学館改修と運営のための特別講座
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第3回 講義録

○リファインからリファイニング建築へ 青木茂氏
<内容>
青木先生には、リファイン建築ということで、実際に先生が設計した建物の実例をもとに改修を行うことでどのように建物が生まれ変わるかをお話していただいた。色々と冗談を挟みながら、明るい雰囲気でお話がすすんでいった。
耐震改修のなかで、耐震だけに留まらない新たなコンセプトやデザインを付加する可能性について色々と想像を膨らませることが出来た。

具体的には、ブレースを入れずに建物の重心を移動させて補強したり、元々の躯体(建物の構造の枠組み)の形を見ながらバランスの良い外装を施したり、内装もテーマを持たせて色を使い分けたりといったものである。

また、エコ改修との関連では、窓の位置ひとつとってもどこに配置するかで風通しもエネルギー使用量も変わってくる、建物全体を外側から壁で覆ってその壁を定期的に造り直せば長いライフサイクルの建物となる、といったお話もあった。

<講義後の感想>

  • 耐震改修の際に、デザインなども考慮して更によりよい学生会館にするための期待感やイメージが湧いてきた。
  • どういう風に活動を行うか、コンセプトや学生にとって使いやすい空間とは何かを考えることが大切。
  • 学生会館がただの箱(物置のようなもの)だから面白くないと思った。
  • 計画的な風通しや内装の工夫等を実現させたい。
  • 費用が気になった(だいたい新築の5割程度の費用で改修が可能)。
  • 吹き抜けやガラス張りなど学生会館に新たなみんなが集えるスペースを設けるのもいいかと思った。
  • 屋上にも様々な学生の使用ニーズや機能を組み込んでデザインしてみると面白そうだった。
  • 文化系、運動系と活動にあわせたデザインを行うのも面白いと思った。
  • いい建築を実現させるには、関係者を粘り強く、そして期間内に説得する必要がある、その情熱が必要だという先生のお話は参考になった。これからも頑張っていきたい。


○東大サステイナブルキャンパス活動 花木啓祐教授
<内容>
学生会館のエコ改修のおおもとでもある東大サステイナブルキャンパス活動(Todai Sustainable Campus Project(TSCP))について、その理念や海外の大学での実例をご紹介いただいた。省エネや二酸化炭素削減ばかりが注目されがちなTSCPであるが、その理念としては全学的な取り組みによって、

  • 社会への貢献
  • 教育的効果
  • マネジメントモデル
  • 新たな価値観創出
  • 新産業の創出
といった点からキャンパスを一つの社会としてとらえて、海外の大学とも連携し、多様性のある社会へのモデル提示を目指した活動であるそうだ。

海外でもアメリカのハーバード、イェール、マサチューセッツや、イギリスのオックスフォード、ケンブリッジ、スイスのチューリッヒや中国の北京大学…など非常に多くの大学がサステイナブルキャンパスの実現に向けて対策をねっているそうだ。価値観や気候条件などの前提が全く異なるこれらの大学での実践例や連携についてもご説明いただいた。その事例をそのまま取り入れるのではなく東大にあった形でとりいれてこそ価値がある。組織のあり方についても参考にされ、東大にも7月1日にTSCP室という組織ができるそうだ。

最後に、東大のCO2排出量の現状や削減対策についてうかがった。
5キャンパスで136,000トン-CO2/年と東京内の事業者では第1位の排出量といわれているが、床面積が大きいので床面積あたりでは平均程度になるそうだ。
(→0.10ton-CO2/m2・年、3.9ton-CO2/人・年)
他にも関連する研究のご紹介をいただき、東大をはじめとする世界のキャンパスがサステイナブルを目指しているという大きな枠組みを示していただいた。


○学生会館の現状報告 東京大学本部環境グループ 迫田一昭氏
<内容>
学生会館の現状と、エコ改修の現状についてご報告をいただいた。いただいた資料を簡単に以下に示す。

■東京大学のエネルギー消費
年間光熱水費 約54億円
年間電力使用量 約3億kwh/年(H19年度) →一般家庭約86,000軒分

■学生会館のエネルギー消費
年間電力使用量 244,240kwh/年 →一般家庭70軒分
電気料金 約340万円/年
単位面積 8.4kwh/月・m2
→文系学部の6kwh/月・m2よりも多い。(教室などがなく人口密度が高いためか。)
CO2 90ton-CO2/年 0.04ton-CO2/m2
消費形態 季節変化なし

■エコ改修予定
建築 断熱、断熱サッシ・複層ガラス
電気 Hf照明器具、照明制御(人感センサー、初期照度補正)
機械 全熱交換機、自動水栓、高効率エアコン、屋外日よけ、エアコンの消し忘れ防止機能

加えて、CO2削減手法には、建築・設備によるもの「ハード」、運用によるもの「ソフト」の二通りがあり、それぞれの長短を見極めつつ、両方の面から対策を施さなければいけないとお話いただいた。ハード面は、使用者に負担を強いず、個人の意識に頼らないので一度導入してしまえば変わらない効果をもつ、一方、ソフト面は個人の意識によるところが大きいものの、使用者が楽しんで実施できたり、ハード面での対策を最大限に活かすことができるできたりと重要な側面をもつ。学生会館は学生が運営していく者である以上、使用方法によったソフト面を考慮していきたい。

また、大学における対策は地味な積み重ね作業であり、限られた資金の中で費用対効果を考えて、社会に還元していくためにも、照明などの一般生活から対策を重ね、東大という大きな組織内での協調をめざして実施じていかなければいけないという。

最後に、現在の学館改修の予定図面を見せていただいた。

平面図立面図

この図も決定ではなくまだ意見を取り入れていきたいとのことである。
いよいよ、具体的に改修をどうしていけばいいのか考えるという段階にいたった。実際の現場で働いておられる迫田氏に直接お話をきけ、質問ができたのは貴重な機会であった。

(E.A.)