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ゼミ「『環境の世紀』演習編」



5月17日 山地憲治


イントロダクション

 今回のゼミでは、全体での質疑応答の後に、グループディスカッションを行いました。
 次回「環境問題、リスクコミュニケーション、そして科学ジャーナリズムの役割と実態は」 を講義していただく林衛先生が終始参加してくださいました。→→→


ゼミの風景

質疑応答


Q.1 色々問題はあるかと思いますが、原子力はやっぱり重要なのでしょうか?
A.1 温暖化対策がない場合、原子力は経済的にも魅力がありません。社会的になかなか受 け入れられないという問題を別にしても、エネルギーの自由化が進んでいる現在、色々なエネ ルギーが安くなっていて、原子力は高いのです。だからシミュレーションにおいて原子力は 入ってこなかったわけです。ところが550ppm以下にしないといけないという条件下で、コスト ミニマムな総合エネルギー政策を考えると、原子力が入ってきます。温暖化対策の中で考える と、原子力は安い対策となるのです。シミュレーションは論理的なものですので、仮定した前 提の中で最適なエネルギー選択を示すことになります。

Q.2 原子力において、放射性廃棄物処理のエネルギーを考えた際に割に合うのか?ウランが 石油より先に枯渇するという話もあるが、実際はどうなのか?以上の2点について教えてくださ い。
A.2 前者に関しては、ライフサイクル評価がなされています。現在想定されている技術か らするともっともエネルギーを使うのはむしろウラン濃縮など、核燃料サイクルのフロントエ ンドの部分であって、処理工程の影響はそこまで大きくありません。後者に関しては、あのシ ミュレーションでは高速増殖炉は考えず、軽水炉発電を前提としています。現在のウランの既 知資源は400万トンくらいで、新たに見つかることを考えると、21世紀には3倍の1200万トンが 使えるという制約を置いています。それを軽水炉で発電すると石油に直して、1200億トン分く らいで、石油より先に枯渇とは考えていません。

Q.3 シミュレーションは例えばチェルノブイリのような大事故が起きることは想定してい ないのでしょうか?
A.3 その通りです。

Q.4 中国などが石炭をたくさん使うと、硫酸エアロゾルの効果により温暖化を抑制するの でしょうか?
A.4 そうではありません。石炭発電による硫酸エアロゾル効果よりCO2温室効果のほう が大きいです。また脱硫装置などをつけると、硫黄分は排出されないので硫酸エアロゾルは増 えません。あのシナリオでも石炭を使っても硫黄分はあまり出ないと想定しています。なお21 世紀での累積CO2排出量と温度上昇はだいたい一対一対応となっています。


グループディスカッション


 今回のゼミでは5つのグループに分かれ、山地先生から提示していただいた「温暖化対策と途 上国の経済発展」・「温暖化対策における原子力の扱い」・「自然エネルギーの高いコストは 誰が負担するのか?」・「民生部門の省エネルギーはなぜ進まないのか?」「ディーゼルエンジン は環境に望ましいものか?」という5つの中からテーマを選択し、ディスカッションを行いまし た。


グループ1
テーマ:温暖化対策における原子力の扱い

・原子力は温暖化対策には必要である。
・CO2抑制という観点だけでなく、危険性という面を考慮しなければならない。
・リスク=被害の大きさ×確率、という式があるが、この計算をすると車より原子力の方がリスクが低いとよく言われる。しかしみんな車は運転するが原子力は怖がる。それはなぜか。
→放射線など目に見えない恐怖がある。車は目に見えている分安心感がある。
・チェルノブイリ型原子炉は今はもうない。また何重にも対策が施されているので安全である。
・ほとんどの事故は人為的ミス。
・放射線は低レベルなら身体によいという主張もある。
・ランニングコスト、放射能などの問題は技術開発で対応していく。放射性廃棄物はどうするか。
→影響がないくらい深いところに埋め、放射能レベルが低くなるまで待てばよい。
→影響がないといっても不確実性は必ず付きまとう。将来世代への負荷となる。でもそれ以外にいい方法はないのでしかたない。
・高速増殖炉はエネルギー資源のことを考えれば将来有望である。
・都市には作れない
→輸送コスト、輸送エネルギーを考えると都市に作るのがよい(笑)
・原子力によって一部の人が我慢し、地球温暖化という世界規模の問題を解決することができる、となるとどうなるか?
→鬼頭先生のときの議論と関係する。
・地域振興としての原子力。雇用や補助金など。自治体はもうかる。
・今の技術のままでは推進は無理。さらなる技術開発へ。





グループ2
テーマ:温暖化対策と発展途上国の経済発展

シミュレーションからして発展途上国をそのままにするのはあり得ない。
→発展途上国が与える環境への負荷を今後減らすことは必要。

  • 京都議定書以前に『発展途上国に追加的な削減要求をしない』ということを合意。
  • 貧困を野放しにしていいのか?
  • 環境問題の深刻さが見えない。
 (例) 枯渇が叫ばれているのに埋蔵量が増えて行く化石燃料
    温暖化の影響を直接的に被るのは一部の国
→少なくとも現状では発展途上国に積極的に働きかけるのは無理

先進国と発展途上国の違いは?
…時間軸のズレ
→経済発展をすれば、環境への意識も高まり、環境対策へ力を入れるようになるのでは?
…頭ごなしに経済発展をNOとすべきではない。

温暖化対策として
…日本は90年時にすでに省エネが進んでいた。
→温暖化で問題となるのは総量なので、 削減が簡単なところからするのが合理的(空間上のフレキシビリティー)
→CDMなどを積極的に使うのがいいのでは?
…先進国による発展途上国での温暖化対策例
インド、エジプトでの太陽光発電(気候条件を最大限に生かす)

先進国の責任は?
…先に発展したものとして、今まで環境負荷を与えてきた存在としてやはり大きな責任がある し、責任を取れる存在(経済的に、技術的に)である。環境対策をリードしていくべき。 →技術援助・経済援助・人材(教育)援助 …ODAをいかに使うかという問題




グループ3
テーマ:温暖化対策と途上国の経済発展

発展途上国の中でも貧富の差は激しい。
 →国家全体として経済発展しても貧しい人もそうなのか?
    例えば、全体の賃金が上がっていても、元々お金を持っている人の賃金がさらに上がっただけで、貧しい人は逆に賃金が下がっていることも。
 →発展途上国と一括りにしてもその中でも特に、社会的・身体的弱者が被害を受けるのではないか
 →また、経済発展が幸せという見方も資本主義に毒されている
 ⇒温暖化対策と途上国の経済発展がトレードオフの関係に陥るとしても、その関係に関わらず貧しい人は貧しいのではないか?
   ということは温暖化対策と途上国の経済発展の関係や温暖化対策うんぬんより貧富の差の解消が先決ではないか?
   しかし、国の中に口出しするのは難しい面もある
途上国の中に経済的に豊かになることを望んでいる人がいるのも確かであり、温暖化対策のためにその人達の経済活動に抑制が加えられるのはやはりよくないのでは?
 →そうするとトレードオフが前面に出てきて難しい
 →京都議定書では途上国には規制をかけられないことに
    山地先生の授業では「COP3 forever」では何もしないのとほとんど変わらない 
 →まず自分達先進国からきちんとやっていくべきでは?
    アメリカは何故自分勝手にやっているのか?
 ⇒日本ははっきりとした態度を示していかなければならないのではないか

※林先生のコメント

いきなり途上国ばかりを見るから問題が見えなくなる。
我々先進国が何をしているかを考えるべき。
途上国で車が増えるのは、
車を売りたい主体が先進国にいるから。
途上国で戦争が起こるのは、
武 器を輸出する存在が先進国にいるから。
途上国のCO2を考えるうえで、
我々がどういうものを提供できるかという視点が大切なのでは?」



グループ4
テーマ:民生部門の省エネルギーはなぜ進まないのか?

1、自己紹介

今興味のあること、今日話し合いたい議題

  • ユニバーサルジャパン・科学を育てるための科学ジャーナリズム、途上国の経済発展
  • NGOの活動、自然エネルギーのコスト
  • 資本主義のアプローチを使って環境にアプローチするには、民生部門の省エネルギー
  • 環境と経済は対立するものなのか、自然エネルギーのコスト
  • 農村で経済活動を成り立たせるためには、民生部門の省エネルギー
  • 人間にとっての科学技術、特になし

2、民生部門の省エネルギーの問題は他の議題を内包する部分があるので、これで。

○問題分析:
山地先生より、「サービス産業、家庭、運輸でエネルギー消費が増えている」との 指摘を受け、何故増えていくのかを考える。
       ・交通に関しては別段比較考慮するわけでもなく、何となくイメージで車を選択しているように思う。
・経済発展の方向が、結局は大量消費を好景気を呼んでいる
・たとえ不況でも、エネルギーを使わざるをえない環境にある。(ヒートアイラン ド)
・ライフスタイルの変化だからやむをえない。

○目標設定:
上の3部門のうち、いずれかでもいいのでエネルギー消費を減らす方策を考える。

○対策内容:
カーシェアリングを目指すには・・・
タクシーは、実はカーシェアリングの一形態ではないか?
⇒タクシーを環境に良いものに変えていくことで、環境負荷(交通渋滞、排気ガスの問 題) は解決に向かうのではないか)


「地球環境とエネルギー:地球温暖化問題を中心にして21世紀のエネルギーのあり方を考える」
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