竹沢のそこんとこ、どうよ

 最近怪しい科学用語の氾濫が気に懸かる。白装束の「スカラー波」がマスコミをにぎわせ、生活情報番組では「マイナスイオン」がもてはやされた。前者は集団の奇妙さからかすぐ否定されたが、後者はそうはいかなかった。

 いわゆる「マイナスイオン」は空気中の何らかの分子が負の電気を帯びたものだという。滝など水しぶきのある場所に多く発生し、健康にもよいらしい。水の破砕では分子はイオン化できないというもっともな批判もあるが、問題なのは「マイナスイオン」が何を指すかが明確でないことである。物質の同定や用語の定義がない以上、これは科学用語ではない。滝を前にした爽快感の詩的表現の域を出ないといっても過言ではない。

 もちろん、科学用語を比喩として用いる ことは否定しない。たとえば、「DNA」という用語がある。今では遺伝子を構成する生体高分子を指すだけでなく、「盛田・井深の築いたSONYのDNA」のようにも使われる。狭義のジャーゴン(※1)としての意味ではないという認識が共有されてこそ、はじめて機能する表現である。

 翻って「マイナスイオン」はどうか。正体や性質が科学的な手法で確認されていないのに、あたかも科学の専門用語のように使われている。科学に対する信頼性を逆手に取り、科学用語を装い人々を惑わしているに過ぎない。われわれには、このような怪しい科学用語の濫用を見抜く目が必要であり、科学者には傍観ではなく積極的に批判する責務があるのではないだろうか。

〔記事:竹沢悠典(7期)〕

編集部注

(※1)ジャーゴン(jargon) 特定の専門分野や仲間内で使う専門用語の意。computer jargonなどのように使われる。

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