉(FBR)なら、はるかに改善される
FBRは技術の問題が改善されれば、SBS(ソーラーブリーディングシステム)よりはるかに安全なストッパーとなる(技術的な面)
ただし、問題となるのは、核兵器の拡散、テロの危険性である(社会全体、安全保障の面)
現在でも厳重な管理が行われ、IAEAの査察が行われている
こういう取り扱いを受けている原発が全世界に広がるとなれば、真剣に考えないといけない
もし、それができるのだったら、非常に強力なリリーフとなるだろう
何が何でもダメだというのは、科学的ではない
代替エネルギーに関しては、いろいろなものを並行的に考えてLCA評価をしていくべき
(海水中の薄いウランも使えれば、FBRも不必要となる)
- (学生)
- 熱の多段利用システムは、非常に理想的だと思うが、具体化できるのか?
- (松橋先生)
- 現在、その具体モデルの評価をしているところだが、以下の理由で導入は難しい
1. 気象条件との関係で、効率が悪くなる
2. 研究の面から、特に冷熱の輸送は困難
3. 規制も妨げになっている(ガスの供給には、定常的に一定量供給しなければならないという規制がある、これは緩和すべき、ドイツでは規制がないため、廃熱の多段利用が進んでいる)
規制緩和は、法学部の人が関係してくる問題で、官僚などの議論が必要
(分析して、世の中の人に結果を問うていくのが、我々の役目)
- (学生)
- 太陽電池を砂漠に置くという案は、現実にやっているのか?
- (松橋先生)
- やっていない
現在分析をしているところ
SFに聞こえるかも知れないが、超長期的に大規模にやるならSFもやるべきなのだから、SFのFS(=feasibility study)も必要
問題は、発電した電力を持ってくるまでにどれだけロスするかということ(媒体利用も変換で効率が落ちる)
一方、プラントのデザインも考えている
- (学生)
- 都市の最適な規模は?
こういった研究はあまり進んでいないように見えるが
- (松橋先生)
- 一部分(交通、しかも自動車輸送のみ)については、やったことがある(通勤の所要時間+エネルギー消費量)
そうすると、現在の東京に比べて、1桁か2桁くらい人口密度が低いのが最適になる
他の分野も同じような結論になるだろうが、まだ結論は出ていない
- (学生)
- そのあたりの総合評価はどう進めるのか?
- (松橋先生)
- 分野でバラバラ
できたら、環境調和型都市に生かされるのだろうが、5〜10年かかりそう
- (学生)
- 代替エネルギーのプラント(香川の太陽熱発電)は、経済的効率がある程度評価されてからやるのに、何故失敗という結果を出して終わるのか
- (松橋先生)
- おそらくはコストの問題では
自然エネルギーは化石燃料に比べてエネルギーが濃縮されていない
また、発電量が天候の変化に左右されるので、バックアップが必要となる
- (学生)
- (講義の感想)実際、これだけシステマティックにやっているのはすごい
- (学生)
- 知らないことが多くて、興味深かった
研究の具体化に際して、規制がかなり妨げになっているような感じがした
- (松橋先生)
- 熱の供給やコージェネ(ビルの発電に利用)は、もっと規制が緩和されれば進む
(コージェネは現在も導入されているが、もっと上流部分からの話では)
- (学生)
- 乖離度に関して、持続可能領域を R/P≧50年 という設定にはどういう理由があるのか
- (松橋先生)
- 50年というのは、こちらが与えたデータであい、この程度なら多分大丈夫だろうという気持ちで与えた
- (学生)
- 環境問題を定義して欲しい
- (松橋先生)
- Herman Dalyの3原則からはみ出している状態
環境問題は、CO2を負の資源として捉えることで、同じように資源問題として捉えられる(資源と汚染、裏と表の問題)
理想的には、自然の生態系の中での生活だが、それは、急には無理
技術進歩で少しずつやっていく
科学技術も増えた状態で自然に回帰できるのでは(100、200年後の世界)
徐々に少しずつ方向転換をしていく
楽観的かも知れないが
- (学生)
- 乖離度の計算において、確認埋蔵量、究極埋蔵量は、一定の割合で消費するのか?
- (松橋先生)
- 消費は、指数関数的な増加
- (学生)
- 文系の人がどう環境問題に貢献できるのか?(理系の人と比較して)
- (松橋先生)
- いろいろな方法がある
まず、自分の周り、市民レベルの活動から
研究としては、哲学(社会環境哲学)、宗教学(宗教の中に人々の欲望のヒント)など
調和と共生の世界を築くにあたって、哲学の人に参加してもらわないといけない
- (ありません)