1はじめに
 2割り箸の現状
 3割り箸の問題点
 4問題点を解決するには
 5林業との関係・結論
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割り箸から見た環境問題
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林業との関係

 ここまで、割り箸の生産、流通の過程、 そして割り箸を減らす試みについて見てきましたが、次に割り箸を製造するにあたって背景にある、 林業森林について見ていきたいと思います。割り箸用の木材を、森林から持続可能な形で取り出そうという姿は、 世界的に森林破壊が指摘される中での、日本の木材利用のありかたはどうあるべきかを示していると考えられます。




世界の森林減少

 まず世界の森林減少について見ていきたいと思います。 FAO(国際連合食糧農業機関)によると、1995年の世界の森林面積は34億5千万haで、 陸地面積の27%を占めています。また、1990年から1995年の間に、 年平均で1,127万haの森林が減少したと推計されています。先進地域では農地、放牧地への造林等により 僅かながら森林は増加していますが、開発途上地域では年平均で1303万haの森林が減少しています。 減少した森林面積の実に97%は熱帯地域での減少で、年平均で日本の国土面積の約3分の1に 相当する量が減少したとされています。また森林減少は今後も続くと考えられています。

 インドネシア、マレーシアなどの国々。 ここは日本が木材を多く輸入している国ですが、ここにおいては森林の減少がとくにはっきりと見られます。 森林減少の原因は農地への転用、非伝統的な焼畑、過放牧、薪炭材の過剰採取などですが、 日本の木材輸入のように伐採が 直接的に森林破壊につながることも多いといえます。また原生的森林に輸出用伐採のために人手が入った場合、 それにともなって道路も敷設されるので、容易に用材なり、薪炭材なりの伐出が可能になります。 また農業利用者にとっても、森林への到達が容易になり、焼畑を行うことが可能となります。 このように木材の伐採がきっかけとなって、間接的にも森林破壊につながっているケースも多いのです。 このように海外の天然林から、生態系や国土保全に影響を与える持続不可能な形で、 木材の伐採を行っています。

 森林が減少することは何を意味するのでしょうか。 次にそれを見ていきたいと思います。

 森林の機能は、木材という単一の機能で捉えられるべきではありません。 森林には公益的機能と呼ばれる、様々な機能があります。それをいくつか紹介していきます。

 まず洪水を防ぎ、渇水を緩和するということがあります。 森林の土には、大小さまざまなすきまがあるので、降った雨をスポンジのように吸収して蓄え、 ゆっくりと時間をかけて川に流し出します。このようなことから、森林があると雨が降っても川の水は急激に増えず、 雨が降らないときでも川の水が涸れないのです。これが森林が「緑のダム」と呼ばれる理由です。 このように森林には洪水を防ぎ渇水を緩和する機能があります。

 次に水を浄化するということがあります。 雨水に含まれる窒素やリンなどは、森林の土の中をゆっくりと流れる間に、 植物に吸収されたり、土により吸着・ろ過されます。このように森林は水を浄化してくれます。

 また土砂が流れでるのを防ぐということがあります。 森林の中には、落ち葉や枯れ枝が積み重なっているので、雨が降っても、雨水の流れで地面が削り取られたり、 土砂が流れ出すことがありません。また土の中には木の根が張り巡らされて土をしっかりとつかんでいるので、 土砂崩れを抑える働きをしています。

 地球温暖化を防ぐという機能もあります。 樹木は、太陽の光をエネルギーに、二酸化炭素と水を吸収して成長します。このようなことから、森林は地球温暖化の原因となる大気中の二酸化炭素を 吸収し、固定する働きをしており、地球温暖化を防ぐのに役立っています。

 また安らぎや憩いの空間をつくるということがあります。 森林は、空気を浄化したり、騒音を防ぐなど、快適な生活環境をつくってくれます。 また、森林がつくる緑の空間は、気持ちを和らげたり、森林浴などの森林リクリエーションの場を提供してくれます。

 このような公益的機能からも森林の重要性は分かると思いますが、 それ以外にも、森林の地域で暮らす人々はその森林から、生活の糧を得、また森林は信仰の対象となることも多くありました。 このように森林は人々と社会的・経済的そして、文化的・宗教的に深い関りを持ってきたのです。

 「木材」を輸入するということは、 その輸出先の森林を輸入しているということになります。どういうことかといいますと、「木材」をとりだすために、 森林を切り出すと、公益的機能が失われるとともに、その森林に固有の生態系、 そしてそこに住む人の生活が失われるということがあります。「木材」は失われても、貨幣で他から手にいれることができますが、 そこにあった「森林」を手に入れることはできません。このことは、日本が国内で負うべき環境へのマイナス影響を 海外に転嫁していると捉えられます。日本国内の森林は増加しつつある中で 木材輸出国では森林が減少していることをふまえると、日本の森林についても有効な利用が必要だと考えられます。 そこで次に日本の森林の状況についてくわしく見ていたいと思います。




成熟しつつある日本の森林資源

 林野庁が行った森林資源現況調査によると 1995年末の日本の森林の蓄積は35億立方メートルであり、人工林を中心に毎年約7千万立方メートルずつ増加しています。 日本においても森林は減少していると思われがちかもしれませんが、このように着実に森林面積は増加を続けています。 森林面積は国土の3分の2以上をしめており、世界でも有数の高さを誇っています。

 人工林資源の内訳を見ると、スギが最も多く、 面積で44%、蓄積で58%を占め、次いで、ヒノキ、カラマツの順となっています。 人工林の一部には、すでに主伐の対象となる樹齢に達しているものもあり、1995年の時点で、スギ人工林面積のうち 40年生を超えているものは全体の2割に達しています。このような状況は、森林資源の活用に 本格的に取り組む時期が来ていることを示しています。

 それでは、成熟しつつある日本の森林における林業はどうなっているのでしょうか。日本の森林は第2次世界大戦の混乱の中で荒廃しましたが、 1950年代後半頃には、伐採跡地への植林が一応終了し、民有林においても1970年代に入る頃まで 毎年30万ヘクタールの前後の規模で拡大造林がすすんでいきます。それを促進した要因の一つは 1960年前後に生じた炭、薪の需要の増加です。

 日本では、高度経済成長期に木材需要が パルプや建築用材の目的で急激に増加しました。これに対し、国内の林業は、利用可能な人工林が少なかったことや、 個々の林家等が保有する森林面積が小さい上に分散しており、効率的な経営が難しいといった問題を抱えていることなどから、 この木材需要の増大に十分に対応できていないでいました。このためこの時期を通じて、丸太輸入の自由化が段階的に実施されました。 外材は、低価格でまとまった量が供給できることもあって輸入が急増し、今日、木材供給の8割を占めるにいたっています。

林業の悪循環 このような中で、日本の林業は、 木材価格の長期低迷と高度経済成長を通しての、労働費等経営コストの上昇による採算性の悪化、 山村における担い手の減少と高齢化の進行といった、いわゆる過疎化の問題を抱えており、 これらが現在の林業の停滞につながています。図で示したような悪循環が続いています。 その結果1997年の丸太生産量は、ピーク時の1967年の半分以下になっています。






林業の好循環 第4部でも触れましたが、 人工林を、良質で公益的機能の高い健全な森林として育成し、利用を進めていくにためには、 間伐などの人による手入れが必要となります。そのためのコストは成長した人工林から生産される木材の販売収入を基に、 造林、保育、間伐、伐採などの一連の生産活動が適時適切に行われることが望ましいと考えられます。 このように、森林を適切に整備していくためには、木材が使われることが重要となります。 またこのことにより、現在過疎化が進んでいる、山村の活性化につもつながることになり、 森林と再生可能な資源である「木材」を通して、持続可能な発展をすることができるのです。




林業から見て割り箸は――「保護vs.破壊」図式からの脱却

 第2部、第3部で割り箸の使われかたと、 中国での割り箸の状況について見てきましたが、中国産の割り箸は使う必要がなければ使わないにこしたことはない、 と考えられます。

 ですが間伐材を使用した割り箸から見えてきた姿はどうでしょうか。 人が生活を営むには木材は不可欠です。そして一方で、健全な発達のためには人の手が必要となってしまった 人工林が現状としてはすでに多く存在しています。山村で暮らす人々は、森林から木を切り出し、収入を得ています。 そしてその収入を用いて生活を成り立たせるとともに、間伐などを行い、森林を育てているのです。

 割り箸問題を考える上で、割り箸は使ってもいい、 使わないほうがいいという見方になりがちであると思います。また割り箸の材料を供給する森林の問題について考えるとき、 開発対保全、人間対自然という発想に終始しがちではないかと思います。

 ここで割り箸を使うことに問題はないと主張することは、 人間と自然との関係を、経済を中心とした限定された視点で捉えていることとになります。

 一方「使わない」と主張する側はどうでしょうか。 割り箸は紙などに比べると「木」でできていることが一見してわかり、使用時間も短いことから、大量消費・大量廃棄の象徴、 森林破壊の象徴と考えられることが多いです。地球的な規模で環境問題が進行している原因として、 「使い捨てのライフスタイル」というものは大きな位置をしめていますし、見直しが必要であるといえます。

 環境問題を解決する上で、 一人一人が身近なところから実践していくことは非常に重要であると思われます。 ですが人間と森林との関りを考えたときに、ただ木材を使わないほうが良いと主張するだけでは、 木材が採り出される背景を見過ごしていることになります。




持続可能な森林経営のために

 人類の活動によって木材が消費されることを前提としつつ、 原生的森林の価値を認めていくこととして、土壌や傾斜度などの自然条件や森林の特徴、 そして人間の活動によってさまざまな生態系がどのような影響を受けるかを明らかにし、 それに適切に対処していこうとする取り組みとして、ゾーニングを行うことがあります。

 これは、一切の人間の手を加えない中核部の回りに、 研究、教育、レクリエーションなどのために活用する緩衝帯、さらにその周辺に緩衝帯としての機能に留意した林業などの 第1次産業に使用される文化地域を層状に設定して、人間と生物圏の関係を考慮にいれながら保護していこうというものです。 そして、原生林には固有の価値を認めつつ、木材生産のための人工林においては、森林生態系の健全性を保ち、 その活力をいかしながら、人類の多様なニーズを永続的に対応していけるような 森林の取扱いをすることが重要であると考えられます。

 割り箸問題から考えるべきは、 「使う・使わない」という発想から、 持続可能な森林経営を目指すことだと私達は考えています。割り箸に使われていた、間伐材を割り箸に使う必要がなければ、 その間伐材は社会を支える上で必要となる他の用途へとシフトすべきと考えられます。 間伐材に使われていた、木材を森林の中に放置していたままでは、林業の衰退の状況は改善されないからです。 間伐材の利用方法としては、木炭の利用などがあります。木炭はかって暖房用や調理用の熱源として大量に生産されていましたが、 近年は熱源としての利用が交代する一方でその多面的な機能が注目されるようになり、 土壌の改良や水質の浄化、 床下の湿度の調整などへの利用が増加しています。

 しかし、持続可能な形で経営されている森林からの木材のコストは、 持続不可能な経営が行われている森林から取り出されてくる木材のコストよりも、短期的には不利な立場におかれています。 伐採によって被る費用が、木材の価格に反映されていないからです。適正な価格設定をされた木材を使用すべきですが、 それを支援するような取り組みが、始まりつつあります。

 これは森林経営において、生物多様性や、 社会経済的、文化的側面等を考慮しつつ、持続可能な森林から生産された 木材・木材製品にラベルを貼付することがあります。また先日の山本先生の講義の中で触れられていた、 ISO14001の林業分野への適応などがあげられます。

 このラベリングの効果としては、木材を使うときでも、 消費者が環境に配慮し選択的な購買を行うことで持続可能な森林経営を達成していこうというものです。 森林の認証・ラベリングの取り組みは木材輸出国を中心に導入され、欧米から他地域へと広がりつつあります。 ラベリングを行う機関として 最も大きく有名なのはFSC(森林管理協議会)です。FSCは持続可能な森林で栽培された木と認証した木材製品に 刻印(ラベリング)を与えており、アメリカやイギリスでは、すでに認証を受けた木材製品が普通に売られるようになっています。 これは森林を生態系として持続的に管理することに対する要請の高まりや、環境に配慮し、適切に管理された森林から生産された木材を 選択的に使用したいという消費者の意識の高まりなどが、その背景にあるものと考えられます。 今後、日本においても持続的な森林の経営のために認証・ラベリング制度を普及し、 また消費する側としても、木材を選択的に利用するということが必要です。そのことが、企業にとっても 持続可能な森林経営を目指す原動力となるのです。




結論

 以上のように私達にとって身近な存在である割り箸の、生産工程、流通経路そして、それらの社会的背景を見てきました。この「割り箸」というものから私達は2つのことを考えさせられます。1つは、割り箸を通して大量消費型のライフスタイルを見直すこと。 そしてもう1つは、人間社会と森林の持続可能な関係について模索することです。今日の私達の発表がそのきっかけになればと願っています。

1999/6/18 環境三四郎

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