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地球持続の条件



4月13日 小宮山 宏


イントロ

 東大新聞の4月3日号に、石弘之先生との対談が掲載されています。そこで石先生がこんなことをおっしゃっています。「全体像の把握が重要だ」と。それはその通りなのですが、私はこう思います。「石先生の全体像も大事だけれど、他の人の考える全体像とつき合わせてみることが重要なのではないか。」さきほど、環境三四郎の方から、多様な視点の重要性が述べられました。環境問題といっても、いろいろあります、砂漠化、オゾン層、、、、1人1人がどのように全体像を考えるか、その全体像を考える努力を継続させることが重要で、議論することが重要です。 

小宮山 宏

 レイチェルカーソンの『沈黙の春』や『われら共通の未来』によって資源の限界が指摘されました。これらは大変先見性のある書物だったと思います。21世紀の私たちに資源の限界について警告したのです。私たちは、その警告を踏まえて、解決のための提案をしていかなければなりません。しかも、21世紀は提案をするだけでなく、それを実践していかなければなりません。環境問題は多面的な問題です。ダイオキシンを出さないことだけを達成しようとするなら、お金をかけて高温の焼却炉を作ることは簡単だけれども、廃棄物問題はダイオキシン問題だけではありません。廃棄物からエネルギーを取り出すことや、CO2排出量を削減することなど、多面的な視点で見ていく必要があるのです。全体像を踏まえた上で、実践方法を考え、実践していくことが必要なのです。

 私は今回の講義で私の「全体像」について語ります。私の全体像は「物質とエネルギー」についてです。全体像の描き方は、1人1人ちがいます。それらのちがう全体像を互いにつきあわせたときには齟齬が生じることがあります。その齟齬が議論のポイントになります。私の話から、議論のポイントを見つけてください。

 最近、世界の人口が60億に達しました。それに伴い、物質消費量、生産量が格段に上昇しました。例えば、食糧生産量は20世紀中8倍になりました。人が食べるため、人が食べる肉になる家畜が食べるため、、、。20世紀は膨張の世紀でした。



各論

大量の廃棄物

 ものには絶対に寿命があります。これまで膨張の世紀を通して作られてきたモノの寿命は、大量の廃棄物という形でこれから現れるのです。

地球温暖化

 地球温暖化問題は不確実であるといわれますが、温暖化は確実に起こっています。少し詳しく説明してみます。

 地球の温度がどのように決まっているのでしょうか。まず1平方メートルに1370ワットの熱が太陽からのエネルギーが送られています。これに地球の断面積をかけた量が地球に入ってきています。次に、どのように冷えているか。すべての物質は、単位面積当たり温度の4乗かけるシグマの分だけ熱を発しているのです。 これらより、地球の温度は、・・・・・・・・278ケルビン、5℃に決まります。

 この温度を変える要素は2つあります。1つは、大気の状態。地球から出たエネルギーは大気によって吸収されます。・・・・・・・・

 5℃−18℃+33℃、この原理で地球の温度が決定されています。簡単な原理で惑星の温度は決定されています。

 2つ、不確実にする要素があります。雲、これによって反射の量が変えられます。海、これによって温度上昇の緩和の量が変えられます。

石油の枯渇

 これについては言うまでもないでしょう。


VISION 2050

  • 物質循環システムをつくる
  • エネルギー効率を3倍にする(同じことをするためのエネルギーを3倍にする)
  • 自然エネルギーを2倍にする

この3つが、理論と技術を考慮して考えた私のビジョンです。

物質循環システムについて

■人工物の飽和


 人口は無限に増えないでしょう。中国の一人っ子政策が成功したため、世界の人口予測は下方修正をすることになりました。2100年までに人口は100億に到達するか、しないかだと思います。

 日本には6000万台の自動車がありますが、自動車はもうほぼ飽和状態にあります。廃車される分だけ生産されているということです。そして、この廃車の分がリサイクルされるようになるのが、リサイクル社会なのです。鉄は現在でも基本的にリサイクルされています。橋が壊されるとスクラップされて再び構造材として使われているのです。

   8=5+3
   3=90/30
   90+5×50/30=11>8

 しかし、スクラップされた鉄は質が悪いのです。これを技術者や生産側が努力していかなければいけない。そのための法律をつくることなどが必要になってくるのです。従って今後は、技術的な視点をもった政策立案者が必要になってきます。技術的な知識、法律的な知識、どちらかだけでは不十分なのです。専門分野も持ちつつ広い視点を持たなければいけない、これは時代が君達に与えた課題です。しかし、1つ1つの専門領域を理解しながら全体像を把握することは、絶対にできない、それは、現在の科学の知識があまりにも莫大になっているためです。古代のアリストテレスの時代のように、すべての学問に精通することはできなくなっているのです。どうすればいいか。それは1つの領域を極めて、そこで得た知識を他に応用していくことです。さらには大学で講義を受ける過程で、その講義の内容は、全体の中でどのような位置づけの話なのかを常に心がけて聞くことが重要です。そうすることで、全体像と専門知識のバランスがだんだん取れてきます。



エネルギー効率3倍

■省エネルギー

 2つのイメージがあります。効率化(技術者のイメージ)と節約(非技術者のイメージ)。この2つの効果は、「積(かけ算)」で効いてきます。効率化の技術と生活の場での節約、2つ掛け合わせることが重要です。


■自動車

 電気自動車を考えて見ましょう。停まるときに発電機を回せば、エネルギーが得られます。また、ガソリンエンジンを考えてみましょう。現在の発電効率は平均約35パーセント。しかし、例えば信号待ちの時などの無駄なエネルギーを節約すれば、2倍くらい効率を上げることができます。さらに、摩擦を減らせばもっとエネルギーは少なくて済みます。摩擦の強さは重さ(質量)によってきまります。自動車の重さを半分にすれば、摩擦も半分になりますし、軽い鉄を使ったり、アルミニウムを使ったりしてもできます。摩擦を減らしてもスリップしない方法を、地面を支える力と滑る力を、身近な例(スケートなどはいい例ですが)から考えていけばいいのです。

■海水淡水化

 海水と真水の濃度の差で24気圧の浸透圧がかかる。つまり、海水に24気圧以上の圧力をかけると、真水を取り出すことができます。これが海水の淡水化の原理です。原理がわかればかんたんなことです。24気圧程度のエネルギーで理論的には海水の淡水化が可能なのに、現在は80気圧をかけて、つまり理論値の4倍のエネルギーを使って海水の淡水化を行っている。それをまずは50気圧に、という風に理論値の24気圧に近づけるのが科学技術です。なぜ今80気圧を50気圧にできないかというと50気圧では水はたらたらとしか出てこないからです。水が勢いよく出るために圧力をそれだけ多くかけているのです。圧力が弱くても勢いよく水が出るために薄くて強くて水しか通さない膜を作ること、それが科学技術なのです。

まず、理論を考えなさい。そして次に現実を見てみなさい。そして理論と現実の差が何で生じているかを考えなさい。最後にその差をどうすれば埋めることができるか考えなさい。その差を埋めることが科学技術のポテンシャルなのです。



事後企画の様子
事後企画も大いに盛り上がりました。

まとめ

 ものを広く考えなさい、多様な視点を持ちなさいといわれる。これはただしいことですが、しかし同時に、専門知識も絶対に欠かせません。要するにという一言では要せないくらい専門知識というのは深いものですが、要して言わないと分からないので、細部はとりあえず、外側からその本質はなんなのかを見ることによってうまく専門知識を要約してみていかなくてはいけません。常に全体像を頭に描いて、専門知識も自分で描いていく全体像に照らし合わせて捉えていきましょう。部分と全体像がどうつながっているのか、相互のキャッチボールをしながら考えることが必要です。部分と全体像の関係、そして各人が描く全体像どうしの関係を常に考える必要があります。

 しかし、これを目指すと絶望感に襲われてしまいます。例えば、できの悪い評論家は日本にたくさんいる。部分の深いことを知らずに、またはそれを避けて幅広くだけなろうとすると、できの悪い評論家になってしまう。だから、全体像と部分のキャッチボールのために忘れてはいけないことは、原理は少数であるということ。今日の私の話は、主として質量保存の法則とエネルギー保存則、あと強いて言えば孤立系のエントロピーは増大するという3つの原理だけ知っていればわかります。しかし、その細部を知ろうとすると、その細部の研究はあまりにおくが深いので、それに人生を費やしている研究者がいるわけです。細部がどんなにつまっていても原理は少数なの で、一つ一つの部分を丁寧に考えていきましょう。これを第1回のメッセージとして、講義を終わりたいと思います。

「開講にあたって」
「環境三四郎によるプレゼンテーション」
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