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現在までの研究では,主に水源林経営計画の変遷について実証的研究を行ってきた。
第1段階として,河川の上下流域による森林管理の協力形態7事例のケーススタディを行った。公益的機能のうち特に水源かん養機能の恩恵を受益している下流都市が,上流部の森林に対しその整備費用の応益負担を行っている形態には,森林の買い取り,分収造林,基金設立,補助金交付があることを明らかにした。(口頭発表1,論文1:3.研究業績を参照のこと。以下同様。)
第2段階として,河川下流域の都市水道局が水源地域の森林を買収・直接管理する事例である「水源林」に注目した。東京都水道水源林と横浜市道志水源かん養林を対象とし,約90年間の経営計画の変遷と1970年以降の経営方針転換の背景を明らかにした。(論文2)
第3段階として,両水源林における森林経理方式の変遷と国有林野におけるそれとの比較を行った。その結果,従来水源林の森林経理方式は国有林のそれにほぼ追随したものであったが,経営方針の転換以降,国有林とは明確に決別したことを明らかにした。これにより,森林の公益的機能高度発揮の経営計画樹立には,木材生産を基調
とした従来の森林経理学の枠組みでは限界があることをも明らかにした。(口頭発表2)
ここで,水源林問題の把握にあたっては,河川上下流の関係成立過程が極めて重要な意味を持つことが明らかとなったため,第4段階として,東京都水源林の経営前史を明らかにした。東京市域の水源である多摩川における上下流対立は,上流域の経済活動活性化が下流域の飲用水利用に悪影響を与え,また下流域による水道水源保護活動が上流域の経済活動の阻害要因となるという形で,発生と解消を繰り返してきた。飲用水利用者である東京市が,水源地域の最奥部を占め,かつ他県下に属する森林を直接所有・経営するという「水源林」の形成は,対立解消過程において下流側がたどり着いた1つの結論であった。(論文3)
以上,水源林経営計画の変遷を明らかにしたが,経営計画の評価のためには計画と実績の対照を行う必要が生じた。そこで第5段階として,経営関連資料が豊富な大学演習林の経営計画・実行成績の対照を行った。東京大学千葉演習林を対象とし,経営計画を人工林資源造成期,人工林資源保育期,人工林資源維持期の3期に区分し,人工林資源造成期の経営計画が極めて優れていたことを明らかにした。(口頭発表3)