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紙リサイクル社会の国際比較調査

7月7日 岸野洋久


1 導入

 私は2年前には駒場で統計学を教えていた。統計学でその意味を分かってもらうためには、ないものから非常に有効な情報を引き出すということを身をもって体験してもらうことが必要だ。

 そして事例として地域調査をしていたが、リサイクル社会を作るのに住民の調査だけでいいのかという疑問がいつも付きまわっていた。住民の調査をすることで本当にリサイクル社会というものを築けるのだろうか。




2 古紙リサイクルシステムと調査対象として紙を選んだ理由

岸野洋久

 私たちの問題意識はそれ以前だったが、3年ぐらい前、円高の影響もあって製紙パルプの輸入価格が大幅に下がり、それに加え、自治体のリサイクル活動の活発化古紙の過剰供給を生んだことがあった。リサイクル活動が活発になるにつれて、回収業者や直納問屋の立場をますます悪くしてしまうという皮肉な結果を生んでしまった。

 この結果わかってくるのは、回収部分でのリサイクルを活発化させてもサイクル全体でうまくいくという保証はどこにもないということだ。そこで私達はこのサイクル全体を見ようとしたが、対象が大きすぎるという問題点がある。

 紙はリサイクルされても紙に戻るので、リサイクルに問題があるとすればそれが顕著に表れて分かりやすいのではないのかという理由で、調査対象を紙にしぼった。

 そこで重要だと分かってきたのは、リサイクル社会においては消費者のリサイクル行動と、消費行動がちゃんと結びついていることが必要だということである。




3 印刷業界自身による調査からみえてくるリサイクル社会の本質

 多少古くなるが、日本印刷産業連合会が1994年に実施した「印刷産業における廃棄物対策に関する調査研究」によると、リサイクル活動を積極的に行っているのは大企業が多いことが見て取れる。この結果からみえてくるのは、リサイクル社会の本質スケールメリットであり、規模の経済であるという事である。

 工場生産においては絶えず一定量の原材料が安定供給されることが必要不可欠である。この点大企業においては、リサイクルに適した良質原料が定常的にまとまった量排出されるため、回収業者も集まりやすく、取引条件も良好に保つことができる。リサイクル意識と同時に経営的観点からも、リサイクル活動に力を入れる利点が生じるのである。これに対して小企業ではリサイクル原料をまとまった量安定供給することは難しいため、回収業者も集まりにくく、また限られた従業員の中からからリサイクル活動に人員を配置するゆとりはない、といった事情がある。




4 紙リサイクルの国際比較

 紙のリサイクルにおいてdeinkingという作業は欠かすことはできない。deinkingとは、回収した紙を溶かしたときに付着していた染料を取り除く作業のことである。

 日本で再生紙用のプラントを1〜2増設をしたことで、古紙の需給バランスが変わってしまった。それくらい古紙の需給バランスというものはマージナルなものなのである。

 ドイツもアメリカも古紙業界は輸出部門が最重要部門になっている。そこで重要なのは必ずしも大量に輸出することではなく、古紙の需給バランスを調節することが一番の目的である。

 しかし日本では輸出できる状態にはない。どこが違うのか。1つ目に規模が違う。2つ目には敷地がない。人がすんでいるところに小学校1つや2つ分の敷地が欧米にはあるが日本にはない。この点からみてもやはりリサイクルは規模の経済である。

 その上、欧米では古紙業者というものはあまりない。基本的には産廃業者である。産廃業者というものはお金をもらって物を集める。それに対し、日本の伝統的な古紙業者は有価物をお金を払って集めている。

 また産廃業者多角経営である。そこでは、古紙でなくてもビンや缶で収支をあわせることができる。このように複雑な要素が絡んでいるビジネスを変えるということは簡単ではない。




紙リサイクルのシステム

5 製紙メーカーと消費者

 次にトイレットペーパーの購買基準として考えられているものが、消費者とメーカーの間でどの程度の違いがあるかを示した調査について考えてみたい。

 使いごこち(habit)、安さ(inexpensive)という要素はメーカーと消費者はどちらも重要視しているが、広告(advertise)、ブランド(brand)、外見(appear)に関しては、メーカーが思うほど、消費者は購入時に重視していない。また、重ね(multiple)、地球にやさしい(earth)という要素に関して消費者は重視しているというのに、メーカーはそれに気づいていないということが調査の結果から分かった。



 次にドイツと日本のリサイクル行動の違いだが、グラフから見ても分かるとおり、あらゆる面でドイツの方がリサイクルに対する意識が高い。

消費者の購入基準とメーカーの推測

リサイクル行動と消費者行動の日独比較
リサイクル トイレットペーパーの使用






6 消費者のリサイクル行動と消費行動

 消費者が使っているものがリサイクル品かまたはバージンのものかを見分けているかを調査した。調査方法はドイツ、日本のそれぞれのバージン、リサイクルについてのブラインドテストである。

盲検法で観察された消費者の材料判定
日本 ドイツ

 その結果、日本の消費者でバージン製品を渡された人の半数以上は、再生製品であると思い違っていたことが分かった。

 次にブラインドテストによるトイレットペーパーの嗜好テストを行うことにより、日独の間での嗜好に大きな違いがあることが明らかになってきた。

盲検法による嗜好テスト
日本 ドイツ


 ドイツではエンボス加工が強めにしてある多重巻き品が好まれていることがグラフから分かる。これはドイツで1960年にトイレットペーパーがロールになって以来のメーカーの生産戦略と技術戦略の歴史というものが背景となってのものである。

 国内調査で訪問した某家庭コンサルティング業務は、短期的には最終消費者である一般ユーザーがリサイクルシステムの動力源となっていることを如実に語っていた。それに対し、日本とドイツの嗜好の基準違いからいえることは、長期的には企業の技術や販売戦略が一般ユーザーの消費意識に大きな影響を与えているということだった。このことからもリサイクル社会でのビジネスの重要性は導かれるであろう。

トイレットペーパーの購入基準
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