1はじめに
 2割り箸の現状
 3割り箸の問題点
 4問題点を解決するには
 5林業との関係・結論
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割り箸から見た環境問題
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割り箸の問題点

 つづいて、第3部ではこのような製造方法が引き起こしている 問題について説明します。

これまで、日本で使用されている割り箸の9割が中国で生産されていることを見てきました。それではここでその問題点を考えてみたいと思います。 4つの点から考えていきます。




1 中国での持続不可能な森林伐採

 これはつまり、木材供給さえ続けることが不可能な森林経営が なされているということです。この点については、植林が行われているか、 木材はどのように伐採されているかという2点から考えていきます。

 毎年、200億膳の割り箸に相当する量の天然林が、 割り箸のために伐採されています。これに対し、植林は実際ほとんど行われていません。 平成10年9月日中環境保全友好植林実践会が発足し、緑化事業に取り組み始めています。しかし、 取り組みは始まったばかりで、成果はまだほとんど上がっておらず、また日本が出資しボランティアベースであるということから、 これからも大きな効果は望めないかもしれません。第2部でも述べたとおり、木材は皆伐方式で伐採されています。皆伐方式とは、森林の全部、または一部を一斉に伐採するというものです。作業は単純で効率的に行うことができます。 一方の択抜方式は、一定の伐採率である一定の樹齢に達したものを選んで伐るというものです。 大規模な皆伐は表土を流出させ、荒廃させてしまうという問題があります。しかしここでは費用が安いという理由で皆伐方式がとられているのです。 このように植林がなされず、皆伐方式で行われている木材伐採では、木材供給を持続的に続けることさえできません。木材は本来、再生可能資源です。林業の仕方次第で永続的に供給のできる資源です。 地球規模で森林破壊の状況がある今、再生される必要があり、そのサイクルを成立させなければなりません。 森林を維持する林業を行わなくても、短期的には、木材商品として売って利益を出すことができます。 しかし、長期的には森林伐採による被害が生み出されたり、森林が維持できなくなることによって、 木材商品の生産ができなくなることは十分に考えられます。これは環境問題の根本の外部不経済をあらわしています。

 外部不経済とは、ある経済活動が、 市場を通さずにほかのの経済主体に対して悪影響を及ぼすというものです。環境問題では、ある主体の経済活動が環境破壊を引き起こし、 それまでその環境が持っていた効果や生存基盤としての役割を失わせてしまいます。そしてその環境に関わる他の主体に対し、 悪影響を及ぼし、環境修復費用や保全費用が必要になるということです。

 今回の割り箸生産の場合を考えてみましょう。 伐採後、植林などが効果的に行われない持続不可能な林業は森林の機能を失わせてしまいます。 森林の機能とは 洪水を防ぎ渇水を緩和する、水を浄化する、 土砂が流れ出るのを防ぐ、 地球温暖化を防ぐ、 安らぎや憩いの場をつくるといったことです。 このような機能が失われたとき、 被害は林業者だけではなく、多くの人に及びます。たとえば洪水が起こったときを考えると、 森林の影響が川の下流の人に及び、多大な被害を及ぼします。これが外部不経済です。被害が生まれると、その修復費用や、保全費用が必要になります。植林の費用など森林を維持する費用を誰も負担しないままであると、ますます被害は広がっていきます。これを防ぐために、植林など本当に伐採にかかる費用を伐採する人が負担し、木材にその費用を反映させなくては正当な価格とはいえないのではないでしょうか。

 これに関して、中国でも森林破壊による被害について とりあげられています。中国では昨年(1998年)、北部や長江流域で大洪水が発生しました。 これに対して、中国政府は割り箸などのための森林伐採で土地の保水能力がなくなり、 そのために洪水が発生したとの見解を表明しています。さらに「森林が国土の7割の日本が2割未満の中国から森林資源を奪っている」との 批判もしています。このような中国側の批判について、日本の割り箸業者側からは、 割り箸に関してはコスト差、中国の積極的な産業経営もあって、日本が輸入することになったのだという批判があがりました。 国内の製箸業者は、中国の安い割り箸によって国内産業が壊滅状態に陥ったという憤りを示しています。 ここでは中国がいうように割り箸生産によって洪水が引き起こされたかどうかは定かではありませんが、 多くの森林が失われているのは確かです。




2 中国での割ばし使用の問題

割ばし不使用→割ばし生産開始→余剰品が市場に(供給発生)→割り箸が不可欠に(需要発生)

 現在中国では割り箸は生産過剰状態で、 日本への輸出だけでは在庫がさばききれないという状況です。また、技術があまりまだ高くないこともあって、 製造の際に多量の低質の箸ができます。これらの作りすぎた箸や低級の箸はどうなっているのでしょうか。 中国との関係のある商社に安く売られる場合もありますが、その他の場合は中国国内に流通しています。 10年くらい前までは中国では上海などの大都市の日本人客の店のほかは割り箸を使用することはありませんでした。 しかし、多くの割り箸が出回るようになって現在では中国でも使用が急速に広がっています。 弁当や飲食店で日本と同様使用されるということですが、実際にどのくらい使用されているのかはまだ誰も把握できていません。 これは供給が需要を生む事態です。

 割り箸生産機械を中国で自主的に作れるようになり、 産業として根付いていったわけです。ここでは産業だけでなく、割り箸を大量に生産するようになり、 割り箸の使用という風習が根付き始めていると言えます。これは大量消費・環境破壊的な産業として 割り箸が根付いてしまう危険な状況を示しています。過剰状態で、過大生産量が一定になってしまい、 その生産量を売ろうと中国の使用が急速に広がれば、森林の破壊が進むと考えられます。

※発表後の感想で、「洗い箸の有効性に疑問を呈しておきながら、中国での割り箸使用を批判しているのは矛盾だ」というのがあった。 私達はこの批判に同意し、このあとに作成した報告書では、全面的に記述を改めた。




3 経済と環境との両立

 割り箸が、外貨獲得のための商品となったことは どのような意味を持つのでしょうか。日本国内では先にも述べたように、 端材や間伐材、低利用木で割り箸がつくられてきました。人工林管理のために間引きする際に必ずでる間伐材や、 製材時に余分な部分として出される端材は他に利用方法がないものです。 木材として価値が低く、価格は低いものです。日本国内で割り箸の需要があったとき、 これらの安い木材が使われたのは当然のことでした。端材や間伐材、低利用木が使用された理由は 安いという経済的な理由でした。

 もちろん、その当時も、国内の低利用木材よりも 外国から輸入された木材の方がさらに安かったのですが、輸入割ばしとの価格競争が激しくなるまで、 輸入木材はあまり使われていませんでした。外国から輸入した方が安い場合でも、 そうするには新しい仕入れルートを開拓する必要があり、それには労力が必要となります。 だから、国内の低利用木材が使われ続けることになったわけです。

 このような経済的・慣習的な理由によって、 現在のように新たに木を切って割り箸を作るというのではなく、余りを使用することで結果として、木材の有効利用が行われていたのです。 これは経済と環境がうまく両立しているといえます。また、林業の側としても、 割り箸というものの材料になることで付加価値がつき、経済的利益が生み出されます。 これが人工林管理の費用として還元されているという事実もかつてはあったのです。 しかし、ここで大々的に安い外国材の輸入が始まったことで、その経済と環境の両立が崩れてしまいました。 天然林の丸太を使用し、森林を維持することのできない林業形態という状況は、割り箸産業が森食いになっているということです。

 経済原理からすると“安く大量に”を追求するのは至極当然のことで、 現代の市場経済社会においてそれを否定することはできません。しかし、今回調査した割り箸に関しては、そこに大きな問題がはらまれているのです。




4 途上国からの資源収奪の図式

貧困→外貨獲得のため資源を輸出→環境破壊→生産力低下→さらに貧しくなる

 中国が日本に割り箸を輸出することによって、 発展途上国でよく見られる、外貨を得るために一次品を過剰に輸出し、それによって環境破壊が起こり、ますます貧しくなり、さらに一次品を輸出するという悪循環の構図に陥る可能性がある。 森林を維持する方法で林業が営まれないという状況は、木材資源の利用を続けていくことも、 森林の機能を維持することもできなくなるということです。しかし、森林資源の分配として、 仮に林業が持続可能な方法で営まれているとしても、一次産業―途上国という構図自体で良いのかという問題も残ります。 と同時に一次産業が途上国のみで行われる構図があるときに、そこで持続可能な林業が可能なのかという疑問も残ります。 また、今後世界での需要量は飛躍的にのびることを考えると、資源として「途上国から先進国へ」という価格のみで決まる一方的な流れや、 途上国での商品としてだけの木材の輸出には問題があることは明らかで、国内の林業に視点を持つ必要であるといえます。




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